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旅の理由は、あとで 〜百年かけて生まれたエルフ〜  作者: こなれたタオル
第二章 風の通る道

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旅先の寝間着

 セレナが夕食の準備ができたと扉をノックしたのは、それから一時間ほどたってからだった。椅子に座って外を眺めているつもりが、いつの間にか眠っていたらしい。フィーネは慌てて立ち上がると、セレナの後について食堂に向かった。


食堂は最初に案内された応接間のすぐ隣にあった。すでにテーブルにはたくさんの皿が並んでいる。ヘルミオもすでに席についていた。


ハルドはすぐにフィーネに気がつくと、椅子を引いて手招きした。


「フィーネさん、こちらの席へどうぞ」


フィーネが席に着くと同時に、サリアは盆から湯気の立っているスープの器をテーブルに置いた。


「カルパのスープです。体が温まりますよ」


「カルパ……」


聞き慣れない名前に、フィーネは器を覗き込んだ。


「湖にいる鳥ですよ。この辺りでは、よく食べられているんです」


ハルドがそう説明した。透き通ったスープから、やわらかな香草の香りが立ちのぼっている。


「いただきます」


フィーネは初めて口にするスープと、焼き立てのパンの香りを楽しんだ。口に運ぶたび、どこか懐かしいような、体の緊張がほどけていくような、そんな感覚を覚えた。


窓の外では、ときおり人影が動いていた。


「あなたの護衛はいつもしっかり仕事をしていますね」


ハルドが食後の茶を飲みながら、ヘルミオに話しかけた。


「そうですね。我々は大事な商品を運んでいますが、もっと大切なのはそれを扱う人ですからね。今回は特に」


そう言って、ヘルミオはフィーネをちらりと見た。当のフィーネは、サリアとパンの焼き方について楽しそうに話している。


「なるほど、そうですな」


ハルドは頷くと、台所で作業している女に声をかけた。


「メルさん、外の方たちにお茶をお持ちして」


「はい」


女は返事をするとすぐに茶の準備を始めた。サリアもそのやりとりを聞いて、立ち上がった。


「今日はね、お客様がいらっしゃるから、少し手伝いを頼んでいるの。私の幼馴染のメルよ。私もセレナさんにお茶を持っていこうかしら」


メルと呼ばれた女は、フィーネのほうを振り返ると、小さく会釈した。


それからしばらく皆で会話を楽しんだあと、ヘルミオとハルドは「少し話がありましてな」と席を立った。


フィーネもそこで部屋へ戻ることにした。


 部屋に戻ると、すでに灯りが用意されていた。ベッドの上には真新しい寝間着が置いてあった。きっとサリアが用意してくれたのだろう。せっかくなので、フィーネはそれに着替えてみることにした。肌触りのよい布でできている。


エルカディアの屋敷で用意してもらったものとは、また別の感触だ。織り方が違うのかもしれない。旅に出れば、こうした小さな違いにも出会うのだと、フィーネは袖口をそっと撫でた。


それからふと、自分の鞄の中を覗き込んだ。夕食のために部屋を出るまでいたはずのゴローがいない。たぶんほかの護衛の人と一緒なのだろう。


ベッドに腰を下ろしたところで、扉がノックされた。


「フィーネ、私よ」


「どうぞ」


セレナが扉を開けた。


「セレナさん、入ってください。何か話があるのでしょう」


「ええ」


セレナは短く答えると、部屋に入ってドアを閉めた。


「明日の予定よ。ヘルミオ様が村の広場で商品の受け渡しをするから、その間フィーネはどうする?もし、村の中を見たいなら、私が護衛で行くわ。ヘルミオ様の商売の様子が見たいなら、すぐ近くで見ていればいいって」


「そうですね、ヘルミオさんの商売はもちろん見たいです。でも、できるなら湖も見てみたいです」


「わかったわ。ハルド様にも相談してみるわね。今日は疲れたでしょ。しっかり休んでね。何かあったら私は隣の部屋にいるから、すぐに駆け付けられるわ。心配しないで。それじゃ、おやすみ」


「ありがとうございます。おやすみなさい」


セレナを見送ったあと、フィーネは灯りを消してベッドに入った。


初めての場所ですぐに眠れるのだろうか……。だがそんな不安はすぐに消えた。ほどなくしてフィーネの意識は途切れた。初めての場所に対する緊張よりも、体の疲れのほうが大きかったのかもしれない。


窓から差し込む月明かりは、静かに部屋の床を照らしていた。

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