第26話 疑念と違和と
「アニキ、戻ったっす」
「おう、お疲れ。で、どうだった?」
深夜の酒場。
その喧噪から少し離れた席に座って酒を飲んでいたアニキ。
少し疲れた顔をしたサブが向かいの席へと座った。
「……あんまり要領は得なかったっすね。ヴァルハライト王国の国王は『消えた』って言うのが有力っす」
「……『消えた』か。人はそんなに簡単に消えるわけねーわな。なんか理由があんだろ」
「調べてみたっすけど、やっぱよくわかんなかったっす。ただ、不審な人物が目撃されたって話はあったっすね」
「そいつはどうなったか聞いたか?」
「死んだらしいっす」
「……死んだ、か。他に変わったところは?」
サブは手帳を取り出し、アニキールへの報告を続ける。
「確かに、店の商品はこの辺より2~3割くらい安かったっすね。後は、城下町が以前より清潔になってたっす。――でも、なんか妙なんすよ」
「妙? どういうことだサブ?」
サブの一言に引っかかりを覚えたアニキは、サブに尋ねた。
「イリアスちゃんには悪いっすけど、ヴァルハライト王国はあんまりいい国じゃなかったっすよね?」
「まぁな。賄賂に重税。後は、王が気に入らない人物を処刑したり追放したり。イリアスのにーちゃんがいなかったらとっくの昔に滅びてんだろ。それがどうした?」
「ぶっちゃけ付き合いたくない国の代表みたいな国だったっすよね。だけど、変なんすよ。――みんな笑ってたっす」
「……笑ってた? いい国になったんなら笑うだろ? うさんくせーが、生活は安定。物価も安い。そりゃ一般人からしたら嬉しいだろ」
アニキが軽口を挟むが、サブが続ける。
「……違和感が拭えなかったっす。何というか、『貼り付いたような笑顔』って言ったら良いっすかね?」
「……貼り付いたような笑顔、か」
アニキは少し考えるように顎に手をあて、もう片方の手で酒のつまみを口へ放り込む。
酒で流し込み、サブへと問いかける。
「サブ、お前だったらどうする? そんなうさんくせー国と商売したいか?」
「嫌っすね」
「だよな。だけど、ヴァルハライト王国はかなりでけー国だから捨てるには惜しいな」
「そうっすよね……」
サブがアニキの前に置かれた皿からつまみを手に取り、口へと運んだ。
アニキがそれを咎めるように睨んだ。
「……本当は俺様が直々に行って商売できるか調べんのが一番だが、明日には宗教国へ向かわなきゃなんねーだろ? 仕入れ相手が待ってるのを反故にはできねーからな」
「……ヴァルハライト王国の内部事情に詳しい人がいれば一番っすけどね。出来れば新しい王様に近づけるような」
「…………1人候補は居る。――ぜってー嫌がるけどな」
そう言ってアニキは酒を飲み干す。
乱暴に机に置き、席を立つ。
「イリアスのとこ行ってくるわ。サブ、お前は明日の準備をしとけ。間違っても娼館に行って遊んでんじゃねーぞ」
「行かないっすよ。むしろ行ったことないっすから。――アニキじゃあるまいし」
「ばーか。ああいうところの方が情報ってもんは集まんだよ。まぁ、んなことはどうでも良い」
そう言うとアニキはサブに財布を放り渡した。
「こんな時間でもやってる店がいくつかあんだろ。必要なものを買っとけ。ちなみに、おやつは3個まで許す。俺はイリアスを説得してくるとするぜ。『バカアニキがなんかやらかしてるらしいぜ』って言えば、殴ってでも諫めに行くだろ」
「……そんなにお兄さんのこと好きなんすか、イリアスちゃんは?」
「しらね」
そう言い残し、アニキは酒場を後にする。
「……雨、か。面倒くせーな」
アニキールは魔力纏装をし、雨を避ける。
「さて、残業としゃれこむか。残業代は出ねーけどな」
そしてアニキールはグーレイの店へと向かった。




