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旅の理由は、あとで 〜百年かけて生まれたエルフ〜  作者: こなれたタオル
第1章 始まりの森

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一人で行く日

 「今日は、文様に行っていただきたい場所があります」


朝食の席で、エルカディアがそう切り出した。

ここ数日は、穏やかな朝が続いていた。


「どこへ行けばいいのでしょうか?」


文は飲んでいた茶の器を置くと、エルカディアに向き直った。


「炭焼き小屋です。以前、マルエナと一緒に行きましたね」


「はい。あの時は炭焼きの様子を見せてもらいました」


「今回は、一人で行ってきてほしいのです」


炭焼き小屋はカルドの小屋よりも、さらに山深い。


文はほんの一瞬、茶の器に視線を落とした。

しかし、そのあとすぐに答えた。


「はい。大丈夫です。何をすればいいんですか?」


「今、炭を焼いていると聞いています。

作業を始めると、しばらく小屋を離れられないでしょう。

差し入れを持って、様子を見てきてほしいのです」


「分かりました。」


文は、自分の声が少し弾んでいるのに気づいた。

エルカディアは、その返事を聞いて微笑んだ。


 文は食事を終え、食器をまとめて台所へ運ぶ。

火のそばに立つ調理人の姿を確かめてから、声をかけた。


「すみません、少しいいですか」


調理人が文の声に振り返った。


「なんでしょう」


「今日、炭焼き小屋へ行くことになったのですが、

何か差し入れを持っていきたくて。

おすすめのものがあれば、教えていただきたいのです」


「……炭焼きか」


そう言って、調理人は棚に目をやった。


「手を離せない時間が長いな。

簡単に食べられるものがよさそうだ」


調理人は、火から目を離さないまま、

調理台の端に置かれた籠へ手を伸ばした。


籠の中には、パンと、干した果物が入っている。


「硬めのパンと干した果物はどうでしょう。

簡単に食べられますし、保存もききます」


文は籠の中を確かめた。


「いいですね。これにします」


そう言って、籠に手を伸ばした。


「昼過ぎまでは、火につきっきりでしょう。

声をかけるなら、そのあとがいいと思います」


「わかりました。ありがとうございます」


調理人はうなずき、再び火の具合に目を向けた。

文はそのまま食事部屋をでた。


 部屋に戻ると、差し入れの籠を机の上に置いた。布を広げると、机の端に座っているゴローをそっと籠の中へ入れた。


「今日は、一緒に行こうね」


「え?」


文は丁寧に布で籠を包み、結び目を整えた。


外套を羽織ると、戸口に向かい扉を開ける。朝の空気が、静かに流れ込んできた。

屋敷を出て、村を抜ける小道を進んでいく。慣れた道なので、足は自然と前に出る。


小道の先で、足元の感触が変わった。土は柔らかくなり、落ち葉が音を吸い込む。村の気配はいつの間にか、遠くなっていた。


木々の葉はすでに落ち、空は思ったよりも広く見えた。その分、鳥の鳴き声が近く感じられる。文はふと時刻を思い浮かべた。急ぐ必要はないが、遅くもなりたくない。


以前マルエナと一緒に来たときは、慣れない山道を追うのに精いっぱいで、どれほど歩いたのか、よく覚えていない。ただ、長い道ではなかったはずだ。


文は歩きながら、籠を包んだ布にそっと触れた。


「ねえ、ゴローちゃん。聞こえてる?」


「聞こえてるよ」


ゴローは布の隙間をごそごそと動かし、ひょいと顔を出した。


「あるじ……。一人で行くんじゃなかったの?」


「うん。一人だよ。一人と一匹」


「ええ……」


「ゴローちゃんと出かけられるなんて夢みたい」


ゴローは呆れたように肩をすくめ、そのまま籠の奥へころんと転がった。


しばらくすると、少し開けた場所に出た。眼下に、村が小さく見える。

文は視線を前に戻し、また歩き出した。


道は次第に細くなり、足元の落ち葉が増えていく。鳥の声も、いつの間にか遠のいていた。


さらに歩いていると、風に混じって、焦げた木の匂いが届くようになった。


「近いのかな」


さらに進むと、斜面の向こうから、白い煙がゆっくりと上がっていた。煙は少しずつ濃くなる。風に流されていた白さの中に、重たい色が混じりはじめた。


焦げた木の匂いが、はっきりと分かる。喉の奥に残るような、熱を含んだ匂いだった。


煙の向こうに、低い屋根が見えた。炭焼き小屋だ。


文は、いったん空を仰いだ。太陽は高く、まだ傾きはない。そろそろ、昼どきだろう。小屋の前までたどり着くと、そこで足を止めた。火の音を聞きながら、しばらく待つ。炭焼き職人が汗を拭きながら、作業している背中が見えた。

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