第49話 世界と信託と
「そうだね。ちゃんと説明すると難しいからさ、簡単に概要だけ説明することにするね」
シルヴィアはそう言うと机の上に30cm四方くらいの箱をひとつ置き、中に膨らませた風船を入れた。
「この風船がボク達が『世界』と呼んでいる存在だと思ってよ」
「……それで?」
「うん。後は、この箱が『時空』って思ってくれれば良いかな」
「時空?」
「じゃあ、この箱の中に風船がたくさん入っていたとしたら?」
シルヴィアは膨らませた風船を次々に箱の中に入れていく。
10個ほど入れたところで、箱はいっぱいになった。
「それが平行世界と言うわけですの?」
「あくまでもたとえだけどね。そして、風船の中からは外に存在する風船を認識することはできない。ここまではイメージできてる?」
「えぇ、なんとなくの概要は分かりましたわ」
「結構。続けるね」
そう言うとシルヴィアは針を取り出し、風船のひとつに突き立てた。
乾いた炸裂音が室内に響く。
「当然、世界に穴を開けることはできない。もしそれができたとしたら、今みたいに壊れてしまう」
「……世界が壊れるのはイメージがわきませんわ」
「まぁ、たとえだからスルーで良いよ。今考えなきゃいけないのはさ、もし風船を割らずに穴を開ける方法があったらどうかな? ってことさ」
シルヴィアは風船のひとつにセロハン粘着テープを貼り付ける。
そしてもう一度針を突き立てるが風船は割れない。
「虚の力は例えるならこのテープみたいな力さ。世界が壊れないように『安全に』世界に穴を開けることができるんだ」
「まさか、その穴と穴がつながった場合に『平行世界の移動』ができると言うことですの?」
「理解が早いね。物理学で言うところの『ワームホール』を無理矢理に造る能力とでも言えば、科学者である君にはわかりやすいかな?」
「……医学・薬学が専門ですので、少々不勉強の分野ですわ」
「……専門外のことも勉強しておいた方が良いよ? 錬金術以外に魔術を勉強して、カードを造った僕が言うのもなんだけどさ」
「……善処いたしますわ」
イリアスが頭を掻きながら考える。
そして浮かんだ疑問をシルヴィアにぶつけた。
「つながった世界はつながったままなんですの?」
「ううん。世界がつながっているのは時間にしたら僅かな時間さ。で、不思議なことに、穴は綺麗に塞がるし、さっき説明したテープの跡も綺麗さっぱり無くなる」
「……あまりにも都合が良すぎでは無くて?」
「そこはほら、ボクが超天才っ! だったからって事にしといてよ。これ以上説明すると学術論文書けちゃうからさ」
「……」
イリアスは思う。
あまりにも荒唐無稽であると。
しかし、理論は通る。
「後は、なんで僕が他の平行世界の記憶を持っているか説明すればだいたい終わりかな?」
「……話が壮大すぎて忘れていましたわ」
シルヴィアは机に3枚のカードを置いた。
「これはさ、『信仰』と『希望』と『慈善』っていう、今のタロットカードには含まれていない3枚さ」
「……それが?」
「これらのカードは無い。だから僕が適当にそれっぽい能力を付与したんだ。『信仰』は『相手の持つカードを1枚コピーする』、『希望』は『状況に応じた最適なカードに変化する』。――そして、『慈善』は『平行世界に存在する同一人物の記憶を得る』ってね」
「……『慈善』だけ、少々毛色が違いません事?」
シルヴィアはため息をついた。
「だから言ったでしょ? 適当だって。無理矢理に理屈をつけるなら、『慈善は誰かのためにすること。故にその誰かが何を求めているか知りたい』ってとこかな?」
「……適当すぎませんか?」
「適当は『適切に当てる』って事だよ? 言葉って難しいよね」
そう言うとシルヴィアは3枚のカードをまとめ、イリアスに手渡す。
「この3枚を君に託すよ」




