第-50話 そして、一匹の獣が産まれた……
これは、数多ある平行世界。
その一つの世界での話。
「キミを殺すには、――このカードの能力が一番かな?」
七色の髪をしたゲームマスター。
シルヴィア・バルディーニは1枚のカードを取り出す。
「――『愚者』の正位置、<能力借用>。『死神』の正位置、<終焉の宣告者>。対象は露刺朝陽」
「――っ!! ふざっ け…… 」
俺の意識は闇に墜ちた。
あたりには何もない。
――これが死。
(……ふざけるな)
心の底から、どす黒い感情がわき上がる。
(ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな。俺からすべてを奪って、あげくに命まで奪うだと? ふざけるんじゃねーよ、クソ女っ!!)
赤沢ねぇ、月代さん。それに、思い出したくも無いが、後藤方舟の顔が浮かぶ。
――あのドブカス女が、殺した。
(ふざけてんじゃねーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!)
俺はスーツの胸ポケットから、「死神」のカードを取り出す。
そして、そのカードに自らの血で乱雑に「Alive」と記した。
その文字は赤黒く変色し、カードのイラストを変えていく。
(……カードが、変わる?)
カードにはベッドに横たえられ、数多の点滴を投与されている人物が描かれている。
腹部から伸びる袋。
下半身につながれた管。
その顔に生気は無い。
生きる屍。
しかし、それでも「生きて」いる。
「……ふふふ、はははは、あははははははははははははははははは!!!!!!!!!!」
なぜ俺は。
否、我は。
こんな簡単なことに気がつかなかったのだろう。
力は与えられるものでは無い。
――利用するものだということを。
「……さて、ゴミ掃除に向かうとするか。『Alive』逆位置、<死生反転>」
そして、我の意識は浮上した。
「……何でキミは生きているのかな? 答えろ、露刺朝陽っ!!」
「これから死にゆく貴様に答える義理はないだろう」
我は一枚のカードを掲げる。
「なんだそのカードは! そんなカード、ボクは知らないぞっ!!」
「――『Alive』逆位置、<死生反転>。対象はシルヴィア・バルディーニ」
「クソっ!! 『愚者』正位置、能力借用。『死神』正位置……」
「無駄だ」
「なんで、打ち消せな……い……」
そして、不死のシルヴィア・バルディーニは死んだ。
我はその死骸を蹴り飛ばす。
不死だろうが何だろうが、「生と死」の状態を入れ替えてしまえば――終わりだ。
「……良かったな。貴様だけは自分勝手に願いを叶えられて」
赤沢ねぇと月代さんを殺した女が言っていた。
確か、「師匠は『死ぬこと』が望みだ」だったか?
「くだらないな。そんな程度の『願い』のために、どれだけの命を踏みにじった……」
問いかけに答えるものは――もうどこにもいない。
我の心にはむなしさが広がった。
「……確か、お前は言っていたな。『すべてのカードを集めたら、どんな願いでも叶う』と」
我は力なく地面に落ちている「愚者」のカードに向けて、歩みを進める。
しかし、我の歩みを遮るかのように黒い影が地面から浮かび上がる。
それは次第に形を取り、やがて「人」のような姿を取った。
「へぇ、マスターはこのシルヴィア・バルディーニを殺せたんだぁ~」
我はカードを構える。
その「人」の姿をした女は我の後ろへと回り込むと、我のことを後ろから抱きしめた。
「あたしの名前はアイ。まぁ、平たく言っちゃえば、『カードの精霊』みたいなモノかな?」
「……そんな者が我に何の用だ。邪魔をするなら殺すぞ」
その女はフッと笑った。
「マスターは、シルヴィア・バルディーニが――ひとりだけだと思ってるの?」
「……なに?」
「世界は無数に広がっている。そして、そこには少しずつ違った世界がある。でーも? そこに――無数のシルヴィア・バルディーニがいるとしたら?」
我の心に憎悪が広がる。
赤沢ねぇ、月代さん、そして名前も知らない20人の犠牲者たち……。
「その全部が~、――マスターからすべてを奪ったのと同じことをしているかもしれないよ? わかんないけどね?」
「……っ!!」
犠牲者たちの顔が俺の脳裏に浮かぶ。
そして、そのすべてが「シルヴィア・バルディーニを許すな。復讐してくれ」と言っているように我には思えた……。
我はアイを押しのけ、「愚者」のカードを拾い上げる。
「……願いが決まった」
アイが我の後ろに立つ。
「へぇ~。で、マスターの願いって?」
その問いかけには答えず、我は宣言する。
「クソカード共、我に『すべての平行世界に存在するシルヴィア・バルディーニを殺すための力』を寄越せ」
我は地面に22枚のカード共を叩きつける。
カード共は地面に吸い込まれ、やがて一つの図形を形作る。
「……これは?」
「あ~、クリフォトの木だね~。マスターの力で、セトのトンネルがひらいたんだ~」
「……どういうことだ?」
俺はそのアイと名乗った女に問いかける。
「う~ん、難しいことは省略しちゃうけど~。簡単に言うなら、『世界の殻』を破る力ってとこかな~。平たく言っちゃえば、平行世界を移動する能力」
「……そうか。それならば」
都合が良い。
平行世界を渡る力はくれてやる。
その代わり、後は自分でなんとかしろ。
――そういうことであろう。
「……行くとするか」
「じゃあ、ついていっても良いかな? ね、マスター?」
「勝手にしろ」
我は歩み出す。
そして、隠されたセフィラの存在するダアトの位置で立ち止まる。
「露刺朝陽の名は捨てる。これより我は――虚だ」
露刺朝陽とは――過去の名だ。
脳裏に浮かぶ復讐を求める声。
正しいのか間違っているのか、そんなことは最早どうでも良い。
この「虚」しさを埋められるのであれば――。
そのために今この瞬間より――人であることを辞める。
「待っていろ、シルヴィア・バルディーニ。ひとり残らず、世界から抹消してやる」
カード共が造り上げたセフィロトの木。
隠されたセフィラである、ダアトの位置に我は飛び込んだ――。
――――そして、一匹の獣が産まれた。




