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ミューゼ~運命の旋律~音楽の街の落ちこぼれ少女が、音楽に選ばれた戦士【ミューゼ】として戦うことになりました。  作者: 天近嘉人
第二楽章【孤高の白鳥《プリマドンナ》】

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踊るアリア

 ――ヴァル会長曰く、あの黒いお化けは【ヌル】というらしい。


 エルハーモニアに昔から存在していて、人々を“狭間”という世界に引きずり込んでしまう。


 そして引きずり込んだ人間を影のような闇に変えてしまうそうだ。


 

 ――そんなヌルから皆を護るのが、音楽に選ばれた女の子達。



 自分の魂に秘めた旋律を特別な指揮棒で具現化し、衣装として身にまとったり、武器にして戦う。



 ――それが、音楽の街エルハーモニアの守護神【ミューゼ】の真実なのだと。







 「――こら! アリア! リズムがズレてんぞ!!」



 


 舞踏稽古場でそんな怒声が響き渡り、アリアは我に返る。


 「ひゃ、ひゃいっ! ごめんなさいっ!」


 反射的に謝ったアリアは大慌てで声の主へと視線を向ける。


 視線の先では体育教師が腕を組みながらアリアをジッと見つめていた。




 そう、今は体育の授業でバレエの基礎を学んでいたのだった。


 


 「いいか? 歌や楽器だけが音楽じゃねぇんだ。自分の身体を使って感情を表現する。これも立派な音楽なんだぞ! 分かったかアリア!!」


 「ひゃ、ひゃいぃ! 分かりましたぁ!」


 「本当か? 本当にアタシの言ってること分かったのか!?」


 「ひゃいぃ! 分かってます! 本当にバッチリ分かってますぅ!」


 体格の大きい先生がジリジリとアリアに詰め寄り、ムムムと顔を顰めてアリアを見つめる。


 虎に追い詰められたウサギのようにプルプルと震えるアリア。


 先生はそんなアリアにゆっくりと手を伸ばしていき、アリアの頭をポンと撫でた。




 そして――。




 「よぉーし! じゃあアリア、今から踊ってみろ!」


 「ひゃ、ひゃい!!……って、うぇへ!?」


 先生の唐突すぎる言葉に、アリアは大きな瞳を見開く。


 「アタシの言いたい事バッチリ分かったんだろ?  なら、お前の音楽しっかり身体で奏でてみろ!」


 先生はアリアをグイグイと押して、クラスメイトの前へと立たせる。


 そして自身は稽古場にあるグランドピアノに座り、ゆっくりと鍵盤を弾き始めた。



 先生の見た目とは裏腹に、ゆっくりと静かに奏でられる旋律。



 まるで、森林の奥地にある優美で厳格な湖に迷い込んでしまったような錯覚すら感じてしまう。


 「うぅ……ど、どうしよう!」


 そんな演奏の中、アリアは丈の長いジャージの袖をギュッと握りながら立ち尽くしていた。



 音楽の才能が無いアリアは、運動も苦手である。


 徒競走はいつも最下位。

 

 跳び箱も跳べない。

 

 鉄棒もぶら下がるだけでやっとである。



 そんなアリアが人前で踊ることなど出来る筈が無かった。



 

 ――しかし。



 

 ――自分の身体を使って感情を表現する。これも立派な音楽なんだぞ。



 先生の言葉がふと頭に過り、その後ある記憶がフラッシュバックしてくる。



 ミューゼとしてヌルと戦った出来事であった。



 指揮棒(タクト)を振るい、魂の旋律に身を任せて戦った。


 大好きな音楽と一緒に居たいから。

 

 自分の運命を変えたいから。



 (…………あの時は必死で分からなかったけど、私、自分の気持ちを身体で表現出来てたよね?)


 そう思うと自然と足が一歩前へ出る。

 

 そしてアリアは深く息を吐き、先生の伴奏に耳を澄ませた。



 正直まだ少し不安な気持ちもある。



 けど、大丈夫。


 あの時も、そして今も――。


 

 ――音楽が、私の傍に居てくれてるんだから……!




 「い、いきます……!!」


 アリアは足をぎこちなく動かし、自分なりのバレエを始める。


 

 

 音楽に合わせて優雅に。

 


 なんかこう、大人っぽい感じで


 それでいて、なんかこう……鳥が羽ばたく。


 

 そんな、イメージ…………みたいな!




 まるでゼンマイ式の玩具のような、ぎこちないバレエを続けていくアリア。



 足はチョコチョコ忙しなく動き、ズレたテンポで腕を動かす。


 そしてその場でぴょんぴょん小さくジャンプして、ターンで締めようとした時――。



 「――はわ、はわわ!!」


 アリアは完全にバランスを崩し、その場でお尻から倒れ込んでしまった。


 その音が終わりの合図となり、演奏が止まる。


 アリアのバレエに賛辞の拍手は無い。


 代わりにクラスメイトのクスクスとした笑い声と先生のため息だけが聞こえる。


 「…………その、なんだ? お前らしくて良い踊りだったと思うぜ? バレエとしては全然駄目だけどな」


 「ひゃうぅ………」


 先生はアリアの肩を叩いて労いの言葉をかける。


 しかし、アリアは体育座りのまま、真っ赤な顔を自分の太ももに埋めること出来なかった。



 そんなアリアに困った先生は、頭を掻きながら考えをまとめる。


 

 そして。


 

 「まぁ、踊りってのは上手い奴から見て学ぶ事も重要だからな……」


 そう言って先生は視線をクラスメイト達に向ける。


 アリアの惨劇に未だクスクスとザワつく生徒達。


 そんな中、毅然とした態度で座っている生徒がいた。



 「――つー訳で、レイラ。お前が皆に手本を見せてやれ」



 「……はい。分かりました」



 月光で染め上げたような美しい金髪を靡かせて、レイラは前へと歩みを進める。



 レイラの名前と歩くだけで美しいその立ち振る舞いに、周囲は徐々に静まり返った。



 「………レイラちゃん?」



 アリアが顔を上げて、近くまで来たレイラの名前を呟く。



 「…………」


 しかし、レイラは何も言わない。



 代わりに視線だけをアリアにぶつける。




 酷く無感情で、氷のように冷たい視線でアリアを一瞥するだけだったのだ。

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