第31話 救済と拒絶と
――雨粒が音を立てて蒸発する。
「……セラフィナ、それは」
セラフィナが握る一振りの朱槍。
長さは背丈の倍ほど。
見た目は単なる素槍であるが、異常なまでの高温を発している。
「…………これは不味いね」
セオリスが後方へ飛びすさり、距離を取る。
見ると大剣が灼熱を帯び、赤くその刀身を染めていた。
「お姉様、確認です。国王陛下は殺してはいけませんね」
「……セラフィナ? あなたは何を?」
「答えてください。殺して良いのか、ダメなのか」
「……お兄様はたった一人の肉親ですの。――出来れば殺して欲しくはありませんわ」
「――分かりました」
セラフィナは中段に構え、緩やかに横へ歩を進める。
よく見ると、斜めに進み距離を詰めている。
「……君はよく分からないね」
灼熱し使いものにならなくなった大剣をセオリスは地面に突き立てる。
左腰に差していた、この国の象徴である聖剣を抜き放つ。
「シッ……!!」
そこをセラフィナが槍を返し、下から打ち据える。
イリアスの使う黒衣流、回旋撃に酷似した技。
とっさにセオリスは手を開き、後方へと飛びすさる。
しかし、セラフィナが放ったのは――突き。
「……長い武器は厄介だねぇ」
石突による突きを受けたセオリスは口から血を吐き捨て、乱暴に拭った。
(……強い)
セラフィナは内心で思う。
(このまま、大火槍の一式で戦っても勝ち目が薄い。なら――)
セラフィナは構えを左前半身構えに変える。
対するセオリスも霞みに構えを変えた。
「爆ぜろっ! 大火槍――弐式、紅炎」
セラフィナの叫びに呼応するかのように、撒き散らされていた灼熱が収まっていく。
否。
それは槍の穂先に集まり、揺らめく紅き炎と化した。
「……それはなんなんだい?」
「答える必要は、ないっ!」
セラフィナが槍の穂先で一撃をたたき込む。
何の工夫もない一撃。
セオリスは当然、それを刀で受ける。
しかし――。
「なっ!!」
刀身が溶断される。
とっさに屈み必死の一撃を避けるが、石突による打撃がセオリスを襲う。
鞘で受けるが、セラフィナに叩き壊された。
(なんか、妙に強くなっていないかい?)
繰り返される打撃を回避しつつ、セオリスは距離を取る。
そして、懐からカードを取り出す。
「……イマジナリーナンバー15 Malicious Angel正位置、<誰が為の救済>」
カードが黒く光り、霧があふれ出し、セオリスを包み込む。
僅か数刻。
霧が晴れると、そこには漆黒の鎧を着たセオリスが立っていた。
「虚様にいただいたこの力で、お前を救済してやる」
赤茶色に錆びた斬馬刀をセオリスは構える。
セラフィナは侮蔑の目を向ける。
「気持ち悪い」
そう吐き捨てた。
「……何?」
セオリスが問いかける。
「もう一度だけ言います。――気持ち悪い」
「……………君のような下賎な人間にはこの高尚な思想は理解できないか。まぁいいさ。死ね」
凶刃が襲う。
セラフィナはそれを避けずに素手で受け止めた。
その手からは血が流れる。
しかし、膨大な魔力がそのキズを瞬時に治していく。
「何……!?」
「……研究所と同じ」
「研究所?」
「与えるつもりで奪う」
「それの何が悪い。救済のためには仕方ないだろう!」
「……それが気持ち悪い。――結局、あなたが一人で気持ちよくなっているだけ」
「きさまぁ!!」
セオリスが激高と共に距離を取り、必殺の一撃を放つために構えた。
セラフィナもそれに合わせるかのように右前半身構えに構える。
「ところで、ひとつ尋ねても良いですか」
「貴様のような下等生物が何を尋ねる」
「――何で、セラだけに集中しているんですか?」
「何!?」
「……参る」
イリアスは地面に突き立てられた大剣を足場に空を飛び、死角からの一撃を放つ。
「――ぐあっ!!」
剣戟はセオリスの甲冑を叩き潰す。
激しい水しぶきを立て、イリアスが着地した。
「……黒衣流、落雷」
セオリスの黒い鎧が砕けて、消えていく。
その体から黒い煙が立ち上り、雨に流されるように霧散した。
「……我が兄ながら、流石にしぶといですわ。――もう、付き合いきれませんわよ?」
イリアスは地面に倒れ伏す。
――セラフィナがセオリスの体を乱暴に石突きでつつく。
「終わった、みたいです。――お姉様」
いつしか、雨は小降りになっていた――。




