第39話 盲信と偽救と
「人は救われなければならない」
ここは神殿。
戒告の間。
その荘厳な空間にはひとりの男。
あたりには人は無く、空気が澱んでいるように感じられる。
時刻は夜半を過ぎた頃。
集めた魔力を、カードに納めて呟いた。
「しかし、人々は自らの悩みを隠してしまう。しかし、虚様はおっしゃられた。『隠したものですら暴き、それを解決すること。それが人を救う道である』と」
男が持つカードは「Weakness」。
暗闇の中、膝を抱え、鎖でその体が縛られている。
足下にはどこかから舞い落ちたであろう木の葉が積もり、半ば土と化している。
「虚様にいただいたこの札は素晴らしい。『病』と言う形で人々の中に隠された『魔力』を暴くことができる」
カードが怪しく光り、漂っていた魔力が吸い込まれる。
「人は無用なものを持つから悩むのです。それならば、無ければよい」
男はカードを仕舞い、傍らに立つ従者を見やる。
その従者は表情が無く、まるで人形そのもののようであった。
音もなく、男に近づく。
「魔力は不要」
男は従者から外套を受け取り、羽織る。
「感情は不要」
席を立つ。
「思考も不要」
別の従者から錫杖を受け取る。
「人は不要なものを持ちすぎているのです」
錫杖を地面に打ち付ける。
「――それらはすべて虚様にお返しするべきなのです」
男は薄く笑った。
「戒告に来ていただけない方々は、隠すものの無い心清きもの達です。故に、『病』という名の祝福を与えました」
男はカードを取り出す。
「戒告に来た者は隠す物のある心悪しき者。故に、『死』という名の救済を与えます」
そして男は呪詛を放つ。
「イマジナリーナンバー8、Weakness<正位置>凋落の疾病。戒告に来た物どもに『死』という名の救済を与えよ」
室外から人々が倒れる音が聞こえる。
男は静かに目を閉じた。
そして満足そうに頷くと、部屋の窓を開け放つ。
眼下に広がるのはゴミのように転がる人々の姿。
「さて、明日はどなたが救済を求めて戒告に来ていただけるでしょうか。そして、幾つ掬えるでしょうか」




