第27話 不穏と違和と
「……お兄様なら問題なんて起こさないですわ。それなのにアニキールさんは」
イリアスは重い足取りで街道を歩く。
イリアスのことを知る人物に会うと騒動になる。
故にその顔を布で隠しながら。
「そんなにお姉様のお兄さんは優秀なんですか?」
「私に魔力がないことを察して、いち早く魔道具の知識をつけさせたのですわよ?」
イリアスは曇り空を見上げる。
朝は晴れていたのに、昼食を摂ってから徐々に雲が広がり始めた。
旅に出て数日。
最も天気が悪い。
「……それって」
「えぇ。父が『環神の儀』に私をかけることを考えたのでしょう。魔力以外で有能さを示せれば、といった形ですわね。――まぁ、無駄だったわけですが」
「……それだけ優秀なお兄さんに対してアニキさんが違和感を持ったと言うことは、よっぽど変だってことじゃないんですか? 王都の様子もおかしいって言っていましたし」
「そもそも父の治世では国自体がおかしかったですわ。それがまともになっただけですわ。アニキールさんは心配しすぎですわ」
「……なんか、お姉様らしくない」
セラフィナの首から紐を通してつけられた指輪が、曇天の隙間から差し込む陽光を跳ね返し僅かに光った。
「……それ、持ってきたんですのね」
イリアスは話題をそらすように、セラフィナに語りかける。
セラフィナはあまり納得をしていない顔をしながら答える。
「……アニキさんに言われたんです。『お前が持ってろ。あのバカな研究所の第2弾みたいなもんが出来たら面倒だろ。持ってるだけで良い。使う必要はない。使うかもしれないと思わせるだけで良い』って」
「……あなたは強いですわね、セラフィナ」
「お姉様よりは弱いですよ。そんな重たい剣を振るわけじゃないから」
「力のことではありませんわ。心のことですの」
城門に近づくにつれて人通りが増えてくる。
皆、一様に笑顔を浮かべながら何かをつぶやいている。
「――おかしい」
イリアスが警戒心を一段階高めながらつぶやいた。
その様子を見てセラフィナが問いかける。
「何がですか?」
「父はよく言えば厳格。悪く言えば臆病な者でしたわ。故に、国への入出国は厳しく管理していまして。ですが見てみなさいセラフィナ」
「……みんな自由に出入りしている?」
「えぇ。番兵のエルスールさんは居ますが、あの人は絶対に笑わない。『ヴァルハライトの鉄壁』と呼ばれるくらいの人でして」
「……すごく穏やかに笑ってませんか?」
「――ですから『おかしい』と言っているのですわ」
イリアスは顔を隠していた布を外す。
そしていっそ「優雅」と思えるほどに歩き出した。
「お姉様!?」
「エルスールさんは私を禁足地に置いていった人ですの。そんな人の前に私が現れれば一騒動が起きるでしょう? ――異常でなければですが」
小走りでセラフィナはイリアスの後を追いかける。
そして番兵のそばを通るが、特に止められることなく王都へと入ることができた。
――できてしまった。
「……お兄様が唯一、父を認めていたのが厳格な入出国管理でしたわ。でも、今はそれが失われている」
「……それにお姉様のことを、まったく気にとめていなかったみたいですね。まるで人形みたい」
「えぇ、それに笑顔がまるで『貼り付けた』みたいですわね。――サブさんの情報と一致しまして」
喧噪に包まれる城下町。
イリアスはそれを見た瞬間、
「――気持ち悪い」
と思わずもらした。
空からは雨が墜ち始めた……。




