第12話 異常と過剰と
「いらっしゃいませ~。今日は何をお探しですか?」
あれからしばらく経った。
イリアスは奥の工房で、故障品の修理。
セラフィナは店で接客を担当していた。
時間は昼を少し過ぎ、窓から差し込む光が店内を明るく照らす。
「セラフィナちゃん。今日もかわいいね。むさ苦しいおっさんよりも、セラフィナちゃんみたいな可愛い子に相手してもらった方がおじさん嬉しい」
「ありがとうございます。でもセラのことだけ見てないで、商品も見てくださいね」
店主がため息をつきながら現れる。
「……おまえはセラフィナを見に来たのか、商品を買いに来たのかどっちだ。買わねーなら帰れ」
「おぉ、怖い怖い。今日は暇だから来ただけだ。じゃあセラフィナちゃん、またね~」
「あの親父、悪いやつじゃねーんだけどなぁ……」
店主はため息をつく。
「まぁ、おまえたち目当ての客も増えたが、店としての売り上げは上がった。客あしらいも上手くなったなセラフィナ」
「ありがとうございます。あの人は少し目つきがイヤらしいですけど、お金もきちんと落としてくれるのでいい常連さんですよ」
「……おまえ、すげえな」
店主はそう言って、セラフィナの頭を撫でようとする。
しかし、セラフィナはその手を避ける。
「セラのことを撫でていいのはお姉様だけで~す。――品出し終わらせちゃいますね」
イリアスが直した商品を棚に並べるセラフィナ。
炎を灯すランプに手を触れたときだった。
「……えっ!?」
セラフィナはランプに魔力が吸い取られるのを感じた。
店主が慌てて叫ぶ。
「セラフィナ!! 手ぇ離せぇ!!」
一瞬の静寂の後、閃光。
店内に轟音が響く。
――セラフィナの手にしていたランプが大爆発した。
「すごい音がいたしましたが、何がありま――。セラフィナっ!!」
床に広がる鉄くさい赤い染み。
倒れ伏しているセラフィナ。
衣服は所々破れ、焦げ跡が見て取れた。
その体からしたたり落ちる血液。
死んでいてもおかしくない。
――しかし、その指が動いた。
「び、びっくりした~」
セラフィナはゆっくりと上体を起こし、そうつぶやく。
燃え、穴が開き、露わになった肌。
その傷跡に魔力が流れ込み、穴を塞ぐ。
血が抜け、白くなっていた肌に血色が戻る。
「……なんだよ、それは。魔力で無理矢理、傷を塞いだ? 『源書』の騎士皇殿下にしか出来ない奇跡だろそれ」
店主の声が掠れている。
その表情からは、血の気が引いていた。
「さぁ、私にもわかりませんわ。それよりセラフィナ? 痛み止めは必要かしら? それとも、治癒促進薬もありますけど」
「どっちもいらないですお姉様。――着替えてきますね」
そう言ってセラフィナは店の奥へ消える。
店の中心で未だ煙を上げている魔道具を残したまま。
「……これは私の失敗ですわね。周囲から魔力を吸って炎に変換する部分がセラフィナの膨大な魔力に耐えられずに壊れてしまっていますわ。おそらく、許容量を超えて爆発といったところですわね」
イリアスが魔道具を拾い上げ、爆発に至った要因を分析する。
その姿を店主は恐ろしいものを見る目で見ている。
「……セラフィナは『魔力過剰症』ってことであってるか? ――それを加味しても、その部分が壊れる事例は聞いたことが無いが」
「私も詳しくはありませんが、どうやらそのようですわ」
床に飛び散った血液を自作の洗剤を用いて清掃する。
程なくして、床と壁は綺麗になった。
「壊れてしまった魔道具は直しますので、工房に運んでおきますわね」
「……というか、イリアス。おまえが冷静すぎてこっちも思わず落ち着いちまったが、何だよっ! 魔力過剰症だとしても、規模がおかしいだろ規模が!」
「あら、そうなんですの? 私、魔力が無いもので。逆に多すぎる方のこともよくわからないのですわ」
「……あの魔道具。知り合いの魔力過剰症の奴が持っても、せいぜい煙を吐く程度だ。爆発まで行くことは今まで一度も無かったぞ!」
そのとき、外から物々しい音が聞こえてくる。
店の扉が乱暴に開かれた。
「何だ! 今の爆発音はっ!!」




