第5話 奔流と拒絶と
「コイツの名前はセラフィナ・イェソド・カバラーナ。歳は13歳だ」
「……どう見ても18歳くらいにしか見えませんけど?」
拘束具をつけられた金髪に紫色の瞳をした少女。
その少女からあふれ出す魔力に、イリアスは怖気を覚えた。
「お前は、『魔力過剰症』って知ってっか?」
「……そういうことですのね。ですがそれでも魔力が溢れ出して居るようですが?」
「……昨日交換したばっかなんだけどな。普通なら1年は持つのに、コイツは1週間が良いとこだ。必要経費って奴だが、少々厄介だぜ」
アニキと呼ばれる商人がやや自嘲を込めた声色で呟く。
イリアスは「聖剣」を拾い鯉口を切り少しだけ刀身を抜いた。
すると、フッと寒気が薄らいでいく。
「……お前、今何をした?」
「この剣は『魔力を拒絶』致しますわ」
「………………本物か? もしそうなら、全財産払ってでも買うが」
「お断りいたしますわ。これは王家のものですので、王家に戻すのが適切ですもの」
「おもしれー女だ。そういう女はキライじゃねーぜ」
「…………………………………キモっ」
アニキと呼ばれる商人がムダに良いスマイルを浮かべる。
イリアスは言葉を選べず、思わず素で呟いていた。
しかし、それはサブと呼ばれる商人の叫びにより一気に危険な様相を示す。
「アニキっ! セラフィナちゃんの拘束具にヒビが!! 今にも壊れそうっすよっ!!!」
「おいっ! マジかよっ!! 昨日変えたばっかだろ!!! 逃げろサブっ!!!!」
イリアスは聖剣を抜き放ち、セラフィナに向けて正眼で構える。
その間にも拘束具のヒビが入り続け、それと同じくして漏れ出す魔力が多くなる。
空間が歪み、静寂に包まれているはずの禁足地に異音が轟く。
そして――拘束具が砕けた。
「……これは、想像以上ですわね」
イリアスは思わず呟いた。
膨大なる魔力の奔流。
そしてそれは一点に収束をしていく。
高濃度の魔力。
純粋な魔力の塊。
そして、その持ち主はイリアスを生気の無い目で見つめて呟く。
「あそこは、まりょくがない。なら、だいじょうぶ」
それは無造作に放たれる。
その一撃は、イリアスへと向かった。
イリアスは裂帛の気合いと共に、一閃する。
「……シッ!!」
その奔流は二つに切り裂かれて霧散する。
そのまま一挙にイリアスはセラフィナの下へ飛び込む。
逆袈裟に切り上げ、そのまま横薙ぎに聖剣を叩きつける。
――それは殺意を込めた一撃では無く、峰打ちではあるが。
「……うっ」
小さくうめき、セラフィナと呼ばれた少女は動かなくなる。
気を失ったようだ。
イリアスはその少女の姿を見やる。
「……やっぱ、源書の聖剣じゃねーか。くれよ」
「お断りいたしますわ」
「まぁ、ムリに奪うのは趣味じゃねー。手放したくなったら言ってくれ。言い値で買うからよ。ってか、それよりもお前、剣術の心得あるんだな。王都の流派とはちげーみたいだけどな」
「……黙秘いたしますわ。――乙女には秘密があった方が魅力的でしょう?」
アニキと呼ばれる商人の問いかけにイリアスは優雅に微笑みながら答え、刀身を袖で拭い納刀する。
「……ちげぇねえな。で、聞きてーんだが。なんで峰打ちにしたんだ? 俺様に面倒を押しつけられるのが嫌なら、そのままぶった切っちゃえば良かったろ?」
「あなたがおっしゃる事が本当でしたら、この子は悪意で利用されてきたのでしょう。そしてあなたが救い出してきた。で、あれば無為に命を絶つのは得策ではありませんわ。違いまして?」
「………予想以上だ。やっぱお前にコイツを託すわ。――頼む、コイツを人間に戻してやってくれ」
アニキと呼ばれる商人はそう言って頭を下げる。
「コイツはある研究所でしょーもねー研究の被害者と言っただろ。そのせいで、魔力を強制的に増強させられている。そのせいか、魔力を感知する能力に長けている。反面、苛烈な実験のせいで感情を失っちまってる。――ある意味、人形みてーなもんだ」
「あら、それは違いまして」
イリアスの答えに、アニキと呼ばれる商人は「何を言ってんだコイツ」という表情を浮かべる。
「この子は先ほど、『あそこにはまりょくがない』と言って魔力の塊を投げてきまして。ということは『被害を最小限にできる場所を選ぶことができた』ということになりますわ」
「……だが、お前が居ただろ」
「それは簡単ですわ。私に魔力が無い事に加えて、聖剣の魔力拒絶能力で魔力が極端に薄くなっていた。この子にはそれで『魔力が無い』と判断したのでしょう」
「……なるほどな。やはり俺様の目に狂いは無かったようだ」
だが、そこでイリアスは少しバツの悪い表情を浮かべる。
「ただ、聖剣の魔力拒絶で『拘束具の魔力抑制をする魔力』すら拒絶してしまったようで、壊してしまったのでは無いかと思いますわ。――まぁ、確かめようのないことなので些末な問題ですわ」
「……なら、どうすんだよ。常に聖剣でドツくわけにもいかねーだろ」
「なので、私に考えがありまして」
そう言ってイリアスは自分の数少ない荷物を漁り、小瓶を取り出した。




