第7話 信仰と虚構と
ヴァイラス・ダアト・ヴォイド・オブスキュラが廊下を照らす蝋燭を一瞥する。
「……暗愚な王の対応は面倒だ」
そう呟きながら王城の廊下を歩む。
数歩後ろを歩くアイレス・ツァーカブ・キョ-スウが語りかける。
「マスター。マスターが欲しがっているものはここにあるの?」
「ここではヴァイラスと呼べと言ったはずだ。――その問いに答えるなら、所詮は信仰によりそう扱われているだけだ。より正確に言うのであれば、『無い』と言えるであろう」
その答えに、アイレスはどこか他人事のような表情を浮かべていた。
「人は信じたいものを信じる。それが真実かどうか、そんなものは問題とすら思わぬ」
「なんだっけ、『鰯の頭も信心から』だっけ?」
「そんな言葉は知らぬが、まぁどうでも良い。すべては些事に過ぎぬ」
ヴァイラスは謁見の間の荘厳な扉を押し開ける。
「――王よ、お呼びでしょうか」
「ヴァイラスよ! 見よ! 聖剣に錆が生じておるでは無いかっ!」
「……拝見させていただきます」
ヴァイラスは聖剣を王から受け取り、その刀身を見やる。
――点錆が浮かび、その刀身を赤茶色に蝕んでいた。
「これは『源書』の記述に照らし合わせますと、我がヴァルハライト王国への穢れを示していると愚考いたします。ひいては、それを雪ぐ必要があるかと思われますが、王には心当たりがおありでしょうか」
「そんなものがあるわけ無かろう! 穢れをもたらす魔力を持たぬものは『環神の儀』にかけ、神の元へと還らせた。それで穢れが無くなるはずであろう! 違うかっ! ヴァイラスっ!!」
「確かに、イリアス様は神の元へ還られました。その手はずは滞りなく……」
「その名を呼ぶなっ!!」
王が激高しヴァイラスに鞘を投げつける。
それはヴァイラスの身体にあたり、地面に落ち、力無く転がった。
「……失礼致しました。失言をお許しください」
「良かろう。だが、次は無いぞ」
「御寛大な処置、感謝いたします」
ヴァイラスは一息つき、王へと問いかける。
「王はもはや、我がヴァルハライト王国に穢れをもたらすものは無いとお考えでしょうか」
「あるはずが無かろう。あの魔力なき者が生きているはずが無い。そうであろう、セオリス?」
「あの者を置いた場所には、引き裂かれた『源書』の残骸が残されていました。おそらく、獣に襲われたものと思われます。あの者の所持品では生き残ることは不可能かと……」
セオリスは搾り出すようにそう王へと告げる。
握りしめた拳からは、血が滲んでいる。
「……以上の事より、あの者は 」
セオリスはそこで言葉が紡げなくなった。
王はその様子を満足そうに見つめる。
「であれば、我が国に穢れをもたらすものは雪がれたはずであろう。おそらくこの錆はその残滓に過ぎぬ。ヴァイラスよ、鍛冶師の元での研ぎ直しを命ずる」
「――王命、拝命いたします」
ヴァイラスは地面に転がる鞘を拾い、納刀。
謁見の間を後にした。
その背に、王国の安寧を信じて疑わない笑い声を受けながら……。
「で、マスター。結局何でこの『聖剣』は錆びたの?」
「……無意味に触りすぎだ。権威だ祈りだ、誓いだ。そんな児戯に等しい戯れ言の為にな。――所詮は鉄だ。錆びるに決まってるだろ」
「マスター? キャラが抜けてるよ~?」
「……それさえも些事ではあるが、まあ良いだろう」
そう言い、ヴァイラスは22枚のカードを取り出す。
「……これまで長かった。だが、この世界で完結するであろう。あの、イリアス・ケセド・ヴァルハライトがそれを果たす。期待しているぞ――駒はすべて揃った」
「今回は上手くいくといいよね」
「行かせるさ。そうで無いと困るからな」
蝋燭の火が頼りなく揺れ、フッと消えた。




