第2章:砲兵令嬢の結婚事情⑧
「姉さま、謀りましたね……」
「何よ、人聞きの悪い」
アンネリーゼから端を発したシャルロッテの結婚騒動以来、久しぶりに実家へ戻ってきたシャルロッテに、アンネリーゼは恨めしそうに、しかしどこか嬉しそうにそう詰め寄った。
シャルロッテが実家に戻ってきたのは、結婚騒動が終息したから――それだけが理由ではない。
「まあ、ロッテ……綺麗よ。ほら、あなたも、しっかりなさいな」
「……泣いてなどいない。老眼で目が霞んでいるだけだ」
「いや、お父様、着弾点を見切れるほど視力いいでしょうが」
「……どうして、こんな大事な時に締まらないのでしょうか、この家族は……」
純白のドレスに身を包んだシャルロッテを囲み、家族と一族はそれぞれの形で祝福を捧げていた。
娘が結婚できないと本気で思い込んでいた父の感極まった涙。
能天気に喜びを爆発させる母。
そして、婚約は自分の方が先だったのに、なぜか結婚式では追い越された妹の、どこか割り切れない表情。
ジークハルトとシャルロッテの結婚式は、念入りな根回しとは無縁の速度で準備が進められた。
結婚が表沙汰になってから、わずか1か月足らず――電撃的と言って差し支えない。
もともと距離の近かった二人に、改めて互いを知るための時間は必要なかった。
それどころか、これから戦地へ赴くことを思えば、悠長に時期を選んでいる余裕などない。
挙げられる時に挙げる。それだけの話だった。
――もっとも、式を急いだ理由は、それだけではなかったのだが。
「……ジークハルトよ。正式な婚姻を結ぶ前に、手を出してはいかん……」
「はい……本当に、反省しています……」
婚前に関係を結んでしまった二人は、当時の貞操観念からすれば、決して褒められたものではなかった。
加えて、シャルロッテと特別な関係になって以降のジークハルトは、とにかく彼女を溺愛していた。まるで堰を切ったかのように彼女に構い、毎晩のように共に過ごした。職務に支障はなかったものの、誰の目にも明らかに、ジークハルトはシャルロッテに夢中になっていた。
当のシャルロッテも特に気にすることなく彼を受け入れていたため、周囲は指摘することができなかった。
しかし、結婚前に妊娠が発覚しそうな状況であったため、とにかく結婚の時期を急ぐ必要があったのである。
そうして、二人を結びつけようと画策した張本人であるヴィルヘルムが、逆に苦言を呈するほどの濃密な1か月を経て、結婚式は挙行された。
「陛下、お望みは叶いましたか?」
「言うな、リッテンベルク。これは……私にも予想外だ」
そして――ほどなくして、シャルロッテの妊娠が発覚した。
時期から推測すれば、その第一子を授かったのは、兄妹のような関係から、男女へ、夫婦へ、そして夢を共有する同志へと変わった、あの夜であることは言うまでもない。
「大丈夫ですって。ジークだって、今だけ私に構ってるだけですから」
「……そうであれば、よろしいのですが……」
あっけらかんと笑うシャルロッテに、アーデルハイトは自分がとんでもない夫婦を成立させてしまったのではないかと、今さらながら背筋を冷やした。
「やはり……野獣、という意味でもあったのかもしれませんね」
「え? 何を今さら」
――ちなみに、完全な余談である。
ジークハルトとシャルロッテの間には、生涯で5人の子供が生まれる。
かつて取っ組み合いの喧嘩で意思疎通をしてきた二人が、別の“スキンシップ”を覚えてからというもの、二人の仲を「非常に良好」以外で表現する術はなかった。
かつてグラウエンシュタインの舞踏会で称された、競うように情熱的な「ローゼンベルクの炎舞」という言葉は、やがてそのまま、二人の夫婦関係を指す表現として定着していくことになる。




