最初の村
隣村に到着したのは、日がもう少しで落ちる頃だった。村の門番が御者席にいるヘルミオの姿を見ると、すぐに道を開けた。門番はヘルミオの隣に座っているフィーネを見て、一瞬驚いたような顔をした。
「やはり珍しいでしょうか。わたしの瞳って」
「そうですね。わが国ではあなただけでしょう。他の国でも、そうですねえ、女神ネイア様くらいでしょうか。ネイア様は神ですから、普段私たちが簡単にお会いできるような方ではありませんしね」
フィーネは小さく息を吐いた。
「あまり目立たないようにしたいものです」
「そのあたりは、ゴロー殿に相談してみてはどうですが」
「え、ゴローにですか」
「ええ、そのあたり、彼は専門家だと思いますよ」
商隊は村の中央へ続く道を進んでいく。
「もうすぐ、村長の家に着きますよ。あなたは今日そこに宿泊することになっていますから」
「みなさんも一緒ですか」
「いいえ、私たちは村の共有の家に泊まります。『旅人の家』と呼ばれていて、行商人や来客が使う小さな家です。もちろん、護衛は置きますのでご安心を」
「わかりました」
フィーネはそう言ってから、荷台のほうをちらりと見た。さきほどまで見えていたゴローの姿が見えない。
ちょうど村人たちが畑仕事や山仕事から帰ってくる時間のようで、馬車は人々の背中を追い越していく。馬車の気配に気づいて、後ろを振り返った人は、まずヘルミオを見て笑顔で帽子をとったり、手を振ったりしたあと、その隣のフィーネを見て一瞬動きを止めた。
だが次の瞬間には、フィーネに丁寧にお辞儀をした。フィーネがいちいちお辞儀を返していると、ヘルミオが前を向いたまま言った。
「フィーネ、あなたは礼を返さなくてもよいのですよ。目を向けるだけで十分です」
「そうでしたか。わかりました。なかなか慣れませんね、エルフの挨拶の仕方って」
ヘルミオはそれを聞いて、思わず吹き出した。
「ハッハッハ。何を言っているのです。あなただからですよ、エルフ全員がこういう挨拶をし合っているわけではありません。なるほど、エルカディア様がおっしゃっていたことの意味がわかりました」
「え、なんですか」
ヘルミオは肩を揺らしながら、これ以上大声で笑わないよう必死に抑えているようだ。
「あなたはエルフの常識を知らないエルフだと」
「な……どういうことですか。わたしは……」
フィーネが反論しようとすると、二台目の馬車の隣を歩いていたセレナがやってきた。
「ヘルミオ様、なにをそんなにお笑いになってるのです?」
「いやいや、なんでもない」
セレナは不思議そうな顔で、フィーネに目を向けた。フィーネはどんな顔をしてよいかわからず、ただ肩をすくめて見せた。やがて馬車は広い庭を持つ、大きな家の前に到着した。
「さあ、フィーネ、村長の家に着きましたよ」
ヘルミオが表情を戻して、大きな声でまるで馬車の到着を知らせるように言った。
すぐに、家の正面の扉が開いて、年配の男と女が出てきた。ヘルミオが先に馬車を降りてから、フィーネもセレナの手を借りて馬車を降りた。荷台に置いてある鞄を取ろうとしたが、やはりゴローがどこにもいない。
――ゴローちゃん、どこに行ったんだろう。
フィーネはゴローの行方が気になったが、今は村長への挨拶が先だ。初めて訪れる村ということもあり、すぐに意識をそちらへ切り替えた。
「ヘルミオ様、いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
「お久しぶりですね、村長。ああ、奥さんも」
言葉は気軽に挨拶しているようだが、夫妻の様子にはヘルミオに対する敬意のようなものが感じられた。
「こちらがフィーネです。エルカディア様からお預かりして一緒に旅をすることになりました」
フィーネは一歩進み出ると夫妻に挨拶した。
「初めまして。フィーネと申します。お世話になります」
「ご丁寧にありがとうございます。私はこのラーデ村の長でハルドと申します。こちらは、妻のサリアです」
「こちらへどうぞ。フィーネ様にお泊まりいただく部屋を用意してございます」
「ああ、どうかフィーネとお呼びください」
「そんな、エルカディア様が手元に置かれている方を……」
「では、せめてフィーネさんで」
「はい、わかりました」
ハルドは戸惑っているようだった。
――今度からまず挨拶したら、フィーネと呼んでくださいって言おう。
フィーネはそんなことを考えながら、ハルドとサリアに導かれて家に入った。
「初めまして。フィーネと申します。お世話になります」
「ご丁寧にありがとうございます。私はこのラーデ村の長でハルドと申します。こちらは、妻のサリアです」
「こちらへどうぞ。フィーネ様にお泊まりいただく部屋を用意してございます」
「ああ、どうかフィーネとお呼びください」
「そんな、エルカディア様が手元に置かれている方を……」
「では、せめてフィーネさんで」
「はい、わかりました」
ハルドは戸惑っているようだった。
――今度からまず挨拶したら、フィーネと呼んでくださいって言おう。
フィーネはそんなことを考えながら、ハルドとサリアに導かれて家に入った。




