表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旅の理由は、あとで 〜百年かけて生まれたエルフ〜  作者: こなれたタオル
第1章 始まりの森

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
31/37

いつもより軽い朝

 翌朝、目を覚ました文は、しばらく天井を見つめてから体を起こした。

いつもならなんとなく伸びをして、傍らに用意された服に手を伸ばす。


 ――あ。


そこで、昨夜のことを思い出した。


机の端。

小さなぬいぐるみ。

文は、ゆっくりと視線を向けた。


「……おはよう」


返事は、少し間を置いてからだった。


「おはよう、あるじ」


ゴローがいる。そして、話している。夢ではない。本当にそこにいる。文の胸の中にまた喜びがあふれた。ふと文は、動きを止めた。


「……ちょっと待って」


一歩、近づく。


「今さらだけどさ」


「なに」


「それ、わたしのことだよね?」


「なんのこと」


「その、『あるじ』っていうの」


「他に誰がいるのさ」


文は、思わず笑った。


「うーん、まさか、わたしがゴローちゃんにそう呼ばれるとは思ってなくて。

名前で呼んでるのかなあ、って思ってたんだよね」


ぬいぐるみは、少し不満げに足を動かす。


「なんか、こう、名前っていうのはちょっと……」


「え、なに?」


「別にいいでしょ、なんて呼んだって。

長老が、『あるじ』って呼べばいいって、言ってくれたんだ。理由は僕もよくわからないよ。長老に聞いて。」


「え、そうなの?でもさ……」


文がそう言いかけたところで、誰かが廊下を歩く音がした。

そろそろ朝食の時間だ。


「じゃあさ、朝ごはん食べてくるから。待っててね。」


文はぬいぐるみの頭をなでると、部屋を出た。


 食事部屋には、朝の匂いが満ちていた。

焼き立てのパンと、温かいスープ。いつもと同じはずの光景なのに、今日はほんの少し輪郭がはっきりして見える。文は席に着き、深く息を吸った。


――いいね。


今までで一番落ち着いているかもしれない。


「よく眠れましたか」


向かいに座ったエルカディアが、穏やかに言う。


「はい」


短く答えて、文はスープに口をつけた。

以前も飲んだことのあるものなのに、今日は一段とおいしい。

エルカディアはそんな文の様子を見て微笑んだ。


「……そうですか」


食器の触れ合う音だけが、間を埋めている。


「彼には会えましたか?」


文はもう一口スープを飲もうとしていたが、驚いて手を止めた。


「あの、エルカディアさんが少し前におっしゃっていた『会ってもらいたい者』ってゴローのことだったのでしょうか」


「ええ、そうです。彼はあなたが目覚めるのをずっと待っていました。きっと、彼も安心したことでしょう」


少し懐かしむように、エルカディアは続けた。


「ネイア様から、あなたの従者をこちらへ遣わすとうかがっていました」

「ですが、本当に驚きました」

「あなたの魂が命の樹に宿るのと同時に、私室へ見たことのない動物のぬいぐるみが現れたのですから」


「そうだったのですか……」


文はそれ以上、なにも言えなかった。


「これからは、彼にもいろいろと相談してください。この世界では、彼のほうが『先輩』なのですから」


エルカディアはそう言うと立ち上がり、文の肩にそっと手を置いた。それから、食事部屋を出て行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