第47話 邂逅と原点と
(……結局、すべて、虚の手のひらの上)
イリアスは絶望していた。
あたりには何もない。
時間も。
音も。
色も。
――虚無。
(……これが『死』の世界ですの?)
「うん、入巣君さ。キミって科学者なのに、ずいぶんと宗教チックな事を考えるんだね」
「誰ですのっ!?」
どこかから声が聞こえてくる。
イリアスは思わず素っ頓狂な声を上げた。
そして、声が出せたことにまた驚いた。
「後藤君に、『医療に携わる者は冷静であれ。しかし、情熱は忘れるな』って言われてるでしょ。落ち着いて落ち着いて」
イリアスは咄嗟に抜刀をしようとしたが、その手は空を切る。
「ボクの世界にそんな殺伐としたものは相応しくないから、あの世界においてきたよ。――まだあの世界に必要だからね」
「あなたは何者ですの?」
イリアスは問いかける。
その問いに答えるかのように、1枚の扉が眼前に現れた。
「入ってきて良いよ。ちなみにノックは2回までね」
「……無駄にマナーにうるさいのですね」
「君たち日本人はそういうの好きでしょ?」
イリアスはあえてノックをせずに扉を開く。
「いや~ん、えっち。乙女の部屋にずかずか踏み込むなんて」
「……入って良いと言ったのはあなたでしょう」
「もうっ! ちゃんとマナーは守ってよねっ!!」
イリアスは部屋の主を見やる。
腰まで伸びた金髪が美しい。
背丈は自分よりやや高い。
「やあ、入巣京くん。それとも、イリアス・ケセド・ヴァルハライトくんと呼ぼうか?」
「あなたがシルヴィア・バルディーニですの?」
「そだよ~。僕はシルヴィア・バルディーニ。虚君に目の敵にされてる女の子だよ~」
イリアスは部屋を見渡す。
黒檀の机に、豪奢な揺り椅子。
うずたかく積まれた本や書類の数々。
「ここは死後の世界ってことでよろしくて?」
「だ~か~ら~、キミは科学者なのになんでそんな宗教家みたいなこというのさ」
「剣と魔法と宗教の世界に生きていたもので」
「あはは~。まぁそれならしょうがないか~。あのね、ここは僕の精神世界みたいな物だと思ってくれれば良いよ。厳密には違うんだけどね。ちゃんと説明をしようとすると、ライトノベルで2冊分くらいかかるから割愛しておくね~」
シルヴィア・バルディーニはそう言うと、にこやかな笑みを消した。
そして声のトーンを一段階落とす。
「さて、ふざけるのはここまでにしておくね。ここからはちょっとだけ真面目な話をするからさ、椅子に掛けてよ」
「こちらでして?」
「うん、そこ。あとはお茶を入れてあげよう。――ごめん、茶葉無いや。コーヒーで良い?」
「構いませんわ」
「助かるよ。――この世界もあまり長くは持たないからね」
シルヴィアはイリアスの前にソーサーを置き、コーヒーカップの取っ手をイリアスから見て左向きにおいた。
「……妙にマナーに詳しいのですわね」
「そう? 普通じゃ無いかな」
シルヴィアがイリアスの対面に座った。
「さて、何から話そうか」
シルヴィアが少し考える。
イリアスはコーヒーを口に運ぶ。
ほのかな苦みと香ばしい香りが心地よい。
「そうだね。まずは一番大切なことを話すとしようか」
シルヴィアがコーヒーにミルクを入れ、角砂糖を3つ入れた。
よくかき混ぜ、一口飲む。
一息つき、一言だけイリアスに告げる。
「君たち科学者は、ボク達みたいな錬金術師を殺したよね」




