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天蓋の檻~並行国家日本の交渉~  作者: 龍乃光輝


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21/22

第21話『代表団本土入り①』

9割ほど執筆したところ思うところがあり、全て別内容で書き直しました。

そのため今回は短めです。

 ゴールデンウィークが過ぎ、夏に向けて少しずつ気温が上昇しだした五月中旬。

 夏にも負けない熱気が永田町を覆っていた。

 一見すれば、複数人の一団が佐々木総理を訪問するだけである。しかし、今回の訪問者は立場が特殊だった。

 国賓として招くわけにもいかず、一般人として会うわけにもいかない。

 しかし一国の長ともまた違うため、前例のないことに官邸は苦慮していた。

 転後日本の政治代表団の総理訪問である。

 様々な安全措置から本土より千キロ以上離れた硫黄島に停泊し、オンラインで本土とやり取りをしていた転後日本。

 戦後世界に現れてひと月が経ち、帰還計画の原案が完成したことでその説明をするため直に赴きたいと連絡をしたのだ。

 その連絡を転後日本からしたのが五月六日。総理のスケジュール調整に一週間はほしいとし、その間に天自艦隊は洋上での慣熟訓練などを実施して過ごした。

 転後日本の訓練は様々な懸念材料を生み出すが、戦後日本が了承したことでそれを実施。その間に佐々木総理の日程を再調整して、五月十八日に訪問ができるようにしたのだった。


 そして迎えた五月十八日。午前八時。

 航空自衛隊が保有する、ビジネスジェット機を原型とした多用途支援機U‐4が、硫黄島の中央滑走路に着陸した。乗員三名のほか、搭乗者十八名を乗せられる機体である。

 滑走路脇には、新政代表と代表部員二名、天自艦隊から笹部隊司令と幕僚二名、天上自衛隊から随行武官として一佐と一尉が各一名、そして特別要員の秋葉典子三曹の計九名が、それぞれ背広と礼装を身に着けて待機していた。

 本来、政府首脳との会談に三曹という下士官が同席することはない。しかし秋葉典子については、その同系存在という確定した特殊性に関心を持った佐々木総理から面会の要望があり、代表団への参加が決まった。

 さらに、戦後日本側の秋庭たち現地接触班も、この便で一度本土へ戻ることになっている。緊急措置として一か月以上にわたり硫黄島で任務に就いていた彼らに、休息を与える意味もあった。

 着陸したU‐4に一行が乗り込み、搭乗確認と出発前点検を終えると、機体は再び滑走路へ進入した。

 ほどなく離陸し、本土へ向けて上昇していったのだった。

 転後日本の指揮体制は、新政代表と笹部隊司令が同時に艦隊を離れても混乱しないよう、あらかじめ代行順位まで定められていた。

 本来の任務でも、転後地球でペオ・ランサバオンを建造する過程で、新政代表が艦隊を離れ、アメリカや国連へ赴くことは想定されていた。その際、代表団の安全が脅かされた場合でも、艦隊が任務を継続できる体制が構築されている。

 当然、代表団に何かあれば士気の低下までは避けられない。しかし、本国から即座に支援を受けられない任務である以上、艦隊だけで自己完結できるよう、転移以前から訓練を重ねていた。

 天自艦隊は、静かに通常業務をこなしながら代表団の動向を、報道を通じて見守る。


      *

 転後日本の代表団が、戦後日本へ本土入りすることは公式に発表されており、当日の朝から在京キー局は過熱気味に報道を繰り返していた。

 外見も言語も日本人と変わらない一行が総理と会うという、一種の国内の表敬訪問に近いのだが、別世界から来たという要素から話題性があるとして大盛り上がりとなった。

 転移当初から転後日本の情報は戦後日本政府を介して公表しているため、新政代表の姿や記者会見の映像などでその人柄は広く知れ渡っている。技術に関しても同様だ。

 国土転移から艦隊転移までの半世紀に及ぶ歴史も、ある程度は公表されており、それを根拠に様々な考察や議論がされている。


『――政府高官の話によりますと、今回の転後日本の代表団の本土入りは、転後日本が作成した帰還計画を、日本政府に説明するとのことです。元々は同じ次元での転移だったはずが、世界と時間を越えてこの世界へと転移してきました。計画の説明と言うことは原因が分かったと言うことでしょうか』


 羽田空港のターミナル屋上では多くのマスメディアが集まっており、代表団を乗せたU‐4が着陸するのを待ちながら現在入っている情報を視聴者へ報道をしている。


『帰還計画を天自艦隊だけで実行できるのか、それとも我が国を含めた複数の国へ協力を求めるのかが注目されています。複数国の協力が必要となれば、現在は秘匿されている転後技術の一部が開示される可能性もあります。熱を電気へ変換するレヴィニウム、質量を軽減して立体的な移動を可能とするレヴィロン機関、シールドを発生させるコクーン。これらの技術が開示されれば、この社会の技術体系そのものが、従来とは異なる方向へ発展する可能性があります』

