↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/52

第34話 違和と疑念と

「……アニキさんの言ったとおりでしたわね、セラフィナ。」

「……なんか、みんな良い笑顔ですけど。――何というか、『心ここにあらず』って感じですね」


 セントライル宗教国。

 この国では「源書」に基づいた生活が営まれている。

 ――最高戒告官(かいこくかん)が変わる以前までは、であるが。


「代替わり程度で宗教が変化する事ってあるんですか、お姉様?」

「――割と事例は聞きますわね」

「じゃあ、それが原因なんですかね?」

「それにしては、違和感が拭えませんわ」


 酒場に入り、席に座る。

 時刻は昼過ぎ。

 やや、客席はまばらになり始めた頃。

 しかし、酒場の窓からは行列を作る人々が見て取れた。


「……戒告場へと続く行列でしたわね」

「それにしては、長すぎませんかお姉様?」

「――ヴァイラスさんが似たようなことをしていまして。その時に掛かっている時間から計算すると、最後の方は明日になっても戒告場にたどり着きませんわよ?」

「そんなにですか!?」

「えぇ。だからおかしいと思ったのですの」


 イリアスは運ばれてきた食事に手をつける。

 膝に敷いていた私物のナプキンで、口を拭う。

 セラフィナもそれを真似した。


「おい、嬢ちゃん。ここはそんなお貴族様のような仕草をする店じゃねーぞ!!」

「あら、これは失礼を致しまして。何分、行儀見習いで預けられていた期間が長いもので」

「へぇ、良いとこのお嬢ちゃんって事か?」


 酒場で飲んでいた粗暴な印象を受ける男に話しかけられる。

 よく見ると、身につけている武器や防具は実用本位な頑強さ。

 華美を嫌った洒脱な装い。

 故に、イリアスは試すように問いかける。


「……『酒場での縁は酒場だけの縁』ですわよね?」

「……『源書』の『勇者、女悪魔の誘惑を断つ』か」

「えぇ、であれば、おわかりですわね?」


 そう言ってイリアスは片目をつぶった。


「……訳ありって事と、詮索されたくないって事は分かったぜ」

「話が早くて助かりますわ。ところで、失礼ついでに一つお聞きしても?」

「嬢ちゃん、ずうずうしいって言われないか?」

「褒め言葉と受け取っておきますわ」

「………負けたよ。答えられることなら答えてやるぜ?」


 男は肩をすくめ、イリアスからの問いかけを待つ。


「ではお聞き致しますが、現在の最高戒告官様は『源書』を元にして活動をしていらして?」

「……嬢ちゃん、まるで今の最高戒告官が『源書』と違うことをしてるみたいに言うな?」

「この国に来て受けた印象ですわ」

「……」


 男は沈黙する。

 イリアスは机に置かれた飲み物を、優雅な所作で飲む。

 男は話し出す。

 その声は、掠れている。


「……言えない」

「言えない、とはどういうことかしら?」

「それを言ったら、捕らえられる。――これで察して貰えると助かる」

「分かりましたわ。ご協力感謝いたしますわ。お礼にここは奢らせていただくとしますわ。――行きますわよ、セラフィナ」


 席を立ち、店を後にする。


「……お姉様、良かったんですか?」

「何がかしら?」

「あの人、きっと何か知っていると思います」

「……セラフィナ。あなた、水を絞った雑巾からまだ絞れると思っていて?」

「……?」


 セラフィナの顔に疑問符が浮かぶ。

 イリアスは一つため息をつき、その疑問に答える。


「良い事? あの方は『言えない』と言ったのですわ。私がしたのは拷問や尋問ではなくってよ? それなら、もう終わりということですわ」

「でも」

「あれ以上聞いたら、あの方の命に関わるのでしょう。だから話を終わりにしたのですわ。それに――」


 イリアスは言葉を切り、行列の先をにらむ。


「雑巾から水を絞るためには、しっかり濡らす必要がありましてよ?」


 イリアスは露店に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。