第30話 呪縛と決断と
(……お姉様ぁ。セラ、今起きるから、そんなにお鍋を叩かないでよぉ)
薄いまどろみからセラフィナは目を覚ます。
「黒衣流、送り灯籠っ!!」
「王国の剣技とは異なるけど、良い剣筋だねイリアス。でも、刃を使わないのはどうしてかな? まさか、舐めているわけでは無いよね?」
「……お兄様は舐めてかかれるほど甘い人で無いことは、とても良く理解しておりますわ」
「……えっ? えっ!? えっ!!」
降り注ぐ雨が、互いの剣劇により飛沫となって飛び散る。
セラフィナには、それが血飛沫のように思えた。
「……お姉様と、お姉様のお兄様が戦ってる? なんで?」
溢した問いかけに答える者は無く、兄妹は鎬と精神を削るかのような剣技の応酬を続ける。
それはまるで、一種の芸術のようにさえ思えた。
「セラっ! 逃げなさいっ!!」
「――ずいぶん余裕だねイリアス。戦いの最中によそ見かい?」
イリアスの髪が僅かに切り裂かれ、雨水により地面に叩きつけられる。
聖剣――刀を杖のように地面に突き立て、必殺の一撃を構えるイリアス。
「回旋撃かい? その技はもう効かない事くらい理解しているだろっ!!」
「えぇっ! ですからこうするのですわっ!! ――黒衣流、飛燕」
下方からの一撃。
その後の袈裟斬りは、セオリスの目を狙った横薙ぎへと変更される。
「そう来るのは分かっていたよ」
大剣の鞘を送り、イリアスの剣劇をセオリスは受け止めた。
そしてそのまま、柄頭でイリアスを地面にたたき伏せた。
「おねえさまっ!!」
「……逃げなさいセラフィナっ!!」
倒れ伏しながらも、イリアスはセオリスに対して黒衣流の技である渦潮を仕掛ける。
しかし、体格で勝るセオリスには効果が薄い。
僅かによろめくが、すぐに体勢を立て直す。
そしてセオリスは――イリアスの腕を踏みつけた。
「逃げろって言ってんだろセラフィナっ! お前まで死ぬ必要はないっ!」
「……少し妬けてしまうね。でも安心していいよイリアス。君を葬送った後で、あの娘も葬送ってあげるから」
セオリスが大剣を天高く掲げる。
――必殺の一撃。
(……嫌だ)
セラフィナの心に浮かんだ言葉。
それはただひとつの、純粋な――思い。
無力である自分。
研究所により人生を奪われた自分。
何度も「死にたい」と願った自分。
それと同じくらい「生きたい」と思った自分。
――そして、姉と慕うイリアスが殺されそうな時に自分のことを案じさせてしまった事を。
(嫌だ)
首から掛けた指輪を見る。
コレを使えば、助けられる――かもしれない。
でも――。
(……嫌だ)
ソレを使えば、研究所を認めてしまうような気がした。
だが、ソレを使わなければ大切な人の命が奪われてしまう。
(……どちらも嫌だ。でもっ!!)
セラフィナは指輪を首からを外すと握りしめ、走り出す。
(――この力は、大切な人を守るためにっ!!)
振り下ろされる大剣の間に――割り込んだ。
「セラフィナっ!!」
イリアスが叫ぶ。
敬愛する姉を害する一撃。
それはセラフィナの手に握りしめられた一本の朱槍により、受け止められた。
「――燃えろっ! 大火槍っ!!」
体が燃えそうに熱い。
体が溶けそうに熱い。
体が、熱い。
しかし、それは槍に集約されていく。
「……ヴァルハライト王国、国王陛下。ここからは、人工大火槍の騎士。――セラフィナ・イェソド・カバラーナがお相手致します」




