↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/52

第-50話 そして、一匹の獣が産まれた……

 これは、数多ある平行世界。

 その一つの世界での話。


「キミを殺すには、――このカードの能力が一番かな?」


 七色の髪をしたゲームマスター。

 シルヴィア・バルディーニは1枚のカードを取り出す。


「――『愚者』の正位置、<能力借用>。『死神』の正位置、<終焉の宣告者>。対象は露刺朝陽」

「――っ!! ふざっ け…… 」


 俺の意識は闇に墜ちた。

 あたりには何もない。

 ――これが死。


(……ふざけるな)


 心の底から、どす黒い感情がわき上がる。


(ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな。俺からすべてを奪って、あげくに命まで奪うだと? ふざけるんじゃねーよ、クソ女っ!!)


 赤沢ねぇ、月代さん。それに、思い出したくも無いが、後藤方舟(アーク)の顔が浮かぶ。

 ――あのドブカス女が、殺した。


(ふざけてんじゃねーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!)


 俺はスーツの胸ポケットから、「死神」のカードを取り出す。

 そして、そのカードに自らの血で乱雑に「Alive」と記した。

 その文字は赤黒く変色し、カードのイラストを変えていく。


(……カードが、変わる?)


 カードにはベッドに横たえられ、数多の点滴を投与されている人物が描かれている。

 腹部から伸びる袋。

 下半身につながれた管。

 その顔に生気は無い。

 生きる屍(リビングデッド)。

 しかし、それでも「生きて」いる。


「……ふふふ、はははは、あははははははははははははははははは!!!!!!!!!!」


 なぜ俺は。

 否、我は。

 こんな簡単なことに気がつかなかったのだろう。

 力は与えられるものでは無い。

 ――利用するものだということを。


「……さて、ゴミ掃除に向かうとするか。『Alive(せいじゃ)』逆位置、<死(デッド・)生反(リバースド・)転(アライバル)>」


 そして、我の意識は浮上した。


「……何でキミは生きているのかな? 答えろ、露刺朝陽っ!!」

「これから死にゆく貴様に答える義理はないだろう」


 我は一枚のカードを掲げる。


「なんだそのカードは! そんなカード、ボクは知らないぞっ!!」

「――『Alive(せいじゃ)』逆位置、<死生反転>。対象はシルヴィア・バルディーニ」

「クソっ!! 『愚者』正位置、能力借用。『死神』正位置……」

「無駄だ」

「なんで、打ち消せな……い……」


 そして、不死のシルヴィア・バルディーニは死んだ。

 我はその死骸を蹴り飛ばす。

 不死だろうが何だろうが、「生と死」の状態を入れ替えてしまえば――終わりだ。


「……良かったな。貴様だけは自分勝手に願いを叶えられて」


 赤沢ねぇと月代さんを殺した女が言っていた。

 確か、「師匠は『死ぬこと』が望みだ」だったか?


「くだらないな。そんな程度の『願い』のために、どれだけの命を踏みにじった……」


 問いかけに答えるものは――もうどこにもいない。

 我の心にはむなしさが広がった。


「……確か、お前は言っていたな。『すべてのカードを集めたら、どんな願いでも叶う』と」


 我は力なく地面に落ちている「愚者」のカードに向けて、歩みを進める。

 しかし、我の歩みを遮るかのように黒い影が地面から浮かび上がる。

 それは次第に形を取り、やがて「人」のような姿を取った。


「へぇ、マスターはこのシルヴィア・バルディーニを殺せたんだぁ~」


 我はカードを構える。

 その「人」の姿をした女は我の後ろへと回り込むと、我のことを後ろから抱きしめた。


「あたしの名前はアイ。まぁ、平たく言っちゃえば、『カードの精霊』みたいなモノかな?」

「……そんな者が我に何の用だ。邪魔をするなら殺すぞ」


 その女はフッと笑った。


「マスターは、シルヴィア・バルディーニが――ひとりだけだと思ってるの?」

「……なに?」

「世界は無数に広がっている。そして、そこには少しずつ違った世界がある。でーも? そこに――無数のシルヴィア・バルディーニがいるとしたら?」


 我の心に憎悪が広がる。

 赤沢ねぇ、月代さん、そして名前も知らない20人の犠牲者たち……。


「その全部が~、――マスターからすべてを奪ったのと同じことをしているかもしれないよ? わかんないけどね?」

「……っ!!」


 犠牲者たちの顔が俺の脳裏に浮かぶ。

 そして、そのすべてが「シルヴィア・バルディーニを許すな。復讐してくれ」と言っているように我には思えた……。

 我はアイを押しのけ、「愚者」のカードを拾い上げる。


「……願いが決まった」


 アイが我の後ろに立つ。


「へぇ~。で、マスターの願いって?」


 その問いかけには答えず、我は宣言する。


「クソカード共、我に『すべての平行世界に存在するシルヴィア・バルディーニを殺すための力』を寄越せ」


 我は地面に22枚のカード共を叩きつける。

 カード共は地面に吸い込まれ、やがて一つの図形を形作る。


「……これは?」

「あ~、クリフォトの木だね~。マスターの力で、セトのトンネルがひらいたんだ~」

「……どういうことだ?」


 俺はそのアイと名乗った女に問いかける。


「う~ん、難しいことは省略しちゃうけど~。簡単に言うなら、『世界の殻』を破る力ってとこかな~。平たく言っちゃえば、平行世界を移動する能力」

「……そうか。それならば」


 都合が良い。

 平行世界を渡る力はくれてやる。

 その代わり、後は自分でなんとかしろ。

 ――そういうことであろう。


「……行くとするか」

「じゃあ、ついていっても良いかな? ね、マスター?」

「勝手にしろ」


 我は歩み出す。

 そして、隠されたセフィラの存在するダアトの位置で立ち止まる。


「露刺朝陽の名は捨てる。これより我は――虚(うつろ)だ」


 露刺朝陽とは――過去(むのう)の名だ。

 脳裏に浮かぶ復讐を求める声。

 正しいのか間違っているのか、そんなことは最早どうでも良い。

 この「虚(むな)」しさを埋められるのであれば――。

 そのために今この瞬間より――人であることを辞める。


「待っていろ、シルヴィア・バルディーニ。ひとり残らず、世界から抹消してやる」


 カード共が造り上げたセフィロトの木。

 隠されたセフィラである、ダアトの位置に我は飛び込んだ――。


 ――――そして、一匹の獣(うつろ)が産まれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。