第37話 疑念と確信と
「あら、おひとりですの?」
イリアスは問いかける。
「……お前のような、うさんくさい奴を調べるならひとりでいい。最悪でも犠牲は1人で済む」
「源書の『騎士、死に役を仰せつかる』ですわね」
「……お前、どこで『源書』の教育を受けた。民間ではその章は学ばないはずだ」
イリアスは優雅に外套の裾を掴んで、カーテシーのようにして礼をする。
「私は、ヴァルハライト王国第一王女、イリアス・ケセド・ヴァルハライトですわ。以後、お見知りおきを」
「……あり得ない。」
「あら、何がかしら?」
「イリアス・ケセド・ヴァルハライトは先王の時代に、『環神の儀』に掛けられたはずだ」
「えぇ、無事に生き延びましたわ。そして、現国王陛下。セオリス様にこちらを下賜していただきましたわ」
イリアスは外套を脱ぎ、聖剣を見せる。
「……『祝福』か」
「理解が早くて助かりますわ。筆頭戒告官、ダリウス・ゲプラー・セントライルさん?」
「…………『前』ではあるがな」
ダリウスはそう言うと、手に持っていた木の棒を地面に置いた。
イリアスも腰に差していた刀を抜き、地面に片膝をついて置く。
「……イリアスとやら、ヴァルハライト王国の王女というのは真実のようだな」
「えぇ、『源書』の『勇者、配下に礼を尽くす』の場面に書かれている武装解除方法ですわね。――趣味が良いですわね。試したのかしら?」
「ヴァルハライト王国と我が国の2カ国のみ。この2国に存在する正式な『源書』にのみ記載されている内容である故、これが一番早く確かめることができる。――非礼は詫びさせていただく」
イリアスは外套を、聖剣の横に畳んで置く。
「ところで、イリアス王女殿下はなぜこちらへ? そして、このダリウスの名をどこで?」
「……王都で少々問題を起こしまして。その責任として、ある魔道具の情報を集めてくるようにと言う王命を受けておりますわ。――ダリウス様の名は、先王陛下時代にヴァイラス神官長から紹介していただいておりますわ」
「ヴァイラス殿か……。では、ヴァイラス殿の名の下に話せることはお話致しましょう。それで、何を調べていらっしゃるのですか? わざわざ王女殿下を派遣なさるほどの案件。――相当なものでしょう」
ダリウスの問いかけにイリアスは答える。
「この国において、宗教の形が歪んだ。そう、とある方からお伺いいたしまして。その歪みに私が調べている魔道具が関連しているのでは無いかと、思った次第ですわ」
「……直球なのですね」
「婉曲にしても仕方が無いでしょう」
ダリウスは少々考える。
「場所を変えましょう。ここでは偽戒告官どもに聞かれかねない。申し訳ありませんが、少々ご同行いただけますか?」
「分かりましたわ」
それからしばらく歩く。
荒れ果てた一軒家にたどり着く。
ダリウスは扉をノックする。
<悪い木は?>
「すべて切り倒され、火に投げ込まれるであろう」
ダリウスが問いかけに答える。
それが合い言葉であったのであろう。
一軒家の扉が軋む音を立てながら、開かれた。
「……少々、部屋を借りたい」
「ダリウス様の頼みであれば」
「助かる。イリアス様、こちらへ」
ダリウスの導きで地下室へ向かう。
「こちらは?」
「拠点のひとつになります。どうぞ、おかけください。――生憎と茶葉は切らしておりまして、失礼ですが水でご勘弁を」
「お気遣いなさらず」
イリアスは出された水を飲み干す。
「……そろそろ試すのはやめていただけませんか? ダリウス様?」
「失礼致しました。信用はしているのですが、生来の気質でして。ご容赦願います」
ダリウスが新たに水を注ぐ。
「それでイリアス様。確か魔道具を調べておいでだと?」
「えぇ、こちらですわ。――あ、手を触れるのはやめていただけませんか? 少々危険でして」
イリアスは外套のポケットから1枚のカードを取り出す。
それは「Malicious Angel」と書かれた1枚のカード。
「……似たようなものを、偽最高戒告官が持っていたと思います」
「本当ですの!?」
イリアスは思わず身を乗り出す。
水が入っていた器が床に落ち、割れた。
「それを偽最高戒告官が手に入れてからでした。『『源書』の神は人を救わない。唯一人々を救えるのは『虚様』ただひとり。『虚様』こそ、唯一にして至高の神』と言い出しました。そして、その名に従わない我々のようなものは追放や、処刑。そして、後は今の惨状です」
「……ここでも『虚』がでてくるのですのね」




