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旅の理由は、あとで 〜百年かけて生まれたエルフ〜  作者: こなれたタオル
第1章 始まりの森

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触れた光

 次の日。文はエルカディアについて、儀式の場に向かった。

少し緊張しながらエルカディアの後ろについて歩いて行くと、到着したのは命の樹のふもとだった。


「文様、こちらへ」


エルカディアが指すほうを見ると、命の樹の下に祭壇のようなものが設けられている。そこには初めて会うエルフの青年と、書庫で出会ったミオがいた。青年は恥ずかしそうに会釈をし、ミオは子供らしく元気に手を振ってきた。


文は二人に向かって小さく会釈すると、祭壇から一番離れた場所に立った。


この儀式に参加しているのは、文を含めて全部で四人だけだ。

一体どんな儀式なのだろう。昨日エルカディアが少し教えてくれたが、詳細は語られないままだ。


ただ、命の樹とエルフに関係する重要な儀式であることは理解できた。


エルカディアは祭壇の前に立つと、なにか言葉を唱え始める。最初はよくわからなかったが、どうやら昨日文が読んだあの本の中の言葉のようだ。


「……樹の前にて、流れを整え」


「……巡りを保ち」


「澄みたるままに、清きものを巡らせよ」


エルカディアが唱え終わると、辺りが静寂に包まれた。

いつも森の木々を揺らしている風が止み、鳥たちの鳴き声も聞こえない。命の樹はゆっくりと根の方から淡く光を帯びていき、やがて枝へ、葉へと輝きは広がっていく。


そして眩しい光が命の樹から空へ駆け上がった。

それと同時に、文は胸の中になにか温かいものが流れ込んでくるのを感じた。ひどく懐かしいような、だが怖いような感情が文の中を駆け巡った。


そして次の瞬間、文はめまいのようなものに襲われた。

青年がさっと手を差し伸べてくれたおかげで、文はどうにか倒れずにいられた。


「すみません。ありがとうございます」


文は青年に向かってそう言うと、一人で立とうとした。


「文様、シオンが支えますので、どうぞそのままで」


エルカディアが振り返って言った。


「儀式は終わりました。さあ、屋敷に戻りましょう」


「はい」


文はうなずくとそのままシオンに体を預けながら、屋敷に戻った。


 屋敷に戻ると、文は自室に戻って一度横になることにした。あの命の樹の輝きを目にしてからどうにもめまいが収まらない。


「あるじ、大丈夫なの?」


ゴローが帰ってくるなりバタリとベッドに倒れた文に声をかける。


「うん……なんだろう。命の樹を見た瞬間、体の中になにかが流れ込んできたような感じがして……」


「へえ。さすが命の樹だね」


「え?ゴローちゃん、あの儀式のことなにか知ってるの?」


「知ってるよ。これでも一応この国に百年いるしね。

でも、長老が詳しく言ってないなら、僕も教えられないよ」


「そうか。そうだよね……」


ゴローは文にわからないよう回復魔法をかける。


「このめまい、どのくらいで治る……」


いい終わらないうちに文の寝息が聞こえ始めた。ゴローはいつもの机からちょんとベッドにおりると、その寝顔を見た。


「まったく……やりすぎなんだよ」


呆れたようにゴローは言うと、文に毛布をかけた。


 昼すぎにようやく文は目を覚ました。

エルカディアのところに行ってみようか考えていると、ドアがノックされた。


「文様、お目覚めでしょうか。お茶をお持ちしました」


調理人の孫のリュエルだった。


「ありがとう。いただきます」


リュエルは恐る恐る文の部屋に入ると、テーブルに茶の器を置いた。そういえばリュエルが部屋に入るのは初めてかもしれない。ふと部屋を見回したリュエルは、不思議そうに暖炉へ目を向けた。


「あの、文様。このお部屋の暖炉は使われていないみたいですけど、どうやってこんなに温かくしてらっしゃるのですか」


「あれ、確かにそうですね。どうなっているんだろう」


そういえば、文はこの部屋で窓から入る風を冷たいと感じることはあっても、部屋の中の温度が高い低いを感じたことはないかもしれない。常に、一定に保たれているようなそんな感じだ。


――まさか。


文はベッドから降りて椅子に座ると、机の方を振り返った。ゴローはぬいぐるみの顔で座っている。


――あとで聞いてみないとね。


「お茶を飲み終えたら、エルカディア様のお部屋へいらしてください」


「わかりました」


リュエルはそういうとまだ不思議そうな顔をしながら、一礼して部屋を出ていった。

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