第24話 虚念と改変と
「……イリアスが、生きている?」
「えぇ、そうですとも。ご存じないのですか? 最近、近くの国で爆発騒動がございまして。そこで、イリアス様に酷似した方が目撃されたのですよ」
「……爆発騒動のことは聞き及んでいる。だが、そんな報告は受けていない。――油断を誘うための嘘だな」
元騎士団長は肩を落として立ち上がる。
そして、国王を振り向きざまに足蹴にした。
「この愚鈍な王が、情報を握りつぶしているのでしょう。――全く嘆かわしい」
そう言うと、一枚のカードを取り出す。
カードには「Injustice」と記され、生気のない目で書類を改編している人物の絵が描かれている。
「……なんだそれは」
「これは虚様にいただいたお力ですよ。あぁ、虚様は素晴らしい。愚かなモノを断罪する為のお力を与えていただいた。感謝致します、虚様」
「……虚? 誰だそれは、言えっ!!」
「その必要はございません。なぜなら、あなたもここで死ぬのですから必要ないでしょう。折角なので、この札の力をお見せ致しましょう。イマジナリーナンバー11 Injustice 正位置<偽罪付加>この愚鈍な王に、相応しい裁きをお与えください」
元騎士団長が唱え終えると、何の前触れもなく地面に黒い穴が開く。
その穴に王が吸い込まれていく。
恐怖に目を見開き、口を開くが言葉が出ない様子。
程なくして、王は姿を消した。
後には王冠と、複製品の聖剣が残された……。
「先に言葉と抵抗する意思を奪っておいて正解でしたね。――ちなみに、気がついておりますか?」
「……何がだ?」
「なぜ、あなたは国王を救おうとしないのでしょうか。普通であれば、のんきに会話などせずに父親を救おうとするはずです。――あなたも、内心この王はいらない。そう思っていたのではないですか?」
「……!!」
セオリスはその言葉に驚愕する。
元騎士団長を処したり、国王を救おうとしたり、とるべき行動は幾筋も存在するはずである。
――しかし、それが出来ない。
「……っ」
「では、セオリス様。あなたも愚鈍な王の後を追っていただけますか?」
元騎士団長はカードをかざし、呪詛をはこうとした。
しかし、その言葉は発せられない。
「……?」
そのとき、空間に男とも女ともつかない声が響いた。
(貴様に託した目的を果たせ)
元騎士団長は天を仰ぐ。
そして涙を流した。
「……感謝致します虚様。直接お目にかかったことはございませんが、力を与えてくださいました。――どうやら『使命』を果たすときが参りました」
元騎士団長は抜剣し、刀身を自らの首に当てる。
そのまま、勢いよく自らの首を切り裂いた。
「一足先に、逝って参ります虚様っ! 虚様の将来にご多幸あらんことを!!」
血を噴き出しながら、その勢いに負けるかのように倒れ伏す。
その手から「Injustice」と書かれたカードが力なくすべり落ちた。
「……何だったんだ今のは? いや、そんなことよりっ! 父上っ!!」
セオリスの体に力が戻ってくる。
国王が吸い込まれた黒い穴が開いていた場所に駆け寄るが、跡形もなく消えている。
「……父上はどこに? いや、それよりも、元騎士団長の遺体はどこに行ったっ!!」
跡形もなく元騎士団長の体は消失し、白い床を汚していた赤も消滅していた。
まるで、最初から何もなかったかのように……。
否、そこにはカードが2枚残されていた。
「……何が何だか全くわからない。しかし、今は出来ることをするしかないか」
セオリスは「Injustice」と書かれたカードを拾い上げる。
「……これが何かの手がかりになることは間違いない。しかし、わかることが少なすぎる。――ヴァイラスさんならなにかわかるだろうか」
そして、もう一枚のカードを拾い上げる。
カードには「Malicious Angel」と記され、人々を崖に導こうとする天使が描かれているようだ。
(……得体の知れない札。危険なのは承知だ。だが――何もしなければ、何も得られない!!)
セオリスがそのカードに触れたときであった。
突如として意識が遠のく。
(不味いっ!! 手を、手を離せっ!!)
しかし、カードはセオリスの手から離れる事はない。
意識が薄れるにつれ、何者かの声が脳内に響く。
(イリアスを。生きているなら、イリアスをっ! 助けるんだろ!! セオリス・ケテル・ヴァルハライトっ!!)
(それが貴様の名か。我の目的のために利用させてもらうぞ。セオリス・ケテル・ヴァルハライト?)
「……だ、れだ。おま、えは?」
つぶやいた言葉は届かない。
目の前に黒い乗馬服を着た少女が現れたように見えたが、消えていく意識に逆らうことは出来ない。
セオリスは失神した。
――――
――
しばらくしてセオリスは意識をとりもどす。
手にはしっかりと「Malicious Angel」と記されたカードが握られている。
「イリアスを助ける。そうだそのために……」
言葉から感情が消える。
「イリアスを護る。そのために邪魔なモノは……要らない……」
顔から表情が消える。
「……いりあすを、」
「かんがえるひつようはない……」
「いりあすのしあわせのために」
「いりあすの、しあわせの、ために。――邪魔なモノはすべて、壊してしまおうか。」
穏やかな笑みをたたえるセオリス。
落ちていた聖剣と王冠を拾い、身につける。
「……地位というものは必要だ。何をするにも、それがなくては始まらない。――すべてはイリアスのしあわせのために」
謁見の間を迷いなく堂々した様子で後にする。
死体の森を抜け、玉座の間へと歩みを進めた。




