表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旅の理由は、あとで 〜百年かけて生まれたエルフ〜  作者: こなれたタオル
第1章 始まりの森

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
34/39

報告

 屋敷に戻ったのは、日が傾き始めた頃だった。外套の裾についた土を落とし、文は静かに廊下を進む。エルカディアは、書見机の前にいた。椅子に腰かけ、羊皮紙に目を落としている。


「戻りました」


文の声に、エルカディアは顔を上げた。


「無事に行ってこられたようですね」


「はい」


「炭の出来は、安定しているそうです。

火の回りもよく、煙の抜けも問題ないとのことです」


「そうですか」


エルカディアは、静かにうなずく。


「……炭焼きという仕事は、とても奥が深いものですね」


エルカディアの指が、机の上で止まる。


「そうですね」


「火を入れるだけではなく、煙を見たり、匂いを感じたり。様々なことに気を配らなければ成り立たない仕事です」


エルカディアは静かにうなずいた。


「ええ。炭焼きは火を見る仕事ではありません。火を読む仕事なのです」


「半日見ていただけでも、それが分かった気がします」


「そうですか。大きな収穫ですね」


少し間があってから、エルカディアが視線を上げた。


「……ゴローと行ったのですね」


 文は、一瞬だけ驚いた顔をした。


「はい。さすがに一人で行くのは心細くて」


「そうですね。まあ、彼もそのつもりだったと思いますよ」


「そうだったのでしょうか……」


「ええ。彼の優先順位はいつでもあなたですからね」


文は少し考えた。


「……なんとなく、そんな気はします。エルカディアさんは、ゴローのことをよくご存知なのでしょうか」


「ええ、彼とはずいぶん長い付き合いになりますから」


「あの……その間、どんな話をされていたのですか」


「いろいろと教えてくれましたよ。あなたの性格や、好きな食べ物や好きな色。そうそう、酸味のあるものがお好きで、熱いものは驚くほど苦手だそうですね。なんと言ったかな……ああ、『猫舌』だそうで。私にはどういう意味なのかよく分かりませんが」


不意に出てきた「猫舌」という言葉に、文は思わず苦笑いした。


「……そんなことまで話していたんですね」


「彼にとっては、大切なことだったのでしょう」


文は照れくさそうに目を伏せた。


「……なんだか、恥ずかしいですね」


エルカディアは文を穏やかな眼差しで見つめた。


「今日はいかがでしたか。お疲れではありませんか」


「体は大丈夫です。ただ、戻ってから、音が多く感じます」


「では、今日は早めに休んでください」


「はい」


文は答えると、部屋を出た。


 夜。明かりを落とし、文はベッドに入った。机の隅に座っているぬいぐるみに声をかけた。


「ねえ、ゴローちゃん」


「今日はどうだった?こっちに来て、初めて一緒に出掛けられたじゃない」


「あ、そうだ。エルカディアさんにわたしのこと、どういうふうに教えてたの」


ゴローは黙ったまま動こうとしない。


「ねえ、ちょっと……」


続きを言おうとした、その瞬間、急に強い眠気が押し寄せてきた。瞼が、思ったよりも早く落ちる。


――あ。


そこまでで、意識は途切れた。胸の奥を包む、やわらかな感触だけが残った。


翌朝、文はいつもより少し遅く目を覚ました。頭の奥に、眠りすぎた朝特有の重さが残っている。ゴローはすました顔で、机の上に座っていた。


「ありがとう」


文は小さく呟くと、両手を上げて伸びをした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