『転後技術の取り入れに関して、野党は慎重または反対意見が多数出ています。同系日本とはいえ、異星技術を取り入れて制御出来るのか。我が国に限らず幅広く流布して全体で浸透させていくべきではないか。軍拡につながりかねないなどの言葉が寄せられています』


 U‐4を優先して着陸させるため、使用滑走路への民間機の進入間隔が一時的に空けられていた。延長線上の空に機影が見えて来た。


『……あ、ご覧ください。一機のビジネスジェット機……航空自衛隊が運用しているU‐4でしょうか。だとすればあの機体には転後日本の代表団が搭乗していることになります』


 着陸態勢に入ったU‐4は、着陸装置を下ろしたまま一定の角度で高度を落とし、滑走路への最終進入に入った。接地の直前、機首をわずかに上げて降下率を抑える。主脚が滑走路を捉え、続いて前脚が接地した。

 在京キー局のカメラはU‐4を追いかけ、まるでアメリカ大統領の乗るエアフォースワンが着陸するかのような雰囲気で画角に収めていく。

 機体下部から車輪が現れ、滑走路をしっかりと噛み締めてU‐4は着陸を果たす。


『今着陸しました。転後日本の代表団を乗せたU‐4が、いま本土に着陸しました』


 着陸して減速するU‐4は、誘導路を通って格納庫へと自走していく。


『代表団はこの後、硫黄島では特別措置により猶予されていた正式な上陸審査を受け、総理官邸へ向かいます』


 戦後日本政府は、転後日本の構成員に対し、硫黄島航空基地と艦隊との往来に限った一時滞在を特別に認めていた。

 ただし、それは緊急措置にすぎず、通常の上陸審査や日本国内での活動資格の決定までは行われていない。

 今回、代表団は羽田空港で転後日本政府発行の旅券を提示し、初めて正式な上陸許可を受けることになる。なお、査証の取得については特例措置により免除されていた。


      *


 天自艦隊は、転後日本本国の承認を経て転移し、地球へと来た。そのため正規の手続きとして旅券を全員所持しており、査証などの取得問題はあれど正面から他国の門戸を叩く準備をしてきた。

 転後日本では、紙媒体とデジタル媒体の二種類の旅券が発行されている。

 紙媒体は従来と同じ手帳型で、デジタル媒体は専用端末やアプリから個人認証を行い、旅券情報を呼び出す方式だった。両方を所持することはできるが、一度の渡航で使用できるのはどちらか一方に限られる。出国時に紙旅券を使用した場合、入国時にも同じ紙旅券を使用しなければならない。記録が別々の旅券へ分散することを防ぐためである。

 天自艦隊の全員には紙旅券を所持させ、デジタル旅券を使用しない方針が取られていた。戦後世界には転後日本の認証基盤が存在せず、デジタル旅券の真正性を照合できないためである。紙旅券であれば、世界や時代が異なっても、記載内容と偽造防止措置を直接確認できると判断された。

 新政代表を含む九人の代表団と、波川海将補を含む現地接触班の五人はU‐4から降機し、代表団は待機していた政府職員の案内で特別入国審査ブースへと向かった。

 同系存在とあって、旅券の仕様はほぼ同じだ。五十年の歳月で偽造防止の更新はされても、基本的な形状は同じである。違うとすれば国籍が地球/日本と併記されているところであろう。

 転後日本には、本人の意思で在留を選んだ多数の外国人が残っていた。しかし、母国そのものが失われたことで、従来の国籍が実体を失うという問題が生じた。

 そのため転後日本は、旧地球出身者に共通する地球籍を設け、従来の国籍を出身国籍として併記する二層式の制度を採用した。新政代表たちの旅券に記された地球/日本という表記も、その制度によるものだった。

 入国手続きは滞りなく終わり、ターミナルを抜け、警察の警備の中で停まっていたマイクロバスに乗り込んだ。

 そして警察車両の先導で総理官邸へと向かう。


「いやぁ、数十年ぶりに非浮遊機に乗りました。あれだけ揺れたのですね」


 移動中の車内で、新政代表がそうつぶやいた。


「転後日本ではもう航空力学に基づく航空機は使用していないのですか?」


 通路を挟んで反対側に座る波川海将補が聞き返した。


「ええ。『レフォ』の全国展開に合わせて、航空機の仕様を全面的に変更しました。純粋に航空力学だけで飛ぶ機体は、現在では博物館に残されているものだけですね」


 レフォとは、提供した資料にも記載されているRFフィールド生成装置の通称である。フィリアで自然に成立している転後技術の作動環境を、人工的に形成する装置だった。

 レフォの有効圏内では、レヴィロン機関を搭載した機体や車両が浮遊能力を発揮できる。反対に圏外では、その機能を使用できない。

 レヴィロン機関は、国土転移初期の転後日本が安全保障を維持できた重要な要素と位置付けられていた。ユーストル有事後に国際的地位を確立した転後日本はレフォを開発し、国内の航空機を順次浮遊機へ更新した。

