番外編④
【迷探偵 ダラン】
この日ダランは帝国軍少佐のジークフリートに呼び出されていた。
南の地区の臨時診療所へ向かう。
(呼び出した癖に待たせるのかよ)
先客がいたようで呼び出しの時刻になってもダランは診療所の中央の部屋で待たされる。
アンネリーゼが、それを不憫に思ったのか、お茶を出した。
アンネリーゼは場を持たせようと日常会話を挟みつつ、ジークフリートのいる部屋のドアをしきりに気にして視線をそちらへ向ける。
報告に来ている少尉が出てきたら、すぐに案内してあげたい。待たせるのは悪い。という気持ちがアンネリーゼの意識をドアへ向けさせているのだ。
(少尉が来られているから長くなるかもしれない。ダランさんに申し訳ないな)
そのアンネリーゼの思い悩むような仕草をみてダランは推理をし始める。
(不必要にドアばかり気にしている。気にする先にいるのは……さてはこの女……)
(あの少佐のことが、好きだな!)
ダランは年頃の青年だ。
色恋沙汰に目ざとい。
ダランはアンネリーゼを、すべて見抜いた者の目で見た。
恋愛事に関しては、自分はなかなか鋭い。本人はそう思っている。
(あんな男を好きになるなんて、こいつは苦労する)
ふっと不敵な笑みを漏らすダランをアンネリーゼは見た。
意味の分からない笑みに困惑の色をにじませるアンネリーゼ。
(なぜ笑っているんだろう……)
その時、ジークフリートの部屋から少尉が敬礼をして出てきた。
アンネリーゼはそれをみてドアへ素早く移動する。
室内へ伺いを立て、許可が取れるとダランを案内した。
——半刻ばかりすぎたころ、ダランはジークフリートの部屋から出てくる。
そしてアンネリーゼを不憫そうな目つきで見た。
ダランの脳内では、先ほどジークフリートとの会話で出てきた言葉が繰り返されていた。
『俺は——社交界クラッシャーって呼ばれているんだ』
余裕めいた小悪魔的な笑みを漏らし言ってきたジークフリート。
(……この純粋そうな通訳の女は……遊ばれて終わる)
(可哀想に……)
同情の眼差しをアンネリーゼに向けて、ダランは言う。
「悪いことは言わない。あの少佐には本気になるな」
アンネリーゼは「……え?」と短く返すと困惑した。
(なんのことだろう……)




