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第25話 虚誘と逡巡と

「おいイリアス聞いたか?」


 場所はグーレイの店にあるイリアスの工房。

 時刻は夕刻。

 夕日がイリアスの作業部屋を橙色に染め上げる。


「何をですの? アニキールさん?」


 魔道具の故障箇所を確認しながら、イリアスはアニキールに問いかける。


「お前のとーちゃん行方不明だってよ」

「……そうですの」


 イリアスの手が止まる。


「で、にーちゃんが国王に即位したらしいぜ」

「……ヴァルハライト王国で国王になるためには、周辺諸国の承認が必要ですわ。なので、まだ正式な即位ではないと思いますわ」


 魔道具の修理を続けるが、工具を持つその手は明らかに震えていた。


「で、だ。イリアス。――お前、王族に復帰すんのか?」

「……なぜそんなことを聞くのですの?」


 イリアスは顔を上げ、アニキールを見つめる。

 アニキールは視線をずらし、続ける。


「お前の追放は前国王陛下(とーちゃん)の命令だろ? 『環神の儀』にかこつけて、魔力のない人間の厄介払い。だが、『環神の儀』を完遂したものは神に祝福される、だろ? 条件満たしてんじゃねーか。それに現国王陛下(おまえのにーちゃん)、かなりの妹バカって話だろ? なら、王族復帰くらい楽勝じゃねーか」

「……」


 イリアスは視線を床に向ける。

 そして、服の裾を無意識に掴んだ。


「……今更、ですの?」

「今だからだろ」


 アニキールはイリアスに近づき、その肩を掴んだ。


「……痛いですわ」

「しらね。少しだけ独り言を言うが良いか?」

「……好きにしたら良いのではなくて?」

「なら、好きにさせてもらうぜ。俺様は商人だ。知り合いに王族がいるといろいろ便宜を図ってもらえそうで便利だからな。っていう建前はともかくとして、イリアス――お前なんでそんな悲しそうな顔してるんだ?」

「……離してくださらないかしら?」


 イリアスはアニキールの腕を力なく掴んだ。


「……確かに父は愚かな王でしたわ。父親としても褒められたところはありません。ですが、それでも肉親には違いなくて。――少しくらい心配してもおかしくはないでしょう」

「……お前はバカだ。そして、優し過ぎんだ」


 肩を掴んでいた手を離し、イリアスの頭に乗せる。

 そして少し乱暴に撫でた。


「……痛いじゃないですの」

「痛いってことは生きてる証だろ。違うか?」

「……グーレイさんに見ていただく修理完了品を取りに行きたいですわ。退いていただけますか、アニキールさん」


 アニキールに背を向け、扉の前に立つイリアス。


「なんか、前国王よりも生活が安定したって噂だな。税負担が軽くなったり、商品が安くなったりいろいろ良いことがあるらしいぜ。だが、どうにもうさんくせー。――さて、原資はどこなんだろうな?」

「……これで失礼させていただきますわ」


 工房を辞し、自室のベッドに力なく倒れ込むイリアス。


「……今更ですの?」


 部屋には一人。

 夜の帳が降り、窓からは墨をこぼしたような漆黒。

 そこに浮かぶ星がいくつか。


「今更、何が、なんで……」


 問いかけた言葉に応えるものはない。


「……修理完了品を持って行かないとですわね」


 鉛のような感情を抱えたまま、ベッドから起き上がる。

 机に置いた修理の完了した魔道具を持ち上げる。

 そのとき、何かが舞うように地面に落ちた。

 しかし、イリアスはそれに気がつかず自室を後にした。

 その「何か」はうっすら黒く光った。

 

(――イリアス・ケセド・ヴァルハライト。我を求めよ。さすれば、力を与えよう)


 ――1枚のカード。

 大金の前に膝をついて崩れ落ちた一人の白衣を着た人物。

 その背後で戦闘機がミサイルで無数のビルを破壊し、炎上させている絵が描かれている。

 カードにはただ、「Scientist(かがくしゃ)」とだけ書かれていた……。

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