 ちなみに、このレフォは一般にはまだ公表しておらず、戦後日本政府内のみに留まっている。転後技術を使用する重要なインフラ設備であるため、外交上アメリカにもこのことは伝えてはいないらしい。

 ただ、戦後世界ではレヴィロン機関は一般化されていることは伝わっているので、レフォがなくても使えるという認識となっている。政府も特段言及はしていない。


「浮遊機に更新して以来、ヒヤリハットはあっても墜落事故は起きていません。レヴィロン機関が小型なので、常用、予備、非常用の三系統にすることで安全性が上がりました」


 レヴィロン機関は小型でも航空機を浮遊させる推力を出せる。万一メイン機関が故障しても、予備が作動し、それが壊れても独立した非常用が機体をゆっくりと着陸させる。

 それによって、死者を伴う航空機事故は更新後は一度も発生していない。

 レフォも同じだ。遠隔で管理が出来る正副と、ネットから独立して人力でのみ稼働する非常用が全国各地に設置されてレヴィロン機関の性能を維持させている。


「それは羨ましいですね。こちらでもせめて軟着陸出来れば大勢の人が助かります」


 理想は素晴らしいが、転後日本だけの更新と戦後地球の更新となると文字通り桁が違う。万一の事故による被害を最小限に抑えられるが、それを果たすには時間と労力が掛かるだろう。


「いかがです? 皆さんから見て半世紀前の東京の様子は」


 海将補がそう尋ねた。時折テレビでは転前、転後の日本各地の様子を映した番組を放映する。ビフォーアフターで、今と昔はどう変わったのかを見せる番組を、代表団は車窓の景色を眺めながら、それぞれの記憶に残る半世紀後の東京と見比べていた。

 転後日本の羽田空港には、何千メートルにも及ぶ滑走路は残っていない。すべての航空機が垂直離着陸できるため、空港の敷地は大幅に縮小され、不要となった土地の一部は公園として一般に開放されていた。

 自動車はタイヤで走る『地走型』とレヴィロン機関で浮遊する『空走型』に分かれ、免許によって区別されている。だが、この世界には空走型の自動車が存在しないため、東京の空は彼らの記憶よりもずっと静かだった。

 建物にも違いがあった。再開発を免れて半世紀後まで残っていたものがある一方、この時代には存在していても、彼らの知る東京ではすでに姿を消しているものも散見された。

 ただ、東京タワーやスカイツリーなどの特徴的なランドマークはそのままだ。

 世界を越え、時間を越えても、見慣れた建造物が残っていることに、代表団はどことなく安堵を覚えていた。


「できれば、艦隊に残った隊員たちも本土入りさせたいですね」


 新政代表は過去の東京を眺めながら、千キロ以上離れた硫黄島沖に残る仲間たちへ思いを巡らせた。

 艦内から硫黄島へ移り、陸地に足を下ろすことはできる。しかし、文明社会から切り離された生活が長引けば、心は少しずつ疲弊していく。精神衛生上も、隊員たちには都会に触れる機会を与えるべきだった。

 代表団のほかの者が何を考えているかは分からない。それでも、自分がそう思う以上、同じ思いを抱いている隊員は少なくないだろう。

 安全上、すぐに実現させることはできないが、少なくともその道筋は立てておきたい。

 そのためには、戦後日本円を得る必要があった。

 天自艦隊が保有する転後日本発行の円は、この世界では通貨として使えない。今回のような公式訪問であれば戦後日本政府の負担で済むが、三千人を超える隊員へ継続的に外出や休養の機会を与えるとなれば、それだけに頼るわけにはいかなかった。

 何らかの商品を売るか、技術や権利を供与し、その対価として戦後日本円を得なければならない。単発の収入を得る方法はいくつかあるが、必要なのは継続的な収入だった。

 となれば、予定していたあの案を使うしかない。

 佐々木総理も以前から懸念を示していたが、交渉がまとまれば、使用料として安定した収入を得られる。

 半世紀前の東京を車窓から眺めながら、新政代表は佐々木総理へどのように切り出すか、静かに交渉の組み立てを考えていた。


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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 転後日本人が本土初上陸!! 転後日本の交通事情も判明。 戦後日本の空を異星版空飛ぶ自動車が飛ぶ日は? 次回も楽しみにしています。
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