第45話 虚実と虚勝と
「と言うわけでして、こちらが回収してきた魔道具になりますわ」
ヴァルハライト王国、謁見の間。
時刻は昼過ぎ。
外は今にも雨が降り出しそうになっている。
「なるほど。虚に持たされた物に酷似しているね」
「えぇ、それと元騎士団長様がお持ちでした物とも似ていますわね」
イリアスはアンドレイがその場に残したカードを国王陛下に提示する。
「……グーレイさんにお兄様が渡されたものはお見せしたのですが、『よく分からない』と言われてしまいましたわ」
「そうか……」
セオリス国王陛下は顎に手を当てしばし考える。
そして一人の名を挙げた。
「それなら、ヴァイラスさんを呼ぶとしようか。グーレイ殿とは専門が異なる彼女であれば、何か分かるかもしれないな」
「お兄様がそうおっしゃると思い、先に声はかけておきましたわ。もうまもなくいらっしゃるかと思いますわ」
イリアスがそう言うと、扉が静かに開かれる。
「……ヴァイラス・ダアト・ヴォイド・オブスキュラ、イリアス様の依頼により参内いたしました」
「お手数をおかけして申し訳ありませんわヴァイラス様」
「構いません。それで何を?」
イリアスはヴァイラスにカードを見せる。
「お兄様がこれを渡されておかしくなりましたわ。そして、アンドレイ最高戒告官様もおかしくなっておりました」
「手に取っても宜しいですか?」
「ヴァイラス様がおかしくならない保証はありませんわ。なので、申し訳ありませんがお断りさせていただきまして」
ヴァイラスは小さく舌打ちをする。
イリアスはそれに気がつかず、話を続ける。
「ヴァイラス様、人の心を惑わす魔道具に心当たりはおありですか?」
「……いくつかはあります。ただ、国王陛下の蛮行を聞き及ぶ限りでは、『人の望みを叶える』ように見受けられます」
「『人の望みを叶える』ですの?」
ヴァイラスはカードを見つめたまま話を続ける。
「えぇ、国王陛下は『いりあすのしあわせのために』と言いながらあのような行動をしておられました。更にアンドレイ最高戒告官は『救済』と称して行動を起こしていた。そのことからの推測になります」
「……筋は通りますわね。最も、歪んでしまっているようですが」
「その通りです。ですので、我のように欲望を制御する訓練を積んだ者であれば、そのカードを持つことで変異が起こることは無いかと思われます」
「……分かりましたわ。見ただけでそれだけ分かるのであれば、お渡ししても大丈夫そうですわね」
イリアスはヴァイラスにカードを差し出す。
そこで僅かな引っかかりを覚えた。
「…………カード?」
イリアスは手に力を込める。
「イリアス様。いかがなされました?」
「ヴァイラス様。――なぜあなたは今、英語を使ったのですか?」
「……っ!」
ヴァイラスはイリアスの手からカードをひったくる。
イリアスはセラフィナに向けて叫ぶっ!!
「セラっ!!」
「燃えろっ! 大火槍!!」
セラフィナの刺突がヴァイラスを貫いた。
――かのように見えた。
「……保険はかけておくに限るな」
「だからマスターはツメが甘いって言ったんだよ~。まぁ、そういうところ嫌いじゃ無いけど」
「軽口が過ぎるぞアイ」
謁見の間。
その扉の陰からヴァイラスは姿を現す。
「……Surfaceの効果」
「正解だ。まぁ、あまり意味は無いがな」
ヴァイラスは顔を笑みの形に歪めた。
「――完全勝利をした故に緩みが生じてしまったが問題は無い」
「つまり、マスターが馬鹿ってことかな?」
「……黙れ、アイ」
イリアスは抜刀し、構えた。




