第43話 勝利と敗北と
「やはり虚様のお力は偉大でありますね。どんな人間であっても、生きていれば必ずや死という名の救済が訪れる。後はそれが早いか遅いかだけとなります。そうは思いませんか。――実験体第93番?」
「……っ!! なんでっ!! ソレをっ!!!」
セラフィナが歯ぎしりをする。
「えぇ、当たり前ではありませんか。信者どもから巻き上げた金を、あの研究所に出資していたのですから」
「……それも、『救済』って言うつもり、ですか?」
「当たり前ではありませんか。大火槍とかいう、うさんくさい『源書』に存在する騎士。それを人工的に再現する? えぇ、もしそれが実現すれば、救済が早まるではありませんか。失敗したとしても、世界を破壊できるだけの力を秘めた存在ができあがるではないですか」
「……」
「研究所を下等な商人に破壊され、限りなく成功に近い実験体も失われた。ですが今、ここにその実験体第93番が立っている。――やはり、研究所の見解は間違っていなかった」
「……黙れ」
セラフィナがそう呟く。
それはまるで地の底から聞こえてくるかのように冷え切っている。
「……お前のせいだ。――お前のせいで、たくさんの人が死んだっ!!」
「えぇ、存じておりますとも。ですがたった90人ほどでしょう?」
「……殺す」
セラフィナが大火槍を構える。
しかし、それを一人の少女が手で制した。
「セラ、こんなのはあなたが手を下すまでもありませんわ」
アンドレイが常の冷静さを失い、素っ頓狂な声を上げる。
「なぜですかっ!? 『救済』を差し上げた筈ですよっ!? ありえないっ!!」
「……お前ごときに救えるほど、軽くない――って事ですわ」
イリアスは聖剣を構える。
「一つだけ手がかりを与えるなら、聖剣ですわね。――まぁ、『源書』の教えに背信した方には難しいでしょうが」
「……嘘だ。 嘘だっ! 嘘だぁっ!!」
「あら、人工大火槍の騎士作成計画に出資をされていたのに、聖剣のことは信じていないようでして。残念なのは『源書』への信仰心だけにしていただけて? ――頭も残念ですと、少々可哀想になって参りますわ」
「……お姉様、煽りすぎです」
「これくらい言わないと分からないと思いますわよ? 少々砕けた言い方をしますが、この方は馬鹿ですもの」
セラフィナも大火槍を構える。
「命を奪うのは本意ではありませんわ。その魔道具を捨てて投降していただけまして?」
「断るなら――燃やす」
詰み。
しかし、狂信者は――笑った。
「虚様からいただいたお力。この力がある限り負けはしない」
「無駄でしてよ? 私は聖剣で魔力的な影響を受けませんわ」
「だが、そっちの小娘は死ぬだろ」
アンドレイが「虚弱」のカードを構える。
しかし、投げつけられた木の棒がそれを弾き飛ばした。
「……ダリウスぅっ!!!」
「…………戒告官は『源書』の神以外を信ずるべからず。その教えに背いた時点で――お前は終わりだ」
弾き飛ばされたカードを拾おうとアンドレイが屈む。
「黒衣流、――送り灯籠」
その体をイリアスが峰打ちで一閃。
返す刀でセラフィナの元へアンドレイの体を投げ飛ばすっ!!
「セラっ!!」
「爆ぜろ大火槍っ!! ――弐式、蒼焔!!」
大火槍の穂先が蒼い炎に染まる。
その一撃がアンドレイの体を貫く。
アンドレイの体から黒い霧が浮かび、「虚弱」のカードへ吸い込まれていった。
「……蒼焔は魔力を焼き払う。『源書』に記されている通りですわね」
イリアスがそう呟く。
アンドレイの体には傷ひとつ無く、血の一滴も流れていない。
「……Surface。Surfaceっ! Surfaceぅぅぅぅぅうううううう!!!!!!!」
アンドレイが手元に残されたもう一枚のカードを使おうとする。
しかし、それが光ることはない。
「もう終わりですわね」
イリアスがそう呟いたときだった。
『愚者。正位置<能力借用>Surfaceの逆位置<レイヤード・デコイ>』
どこかから声が響き、アンドレイの元に空間の裂け目が産まれる。
その中から現れた手がアンドレイの体をその空間に引きずり込む。
「……逃がすかっ!!」
イリアスは右腰に差していた短剣を、空間の裂け目に向けて投げつける。
短剣が空間に吸い込まれるのとほぼ時を同じくして、空間の裂け目は消えた。
後には「Weakness」のカードだけが残されている。
「……」
イリアスはしばし動きを止める。
壁に向かい歩を進め、頭を壁に打ち付ける。
「畜生っ!! 逃げられたっ!!」




