第36話 静寂と暴動と
(やはり、遅々として進みませんわね……)
戒告に向かう列に並ぶイリアス。
その列は朝から僅かに進んだ程度。
時間が掛かることを見越して買っておいた携帯食を口にする。
少々気分が悪く、あまり食は進まない。
(列の周辺には飲食店の出店。わかりやすいくらい、戒告待ちの人々を対象にしていますわね)
現在は昼過ぎ。
列を離れ、食料を買い、列に戻る。
元々並んでいた場所へ戻ることが、当然のように受け入れられている。
列を離れ、帰ろうとする人間は皆無。
まるで砂糖菓子に群れる蟻のように、整然と並んでいる。
(……あまりにも整然としすぎていますわね)
買ったばかりの外套で隠した聖剣に、イリアスはそっと触れる。
――僅かではあるが、うっすら感じていた気持ち悪さが軽減された。
(……聖剣の力で気持ち悪さが軽減される。おそらく、魔力による干渉のようですわね)
列に並んでいるだけの時間。
イリアスはひとり考える。
(――行動を操ったり、思考を操ったりするものでしょうか。そうと仮定すれば、この異常とも言える秩序に説明はつきますわね)
と、イリアスが考えていたときであった。
「現在の戒告官どもは偽神を信仰しているっ!!」
野太い叫び声が街の中に響いた。
「偽神を信仰することは『源書』において罪とされているっ!! 故に、戒告官どもは断罪されねばならぬっ!! 我々はそのために立ち上がった義士であるっ!! 聞けっ!! お前らにまだ『源書』を信じる気持ちが残っているのであればっ!!」
イリアスはそちらを見やる。
そこには5人の神官服を着た人々が立っている。
全員、背の高さと同じくらいの長さをした木の棒を持っている。
(『源書』の『騎士、神官を従え、偽勇者を調伏す』に書かれている服装ですわね)
しかし、イリアス以外に反応を示したものは――いない。
(……宗教で『偽神』と言われれば、普通は動揺なり反抗なりするはずですわね。場合によっては、暴動に発展することもありますわね。――しかし、この方々は)
イリアスは考える。
(となると、ここで待っていても時間ばかり浪費しますわね。それならば、あの方々に話を聞くのも一つの手ですわね。――そのためには、『源書』の一節を)
イリアスは列を離れ、食品を売る露店に向かう。
そして「財布を忘れてしまいましたわ、残念ですが今日はこれで……」とわざとらしく言う。
神官服を着た人々はイリアスに目を向ける。
イリアスは僅かに神官服を着た人々に視線を送り、路地裏に消えた。
「……『勇者、魔女の誘惑を断つ』の一節」
神官服を着た人々のうち、ひとりが呟く。
「――お前、いけるか?」
先に叫んでいた人物が、傍らにいた人物に問いかける。
「はい」
呼びかけられた男は、イリアスが消えた路地裏へ向かった……。




