第13話『警告射撃』
つい先日まで、あと数年は座ることが許されなかった艦長席に座る久坂二佐は、表面上は平静を装っているが内心は緊張の面持ちで艦橋から超大型艦を見据えていた。
通常、〝てるづき〟など戦闘艦の艦長はその統率人数から必ず二佐以上でないとならない。三佐となって数年。次期人事で二佐に昇任し、副長経験から艦長に任命される段階だった。
しかし、秋庭二佐が天自艦隊対応のため艦長の任を解かれ、繰上昇任で二佐に昇任して〝てるづき〟の艦長となった。
昇任はうれしくもそれに伴う責任は倍増し、正規の昇任ではないから心に淀みを抱いてしまう。
それでも自衛官として、その任を果たすべく久坂艦長は思考を巡らせる。
CICからの報告では、あと五分で中国の早期警戒機編隊が天自艦隊の頭上を通る。
早期警戒機自体に戦闘能力はないが、随伴する戦闘機はRCS《レーダー反射断面積》からステルス戦闘機のJ-35と予想されている。
前型のJ-20よりRCSが小さいことからの推測だが可能性は高い。
とはいえ天自艦隊のレーダーは既存の物より優れているだろうから、より鮮明に把握していることだろう。
問題は、ただ頭上を通るだけなのか、それとも何もしていない天自艦隊を攻撃するのか。そこが不明だ。
国際ルールに則れば、公海にただいるだけの艦隊に攻撃は明確な国際法違反だ。侵略行為をしていなければ威嚇行為もしていない。秩序改善と無理やり通せなくもないが、同時に撃墜されても文句は言えない。
ただ、中国に限らずそうした国家は先制攻撃された事実を無視して、撃墜されたことを大々的に報じて自分たちを被害者にする。
天自艦隊も同一日本ならば、それは分かっていて証拠を十分に残すだろうが。
艦内通話に着信が来て、隊員が受話器を取る。
「……艦長、電信室より天自艦隊からオープンチャンネルで広域放送をしているとのことです」
「聞かせてくれ」
「分かりました」
『こちらは日本国国防軍天上自衛隊である。現在我が艦隊に向けて飛行を続けている所属不明編隊に告げる。所属不明編隊の高度が7000フィートを下回っている。我が隊の頭上を飛行するのは構わないが、高度7000フィート以上に上昇してもらいたい。下回る場合、その機体は重大な危険に直面する。繰り返す――』
天自艦隊は迫ってくる中国機編隊に向けて日本語で警告を発した。
「……艦橋よりCIC。中国機編隊の高度はいくつだ、送れ」
久坂艦長は放送からワンテンポ遅れてあることに気づいてCICに繋いだ。
『所属不明編隊は現在5500フィートを飛行中』
早期警戒機としてははるかに低い。だが、天自艦隊を撮影するならば適当な高度でもある。
そして天自艦隊は頭上の飛行を許可するが高度制限をするということは、情報にあるコクーンの高度と言うことだ。不可視で物理的な障壁を作るコクーンを展開しているなら、当然接触すれば脆弱な機体は一瞬でバラバラとなり、ミサイルの誘爆もあってパイロットは脱出する間もなく死亡するだろう。
防衛上、天自艦隊はコクーンを解除できない。
だからオープンチャンネルで高度を上げるように要求したのだ。
「航海長、〝てるづき〟と〝かが〟の距離は?」
「〝かが〟まで0.7マイル」
天自艦隊は輪形陣を敷き、その十時方向に位置する護衛艦〝かつらぎ〟を通過して中央の〝かが〟に隣接するべく減速をしている。その後波川海将補たち現地調査班を〝かが〟に乗艦する手筈だ。
コクーンは装置から球体上に展開するとされ、防衛上どの艦から発しているかは分からないが、セオリーならば中央に位置する〝かが〟だろう。
つまり〝てるづき〟はコクーンの中にいる。
「CIC、中国機編隊の高度はいくつだ、送れ」
『五機中四機が5500フィートから上昇中。一機はそのまま』
「編隊と先頭艦の〝あかぎ〟までの距離は? 送れ」
『現在の速度を維持した場合、〝あかぎ〟まで三分』
