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中編・下

 都市伝説的な話で”家に霊がいるかどうか簡単にチェックする方法“がある。ニ十年くらい前にSNSで話題になっていた。それを淳は時々興味本位で実践していた。


 まずは、瞼を閉じて意識を集中する。そして自宅を想像する。深い意識の中へ入るとそこはまるで現実味が強くなる。現実なのか霊界なのか意識がその世界へと入り込む。淳は玄関から家の中に入り、家の中を歩き回る。家の中で見知らぬ人とすれ違う。その正体は家に居る霊であるというものである。


 さらに、家の中で霊である者たちと何人もすれ違うようならその場所が霊道である。


 淳はいつものようにその霊視の類なのか、幽体離脱の類なのかは分からないが実施した。。


 玄関扉を開き、次に中扉を開き居間へ向かった。


 真っ暗な居間にはいつもの父が座していた定位置に霊は居た。


 父の霊である。


 座布団の上にあぐらをかいて座した姿は生前の姿そのままであった。


 だが、一つだけ明らかに異なる箇所があった。


 それは、父・孝之の眼球が光っていることである。


 まるで猫が夜間行動しながら夜行性で眼を光らせているのと同様に、父の眼が光っていたのだ。


 その妖光の視線の先には淳が居た。


 父は無表情であり、そこからは何も感情を読み取ることはできない。


 淳は慌てて霊視を終了させたが、胸騒ぎは収まらなかった。





 翌日。

 再度あの霊視または幽体離脱を行った。


 父はやはり前回と同様に妖光を双眼から発している。ただ一点じっと淳を視界に捕らえていた。


 あれは本当に父なのかさえも分からない。拭い切れない漠然とした不安。それだけが心の中で重く沈んでいく。


 この二度目の霊視以降、その後も何度も霊視を試みた。だが、何か見えない壁に阻まれてしまう。淳は家の中に入ることを拒まれた。


 それがきっかけなのか、部屋の中で銀色に輝く光が視界に入ってきたりする。廊下の扉の磨り硝子越しから橙色の光が灯って見える。その明るさは廊下の照明が点灯している輝きの強さであった。


 なるべく気にしないようにしていて生活していた。だが、部屋で煙草の臭いが突然する。腐敗臭がしばしば鼻腔を刺激するのだ。


 ヘビースモーカーでもあった父以外、家族の中には喫煙者はいないにもかかわらずである。


 腐敗臭や排泄物の臭いは死者が近くに寄って来ているとよく言われている。そのことから、淳は亡き父が傍に寄って来ているのではないかと考え始めた。


 その他にも、異常な程の睡魔に襲われた。体の倦怠感がいつまでも続いた。


 腰痛や肩凝りで悩まされたた。母は原因不明の高熱が出たり、微熱が慢性的に続き体調を崩した。


 実家から離れて暮らしているが、母・博子は遂に家の中で夫であった父・孝之の姿を見た。


 流し台と風呂場の近くの水回りで生前の姿で立っていたのを母が目撃した。


 突然死だった為に、父は己が既にこの世の住人でないことを理解できていないのではないかと淳は考えた。


 睡眠中の動脈硬化による心筋梗塞。父は突然死したため、死は一瞬で訪れた。


 深い眠りに堕ちるように。何処までも深く墜ちた先が死であった為に、死から目醒めた瞬間に己の死が解らないままでいるのだ。


 突然死であり、遺体は検死後には葬儀屋の安置所で預けられた。腐敗が激しい為に直ぐに火葬した。そのため、死を受け入れていない。実家に己の遺体がない。通夜などで人の出入り嘆き哀しんでいる人たちの姿を見ることもない。故に霊体の父がそれらを見る機会がなかった。己の死を理解する機会があればよかったのだが。


 その機会がなかった為に、父はあの実家居る。そして、いままでどおりの生前の日常生活を送っている。何の疑いも持たずにずっと。そうに違いないのである。


 あの女が――

 あの家を支配している事にも、気づかずにいるのだ。

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