第13話 逸脱と懐疑と
「……うちは中古品屋だ。修理中の不良品が爆発した。よくあることなので、警備の世話になるほどじゃ無い」
そう店主が告げる。
「はぁ? 不良品が爆発!? こんな『異常』な魔力の奔出が不良品ごときに起こせるものかっ!!」
城門を警備していた騎士が一人、鎧を軋ませながら店内に踏み込む。
そして、槍の石突きを地面に打ち付ける。
「どう考えても規格外な魔力量を皇国で検知したっ!! 計測機器が振り切れるなど前代未聞であるっ!! これは明らかに『逸脱』しているっ!! 貴様ら、何を隠している!! 場合によっては皇国への反逆罪に問われることも覚悟せよっ!!」
「……あら、ずいぶんとお話が飛躍するのですわね」
イリアスが口を挟む。
「卓上灯の魔力を炎に変換する部分が、過剰に魔力を吸収してしまいましたの。そして、耐えきれずに爆発いたしましたわ。――騎士様のお手を煩わせてしまって申し訳ありませんわ」
「何だ貴様はっ!!」
「申し遅れましたわ。私はイリアス。イリアス・ソフオウルと申しますの。縁あって、こちらで数日前から修理を担当していますわ。――以後、お見知りおきを。騎士様?」
優雅な所作でカーテシー。
そして口の端だけで微笑んだ。
――目は油断なく、騎士の動きを観察しながら。
「……騎士に対する最低限の礼は弁えているか。だがっ!」
槍の石突きを再び床板に打ち付ける。
木が叩かれる乾いた音が店内に響いた。
「イリアス・ソフオウルと言ったか!! 貴様、数日前に城門に来た女ではないかっ!! それがなぜこのような場所にいるっ!! それともう一人女がいたはずだなっ!! どこに行った!!」
騎士の声に苛立ちが混ざる。
イリアスはそっと裏に続く扉の方へ足を進める。
「あの子は、着替えをしておりまして。なにせ、私を守って衣服が燃えてしまったものですので。――騎士様には、うら若き女性の裸を見る趣味はありませんわよね?」
「……やむを得ぬか。では、その女を待つ間に貴様らに聴取を行う。異論や反論は認めぬ。従ってもらう」
「わかりましたわ。店主さんもそれでいいですわよね」
「……好きにしろ。とはいえ、魔道具が爆発した以上の事実は無いがな」
爆発した魔道具の現物をイリアスは騎士に見せる。
イリアスは騎士の問いに対して、淀みなく状況を説明する。
――所々に「嘘」を織り交ぜながら。
「……説明に筋は通っているな。並外れた魔力が観測された事を除けば。だが、報告は上げさせてもらうし、証拠品は預からせてもらう。良いな?」
「承知いたしましたわ。店主さんもそれでよろしくて?」
「そんな状態になっちまったなら、屑鉄以上の価値はないだろ。持ってかれても店が傾くような脆弱な経営は行ってないつもりだ」
奥の扉からセラフィナが現れる。
その手に「拘束具」をつけて。
「……まて、貴様。なぜ拘束具をつけているっ! まさかこの、イリアス・ソフオウルに不当拘禁されている訳ではあるまいなっ! 場合によっては保護を行う。理由を言えっ!!」
セラフィナは思わず手首につけた拘束具を手で隠す。
しかし騎士は無遠慮に近づき、その腕を掴んだ。
「やはりそうだっ! 王立魔道具協会の刻印がなされている! 不当拘禁でないなら、家名を名乗れっ! それが出来ないのであれば、この、イリアス・ソフオウルを不当拘禁の容疑で拘束するっ!!」
そのとき、店主が小さく何かをつぶやいた。
そして、騎士の目を見て、覚悟を決めたかのように話し始める。
「……それはお貴族様用の魔力抑制魔道具の試作品だ」
「……何?」
「お貴族様たちは魔力が強い傾向にある。それを抑制するために昔に依頼を受けて造った」
「……貴様は何者だっ!!」
「グーレイ・ホド・アルディース」
「グーレイ……ホド……アルディース、だと?」
騎士がその名を聞き、舌打ちをする。
そして、槍を握る手に力が籠もった。
「……権力闘争で負けた、王立魔道具協会の元副会長だと。なんでこんなところにいる」
「権力闘争に負けても生きている以上、金を稼がないとならないものでな。幸い、店員も二人雇用できる程度には稼がせてもらっている。給料として、魔力が強いセラフィナに自分の制作した物を渡した。それに何か問題でも?」
