関係者へのインタビュー・その3
Uさん:そのヌルヌルなんですけど、すぐ洗ったのに腕がかぶれちゃったんです。流石に怖くなって、しばらくRちゃんを避けてました……気まずいのもありましたけど。
――:分かってもらえないのは辛いね。でも、僕に言わせれば、最初から怪しさに気付かない方が悪い。呪術っていうのは、最後は自己責任だからね。
Uさん:そう言って頂けると多少救われます。でも、そう。私から見ても、クラスの子たちは守護天使を便利な物としか考えていないみたいでした。実際、その時は何も悪いことはしていなかったわけですし……
――:別のクラスの、自殺した子がいたでしょ。天使のせいだとは思わなかったのかな。それもある種の洗脳みたいなものだったとか?
Uさん:かもしれません。少なくとも、Rちゃんは普通じゃありませんでしたし。ただ、そうしてRちゃんから離れてみると、今まで見えなかった物が見えるようになったんです。
――:それは、比喩として? それとも、本当に天使の姿が?
Uさん:――影です。時々Rちゃんの足元に、何か見えない物の影が落ちていることがあって。目を離すと、すぐに消えてしまうんですけどね。
――:それ、本人は気付いてたの?
Uさん:いえ。それに、気付いても喜ぶだけだったと思います。そのうち、鏡とか窓にも映るようになって……いよいよヤバイと思ったんで、なるべく付きっ切りで見守ることにしたんです。
――:中々つらい立場だね。仲直りするにも、自分が間違ってたって言うしかなかったでしょ。
Uさん:そうそう、まさにそんな感じで。でも、久しぶりに一緒に帰った時ですよ。ずっと隣でべちゃべちゃと天使の足音がして、それがぴたっと止まったんです。恐る恐る振り返ったら、Rちゃんが立ち止まって海の方を見てました。もう駄目かもしれないと思いました。本当は、あんなに長いこと放ってちゃいけなかったんじゃないかって。
――:それは……僕なら逃げちゃうな。相手が家族でも、助けようとか、そういう考えは飛んじゃうと思う……Uさんは偉いよ。
Uさん:振り向いた時に天使が見えてたら、心臓が止まってたと思います。それだけが唯一の救いでした。ただ、それまでと違って――
〈Uさんは口ごもってしまったため相槌を入れようとしたが、筆者も余りのことに言葉を失ってしまった。ややあって、Uさんは再び口を開いた〉
Uさん:――残ってたんです。足跡。私たちが歩いてきた道に、あのべたべたした液を塗りたくったみたいに。
――:流石にそこまでいくと、櫛をプレゼントした子? だよね? うん、その子も自殺じゃなかったんじゃないかって話にならない?
Uさん:あくる朝、Rちゃんが学校の方から歩いて来た時は、だから、おかしいとは思いませんでした。とうとうこの日が来ちゃったんだって、それだけですね。雨だったのに傘も差さずに防波堤の階段を下って行くから、走って追いかけましたよ。
――:無事、間に合ったの?
Uさん:その時は。手を引っ張ったらRちゃんが激しく暴れ出して、蹴飛ばされたりしたけど、絶対に放しませんでした。そしたら、もみ合う内にRちゃんが持ってた貝を落としたんです。わけ分かんないまま、がむしゃらに蹴り飛ばしました。海に貝が落ちて、Rちゃんはもの凄い形相で私を睨みましたけど、直後に海の方を見て、震え出して……Rちゃんには、見えてたんだと思います。
――:見えたって、天使の本当の姿的な? Uさんには見えなかったんだよね?
Uさん:はい……Rちゃんが走り出したから、私も急いで追いかけて……貝がなくなったからか、天使が追いかけて来た様子はありませんでした。一度Rちゃんの家に寄って、高校に電話を入れて……その日はもうお休みすることにしたんです。
――:まさに危機一髪だね。Uさんの勇気がなければ、Rさんはきっと海に引きずり込まれていたよ。その後、Rさんは? 元気を取り戻せた……よね?
Uさん:元気というか、天使への執着? はなくなったように見えました。貝殻がなくなったからだと思います。次の日には、一緒に学校に行けるくらいにはなって――
その後の詳しい話も質問したかったのだが、予約していた新幹線の出発時刻が押しており後ろ髪を引かれる思いで店を後にした。以下は私が読者投稿に送ってもらうようお願いした、後日談である。




