第15話 盗聴と■■と
(……アニキさんは何を隠しているのかしら)
お茶を入れ、茶菓子を用意しながらイリアスは訝しがる。
アニキールがイリアスとセラフィナを店から追い払った時のこと。
常のアニキールであれば飄々とし、余裕を崩さない。
だが、先の様子は明らかに違っていた。
「お姉様、コレは何ですか?」
セラフィナが机の上に放置されたコードのついた耳栓のような魔道具を持ち上げる。
色は赤。
「それは修理が完了したばかりの魔道具ですわ。能力といたしましては、『遠くの声を聞く』ものですわね」
「……グーレイさんとアニキさんの話も聞こえたりするんですか?」
「不可能ではありませんわ。ですが、隠そうとしていることを暴こうとすること。それは正しいこととはいえませんわ。――とはいえ、気になるのは確かですけど」
セラフィナが魔道具に魔力を込め、起動させる。
「セラフィナ。何をしているのかしら?」
「……少しだけ、少しだけなら良いですよね? 何か隠されるのはちょっとやだ」
「……まぁ、動作の確認は致しませんと。ですが、セラフィナ? 少しだけにするのですよ? 盗み聞きすることは決して褒められたものではありませんわ」
「はーい」
そう言ってセラフィナは自分の右耳に、魔道具を装着する。
イリアスも「動作確認」の名目で、左耳に魔道具を装着した――。
『……93人目だったか?』
アニキールの声がはっきりと聞こえる。
雑音も無く、遅延も無い。
集音範囲も理論値どおり。
イリアスは魔道具の修理が上手くいったことに満足感を覚える。
『……『源書』のバケモノ騎士しか使えなかった『アレ』だぞ?』
『別施設での実験体。おまえの……。確か、サブス君だったか?』
『……アイツは『サブ』と呼んであげてください』
しかし、セラフィナの顔からは表情が消えていた。
イリアスはそれに気がつかないでいる。
「……っ! きゅうじゅうさんにんめ―。あれ……。げん………しょのき……………し…………っ!!!!」
セラフィナの体が激しく震え、脂汗が止めどなくあふれ出す。
指先が震え、呼吸が乱れる。
イリアスはセラフィナの異変に気がつき、頭に手を伸ばす。
しかしその手は乱暴に振り払われる。
「セラフィナ? あなたどうしたのかしら?」
尋ねるイリアスにセラフィナは答えない。
自らの腕で、自らを抱きしめるように腕を組み、へたり込む。
『……『アレ』を見せたら、あいつは戻る』
その言葉が聞こえたとき、セラフィナの呼吸が止まる。
工房に訪れる沈黙。
まるで音が消えてしまったかのように――。
しかし、その沈黙は少女の絶叫で引き裂かれる。
「いや……。いやぁっ……。いやぁあぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
セラフィナは自らの耳から魔道具を乱暴に外し、机にたたきつける。
紐はちぎれ、軽い音を立て、少し机の上ではねた後、床に落ちる。
乱暴に工房のドアを開け放つセラフィナ。
その体からは魔力が帯電したかのように弾けている。
制御するためのバングルすら意味を持たないかのように、異常な量の魔力があふれ出す。
――空気が焦げ臭い。
「サブ! 追えっ!!」
アニキールの怒声が、叩きつけられるように工房にも響く。
イリアスの頭にはいくつもの疑問符が浮かび、明滅を繰り返す。
意味がわからない。
理由がわからない。
何もわからない。
「だから席を外せっていっただろうがっ!!」
工房の壊れたドアからアニキールが怒声を浴びせる。
イリアスは思わず身を竦ませた。
「……聞かれちまった以上、仕方ねーか」
「――何を?」
「あ? 呆けたこと聞いてんじゃねーよ」
イリアスの頭にアニキールの手が置かれる。
その手に少しだけ力が込められる。
「セラフィナを止めてこい。サブの奴では無理だ。おまえがやれ」
「なにを……」
「説明は後だ。――急げっ!!」
そう言葉をかけられ、イリアスの背中がアニキールに強く叩かれる。
何もわからないまま、イリアスは星が浮かび始めた街中を走り出した――。




