第42話 断罪と敗北と
「これはこれは、どなたかと思えばダリウス・ゲブラー・セントライルさんではありませんか。本日はどのような御用向きですか?」
「貴様は偽神を信仰し、頭だけでなく耳まで悪くなったようだなっ! 貴様を断罪するっ!! そう言ったはずだっ!!」
ダリウスは手に持った木の棒でアンドレイに殴りかかる。
その一撃が脳天に突き刺さる寸前、アンドレイはカードを掲げその攻撃を受け止める。
ダリウスは飛びすさり、距離を取る。
そして、油断なく棒を構え問いかける。
「貴様っ! なんだそれはっ!!」
「これこそ真なる神、虚様からいただいた神の力となります」
「はっ! 偽神ごときを神と崇めるとは、墜ちたものだなアンドレイっ!!」
「最高戒告官に対して口を慎みなさいダリウス」
「生憎、もう尊敬してないからなっ!!」
ダリウスはアンドレイを睨み付ける。
僅かでも隙を見せたらたたき伏せる。
そう言外に伝えながら。
「やれやれ、無知蒙昧たる愚鈍な者は困りますね」
「お前こそっ! 虚だか、有象だか知らないが、そんな偽神を信仰するのは悪であるっ! 『源書』の神々を信仰せよっ!!」
「……あんな役に立たない者を信じて、足下をすくわれるのはごめん被ります。――もう二度と、信じるか」
吐き捨てるようにアンドレイが侮蔑の言葉を漏らす。
そして、カードを掲げた。
「では折角ですので、虚様からいただいた加護の一端をお見せいたしましょう」
「その前に打ち据えるっ!」
「Surface 逆位置<木偶人形>」
ダリウスの一撃がアンドレイを捉えた。
しかし、その体は霧散した。
「なにっ!?」
「終わりましたか? どうやら、あまり意味はなかったようですが?」
「ならばっ! 当たるまで攻撃をすれば良いだけのことっ!!」
ダリウスが必殺の一撃を繰り返す。
その攻撃はアンドレイの体を捉えるが、そのたびに霧散していく。
「もう、諦めてはいかがですか?」
「……お前も、元上司なら知ってるだろっ! 諦めの悪さだけはっ!! 戒告官の中で一番悪いってことをっ!!!」
「えぇ、そうでしたね。では致し方ありません。神の名の下に裁きを与えましょう。Weakness 正位置<凋落の疾病>ダリウス・ゲブラー・セントライルに魔力流出症を発病させなさい」
「そんなものっ! 効くかっ!!」
ダリウスが一歩踏み込み、アンドレイの体を殴りつけようとする。
しかし突如として倒れ伏し、その体から魔力が漏れ出し始める。
肩で大きく息をするが、呼吸が乱れているのが見て取れる。
「セラっ!!」
「燃えろっ! 大火槍っ!!」
セラフィナが大火槍を展開し、周囲を灼熱に包んだ。
「……ほう、魔力流出症の対処法をご存じで。どうやら、学識の高い方とお見受けいたします。そのような方でしたら、虚様の崇高さをご理解いただけるのではないかと存じます。どうでしょうか。共に虚様を信仰しようではありませんか」
「あまり褒めていただいても嬉しくありませんわ。当然のことをしたまでですので。それと、その虚という方は個人的な恨みがありまして」
「虚様に恨みをお持ちなのですか。ですが、虚様はそれでも赦してくださると思います。どうでしょうか」
「お断りいたしますわ」
「……見解の相違ですね。致し方ありません」
アンドレイがカードを掲げる。
それに応えるかのように、イリアスも抜刀する。
「ところでお嬢さん、お名前は何というのでしょうか?」
「言うと思いまして? 先ほどのダリウスさんにしたことを観察いたしましたが、病気にするには名前が必要なのでしょう?」
「えぇ、そうです。ですが、神の名の下には隠し事は不可能ですよ。Surface 正位置<表層崩壊>最高戒告官に対して、汝の名を名乗りなさい」
イリアスの唇が震える。
答えたくない問いに対して、必死に抵抗するかのように。
しかし、その口から言葉が溢れる。
「……イリアス・ソフオウル」
「……っ! お姉さま!?」
「そうですか。イリアス・ソフオウルですか。――結構です。これで、あなたにも裁きを下せますね」
「…………殺られる前に、殺るまでですわっ!!」
「先ほどのダリウスさんを見たでしょう? それは徒労に終わりますよ」
イリアスがアンドレイに飛びかかり、剣戟を放つ。
しかし、アンドレイの体は先と同様に霧散する。
「虚様は『多用はできないが、このような使い方もできる』とおっしゃっておりました。Weakness 正位置<凋落の疾病> イリアス・ソフオウルの心臓を停止しなさい」
「くっ……! ちくしょ、う、が……っ!!」
必死の一撃はアンドレイに届かず空を切る。
少女の動きが止まる。
「……く……そ……っ!」
――イリアスの体は力なく地面に崩れ落ちた……。