「……」
「問題が無いようであれば、うちの店員から手を離してもらえるか」
騎士はセラフィナから手を離す。
自由になったセラフィナは、イリアスの背後に身を隠した。
「……今回はあなたの名において見逃そう」
「そうして貰えると助かるな」
「……しかしっ! 再び問題が起こった場合には容赦はしないっ!!」
「それと現副会長に言っておけ。いや、今は会長だったか? 『グーレイはおまえを恨んではいない。だが、刺客を差し向けるようなら容赦はしない』と」
騎士はグーレイ、セラフィナ、イリアスの順ににらみつけ、店を後にした。
店主、グーレイは二人に向けてつぶやく。
「悪かったなセラフィナ。それにイリアス。あの騎士、職務には忠実のようだが、職を追われた後に採用されたようで、顔を知らないようだ。――無駄なもめ事は御免被りたいのだがな」
イリアスは何も言わず地面を見つめる。
セラフィナは手首の拘束具を撫で、つぶやく。
「……でも、これがあったおかげで『人間』として生活できている。――それはうれしい」
「……とんでもない魔力量だな。ちょっと待ってろ。確かこの辺に」
そう言いながらグーレイは机の引き出しを開け、その中から一つのバングルを取り出しセラフィナに向けて投げ渡す。
セラフィナはそれをキャッチし損ねて地面に落とす。
慌てて拾いあげ、セラフィナはそれを眺めた。
「こいつはそいつの完成品だ。そんな無骨なもんを女の子がつけてちゃダメだ。こっちに変えとけ」
「……いいの?」
「その分働いてもらうから、覚悟しておけ」
セラフィナはバングルを腕に取り付け、その後拘束具を取り外す。
床に置かれた拘束具は静かに壊れた。
「……軽い。しかも性能がいい」
「お貴族様たちは面倒だからな。美しくて軽くて性能がいい。今の副会長はそういう仕事が得意だから改良させてそうなった。開発の腕はあまり良くないが、改良の腕は確かだ」
「なんか体が軽い気がする」
「あふれ出す魔力を身体強化・肉体回復に回すようにしてある。お貴族様の暗殺対策って奴だ」
「なんかすごい」
そのとき、地面を見つめて何かをつぶやいていたイリアス。
彼女がグーレイの手を取って捲し立てる。
「著書をお読みいたしましてっ!! 『高密度魔力制御理論序説~魔導災害報告書の分析とその対策~』に、『貴族階級における魔力偏在の統計的考察』に、『魔力圧縮式における共振現象とその崩壊の回避法』に、『まどうぐっ!~魔道具なら何でも作れる万能工具を手に入れた俺、いつの間にか世界最強に成り上がっていました!?~』シリーズ15冊と番外編8冊にっ! あと、あとっ!! 『魔道具研究序論』に『魔道具研究本論』っ!!」
「……全部じゃねーか」
「憧れの方ですものっ! 著者近影が無いのでお顔を知らないのはっ! あぁ! もうっ!」
イリアスの思わぬ「ガチ」っぷりにグーレイがドン引きしている。
セラフィナは何のことかわからず、顔に疑問符をいくつも浮かべている。
いつも凜々しく格好いいイリアスが思わず興奮して、早口で捲し立ているので無理もない。
「うるせぇよ。落ち着けイリアスっ!!」
「……失礼いたしましたわ」
「うわぁ、急に落ち着くな。逆にびっくりするだろうがっ!!」
イリアスは一つ咳払いをすると、グーレイに対して尋ねる。
「ところで、グーレイ様。魔力の無い人間はどう生きればいいと思いますか?」
「……知らん。好きに生きればいいんじゃねーの。誰にも迷惑をかけないなら、それは自由だろ」
「ですが、源書の記述では――」
「世界で一番売れた物語だろ、あんなもん。それと『様』は辞めろ。気持ち悪い」
そう言うとグーレイは引き出しを閉める。
「検証できないなら、それは無いも同じ。たとえ、それが――」
「――多くの者に信じられているとしても。常識を疑うことから、魔道具の開発は始まる」
二人は顔を見合わせ笑う。
その様子をセラフィナは不思議そうに見つめていた。
壊れた拘束具のかけらが陽光を跳ね返し、鈍く輝いた。




