第33話 勝利と策謀と
虹のように輝く金髪の少女、シルヴィア・バルディーニは自室の床に倒れ伏していた。
その手には一枚のカードが握られているが、カードからは色が失われている。
呼吸をしている様子は見て取れない。
「ふはははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!!」
うずたかく積まれた本に、多数の散らかった書類。
上等な黒檀の机に座る、女神官ヴァイラス・ダアト・ヴォイド・オブスキュラ。またの名を、虚。
虚は高らかに笑う。
アイは虚の背後から抱きつき、妖艶な笑みを浮かべた。
「ずいぶん機嫌が良さそうじゃ無いマスター?」
「ここではヴァイラスと呼べと言っているだろ、アイ。まあ、今日は機嫌が良いから許してやる」
虚は普段とは異なり、鷹揚な態度を示した。
「え、マスターがそう言うとなんかキモいんだけど」
「それだけ我の機嫌が良いと言うことだ。何せ、この世界のシルヴィア・バルディーニを害することが出来たのだ。これほどめでたい事があろうか? いや、無いであろう」
「反語とか、国語のテストかな?」
「なんか言ったかアイ?」
「んーん? とくにはー?」
アイは虚から離れ黒檀で造られた揺り椅子に座り、揺り動かす。
「で、マスター? カードは後3枚だっけ?」
「そうだ。シルヴィア・バルディーニが造ったカード共を、我は変化させた」
「それがマスターの願いだっけ?」
「そうだ。すべての平行世界に存在するドブカス女を亡き者に出来る力を望んだ。そして、平行世界を渡る力を得た。――後は自分でなんとかしろということだろう」
「うわー、美人で有名な女神官様がドブカスとか言ってるー」
「……口に気をつけろアイ。貴様も殺したって良いんだぞ?」
虚は「Alive」のカードを掲げる。
「ごめんなさーい。マスターがシルヴィア・バルディーニに女の子にされたのは嫌なことだったんだよねー」
「……分かれば良い。――我が誇りと人生を奪ったあのクソ女は100回殺しても殺し足りない」
虚は机から降り、シルヴィアを蹴り飛ばす。
「今更、恨み言は言わぬ。意味は無いからな。――行くぞアイ」
「はーい。ちなみに残り三枚は何だっけ? タロットカードとの関連が薄くなっちゃってて覚えにくいんだよねー」
「……カードは『Scientist』と『Surface』に『Weakness』の三枚だ。――お前も、我に付き従うなら覚えておけ」
虚とアイは部屋を後にした。
それからしばらくの時間が流れた。
――金髪の少女が、緩慢な動作で起き上がる。
「痛たた。まったく、絶世の美女に対しての遠慮が足りてないよ。まぁ、それだけ彼の世界で彼の恨みを買ってしまったということか。――主人公の闇堕ちは娯楽小説ではよくあるけど、実際に体験するのは結構キツいね」
虚に蹴られた部分を手でおさえる。
「……『節制』のカードでボクが死ぬまでの時間を遅延させたけど、回避不可能な即死攻撃とかチートじゃ無いかな? 全く、カードを造った創造主の意図を超えないで欲しいね。――言ってもしょうがないけどさ!!」
シルヴィアの叫びは室内に木霊して、消えた。
「……ツッコミ入れてくれる人が居ないのは寂しいものだね。まぁ良いか。それよりも、今は次の事を考えようか」
シルヴィアは椅子に座り、机に向かう。
そして、忙しなく万年筆を動かす。
それから数時間が経過した。
「……うん、やはりあの世界に入巣京くんを。いや、この世界では、イリアス・ケセド・ヴァルハライトくんだったかな? まぁ、どっちでも良いか。彼女を送り込めれば、虚に対する勝機は0.0000000122以下略%くらいはあるか。――何度計算してもコレが最大とか詰んでるよね」
シルヴィアは万年筆を置いた。
置かれた書類には「勝利の確率:1.220236055・10^-8≒0.0000000122」と記されていた。
「……キミならどう思うかな? キミならカレを止められるかい?」
そう虚空に問いかける。
「どうなんだい? 奇跡のような確率を達成し続けて、キミの世界のシルヴィア・バルディーニを救って見せた英雄。――露刺朝陽くん?」




