第40話 葬送と覚悟と
「これで遺体はすべて荼毘に付したか」
「……魔力流出症にかかって死んでしまった人は焼く事。そうでしたわね」
「……同志も神の元へ還った。――失礼。『環神の儀』に掛けられた者に対して、不用意な発言であった」
「…………構いませんわ」
ダリウスはイリアスの握られた拳を見る。
小さく震える手。
それを見て、決意を固めたように叫ぶ。
「――やはり、現在の最高戒告官は悪である。断じねばならないっ!!」
「……ほぼ確定ですが、まだ最高戒告官が悪と決まったわけではありませんわ。誰かの傀儡ということもありまして」
イリアスが小さな声でそう零した。
周囲には肉が焦げる嫌な臭いが漂う。
イリアスには、その臭気は心に降り積もる黒い灰のように感じられた。
「……ですが、きっと何か知っていることは確かですわ。――襲撃するといたしましょう」
「……お姉様?」
セラフィナがイリアスの拳を包み込む。
イリアスの手の震えが僅かに弱くなる。
「今のお姉様は、お姉様らしくありません」
「っ!! あなたに何が分かるのかしらセラフィナっ!!」
「分からないですよっ!! 何も言ってくれないのに、分かるわけないっ!!」
セラフィナの目から涙がこぼれ、地面に落ち、大地に吸い込まれて消えた。
「……言ってくれないと分かるわけ無いじゃないですか」
「……………ごめんなさい、セラ」
イリアスの手から震えが消えた。
「……昔、私は人々を救うために、害となる虫を殺す研究をしていましたの。――それが人の役に立つと信じて」
「……」
「……対象が虫であったとしても、ある意味では命を奪う研究ですわ」
「…………」
「昨日、人が次々と死んでいく中、思い出してしまったのですわ。『虫が期待したとおりに、効率よく死んでいく。それは、とても楽しい』という気持ちを」
「………………」
「……幸い、私には頼りになる先輩がいたので、人の道を踏み外さずに済みましたわ。――全力で殴られるなんて、あのときが最初で最後でしたわ」
右の頬をイリアスは触る。
後藤方舟に「おいっ! この馬鹿女っ!!」と言われて殴られた。
研究者としての成功体験と、命を奪うことの全能感が結びつく。
その危険な領域から帰ってこられた。
――時は経っているが、それを思い出す。
「――私たちの敵は、おそらく病気に関する力を持っていると思いますわ」
「病気に関する力……」
「えぇ、そうで無ければ説明ができませんもの。魔力流出症があれだけ急に進むなんて。そうですわよね、戒告官兼、魔力流出症研究者のダリウスさん」
「無論だ。魔力流出症は本来、年単位での進行となる。少なくとも、昨日今日発病してすぐに命が失われることはあり得ないっ!」
イリアスはカードを取り出す。
「ダリウスさん。確か、今の最高戒告官はコレに似たものを持っていたとおっしゃっていましたわね?」
「そうだっ! それがどうしたっ!!」
「先に情報共有をしておきますわ。コレは特殊な魔術を発動する事ができる魔道具のような物ですわ」
「……何だとっ!?」
イリアスは手を伸ばしてきたダリウスを避けるようにして、再びカードを仕舞った。
「もっとも、使える人と使えない人が居るようでして。私がコレを持っていても平気ですが、セラやダリウスさんが持ったらどうなるかの保証はありませんわ」
「……つまり、何が言いたい?」
「確信はありませんわ。ですが、私の中ではほぼ確定でして。――最高戒告官はコレに似たものを使って病気を引き起こしている」
「……お姉様、同じ説明2回してます」
イリアスはしばしぽかんとした後、気まずさをごまかすかのように咳払いをした。
「……説明ではありませんわ。推理の論拠を示しただけでして」
「本当に?」
「……本当ですわよ?」
「やっぱり、お姉様、いつもと違う」
セラフィナはそう言うと、イリアスの手をしっかりと握り直す。
「お姉様、セラは頼りない?」
「そんなことありませんわ」
「なら、もっと頼ってくださいっ!」
ダリウスはそんな二人を見て、あきれたように声をかける。
「……姉妹喧嘩はその辺にしてくれないか。まだ、葬儀の途中だ」
「「あっ」」
無数の骨を源書に則り、魔法を用いて骨を砕く。
粉になったそれは風に舞い消えていく。
ダリウスは祈りの言葉を捧げた。
「同志よ、先に逝って待っていろ。必ず同志の仇は討つ。そして、この町の人々の恨みも晴らす。――それまで」
ダリウスはそこで言葉を切った。




