第48話 ある愚かな錬金術師の独白
「……錬金術師を科学者が殺した? どういうことですの?」
「もちろん、ナイフで刺したとか、銃で撃ったとか。そんな生ぬるい話じゃ無いよ?」
シルヴィアはコーヒーを一口飲む。
そしてソーサーにカップを置いた。
「錬金術は元をたどると、『世界は何からできているか』を解明しようとしたものだった。それが解明できれば、『金を自在に生み出すことができる』。ついでに『不老不死』も実現できる。って考えに変化していった」
「何かの書籍で読んだ覚えはありますわ」
「そうかい。なら、話は早そうだね。それなら、肝心なところから話そうか。あるところに、『お金持ちになりたい』と願った少女がいた。――その少女は錬金術に目をつけた」
置かれたコーヒーの液面にシルヴィアが写る。
その液面が僅かに揺れた。
「でもあるとき気がついた。『なんか無理そうじゃ無いかな?』って」
「……」
「そして少女は『なら、世界のルールそのものを変えてしまえば良い』って考えた。そして、当時世間で流行し始めていたタロットカードをベースにした22枚のカードを造った。――いや、造ってしまった」
「……」
イリアスは無意識にコーヒーカップを握りしめる。
その手の中でコーヒーが波立った。
「少女はカードに呪われ、永遠の命を得てしまった。その中で『原子』というものを科学者が発見した」
「……」
「その瞬間に、錬金術師達は死刑宣告を受けた訳さ。原子は他の原子に変化しませんだってさ。笑えるだろ? カードを造りさえしなければ、『原子』の存在を知らないまま、ボクは幸せに死ねたのにさ」
シルヴィアは残っていたコーヒーを飲み干し、ソーサーに置いた。
「その後、ボクは研究を続けた。そして22枚のカードに『人の強い欲望』を結びつけ、それをすべて集めると『願いが何でもひとつだけ叶う』ということを発見した。そして、ボクが勝利者となるための出来レースを始めた。要するに、『ボクが死ぬこと』を願おうとしたわけさ」
「……」
「――そして、その中に居たのさ」
「……虚は」
「あぁ、ゲームの勝利者さ。――ボクすら予想しない方法でさ」
イリアスは必死に考える。
得た情報を咀嚼し、反芻し、まとめ直す。
「……ちなみに、その予想しない方法というのは?」
「カードを改変した」
「改変?」
「彼のカードは元々『死神』だった。与えた能力は簡単に言うと、『対象物を殺す・壊す』能力だった。だけどそれを『Alive』というカードに変化させ、『死と生を入れ替える能力』に改変したって訳さ」
イリアスの手は震え、コーヒーが僅かに溢れた。
「不老不死になっても、『生きている状態』を『死んでいる状態』に入れ替えれば――死ぬよね」
シルヴィアは2杯目のコーヒーを入れるために席を立つ。
ついでにイリアスに布巾を投げ渡した。
「……おかしくありませんか?」
「何がだい?」
イリアスが疑問を口にする。
「シルヴィアさんが虚に殺害されたなら、なぜここにシルヴィアさんがいらっしゃるのですか?」
「あぁ、そのことか。説明すると長くなるんだけど、重要だからしておくとするか」
シルヴィアはイリアスのコーヒーカップに2杯目を注ぎ、コーヒーポッドを机に置いた。
「入巣君。キミは平行世界理論って知ってるかな?」