戦闘機、それも最新ステルス機であれば急上昇は可能だ。寸前で上昇は可能だが、高度維持はこの放送が虚偽なのかを見極めるつもりなのだろう。
既知の技術ではない、SF紛いの不可視の壁。それを科学的に展開できるとなれば確証を得ようとするのは軍人としては自然だ。
日本はそのシステムが存在していると知っているから接触しないようにするが、中国は当然自身で探ろうとする。しかし、不可視のシールドに有人機で迫るのは危険極まりない。
「チキンレースでもするつもりか」
通り過ぎれば警告は虚偽として非難。破壊すれば撃墜されたと虚偽をついて非難。どうあっても天自艦隊への非難へとつながる。
先の勧誘をオープンチャンネルで拒否した手前、しっぽを巻いて戻るわけにはいかないからだ。メンツをつぶされた手前、何かしらの成果を出さなければ重い処分が下される。
天自艦隊は間違いなくコクーンを展開していて、このままでは中国機は破壊されるだろう。
久坂艦長は考える。
何もせず事の成り行きを傍観するか、それとも中国機の破壊を防ぐか。
法と規則に則れば、海上自衛隊は中国機の接近に対して一報を発するしかできない。
『現在我が艦隊に向けて飛行を続けている所属不明編隊に告げる』
天自艦隊は繰り返し警告を発する。しかし日本語のままだ。
「CIC、高度は変わらないか?」
『高度変わらず。〝あかぎ〟まで二分』
「……艦橋より士官室。こちら艦長の久坂です」
久坂艦長は内線先を現場調査班のいる士官室へと切り替えた。
『秋庭だ』
「現在艦隊が展開しているコクーンに中国機が接触する高度で飛行中。回避行動をとらなければあと二分で接触します。天自艦隊は日本語で警告をしていて中国は無視をしている恐れがあります。ですので英語で警告後、コクーンの存在を知らしめるには何らかの物を当てるべきと考えます」
久坂艦長は簡潔に状況と要求を告げる。
『分かった。少し待て』
幸か不幸か、この間には二佐以上の海将補が乗艦している。元来なら司令部につなぎ、本省、最大官邸にまで持っていくが、そこまでの時間的猶予はない。現場判断にするべきとして判断を仰ぐことにしたのだ。
『――艦長、敵意はないと発信して主砲を一発、戦闘機の進路上に撃て』
「っ! 了解。対空戦闘用意」
許可を得たことで久坂艦長は着任からわずか一日で武装使用の命令を下した。
同時に艦内にアラームが鳴り響く。
〝てるづき〟就役後、訓練以外で鳴った初の号令アラームだ。
タイムリミットは一分半を切っている。上昇を考えるとより短く、迅速な行動が求められる。
「目標、低空飛行中の航空機の進路千ヤード先コクーン」
だが、常に護衛艦に務める者は、防護は時間との勝負であることを第一に叩き込まれる。
艦首にある62口径5インチ単装砲が回転をし、砲の仰角を上げた。
『現在接近中の航空機に発する。こちらは海上自衛隊駆逐艦DD‐116。航空機は現在危険空域に近づこうとしている。これから発砲を進路上に行い、その危険性を見せる。これは警告射撃であり、戦闘の意思はない。繰り返す――』
〝てるづき〟からオープンチャンネルで、これから何をするのか目的と手段を英語で放送した。
艦長席から立った久坂艦長はブリッジウィングへと出て双眼鏡を構える。視線の先は砲塔の射線上だ。
CICから用意よしの連絡が来る。
「主砲撃ち方始め」
コクーンは力場の流動体で形成され、常に発信源から反対方向へと流れているらしい。受けた物的衝撃は流動する力場で拡散されてエネルギーが0となり、光学以外の物理は一切を遮断する。
パチュン。
粘度のある液体に物が当たる音が聞こえるとともに、真っ青な空に波模様が見えた。
空のある一点から波が円形状に広がると円はすぐさま歪み、球面に沿う楕円へと変形した。その円は広がりつつも海に落ちるように移動をする。
コクーンに主砲が当たったのだ。
「本当にシールドが張ってあるのか」
確信はしていても実際にそれを見ると強く認識する。
真上を点が移動する。機影は見えずとも点が視認出来るということは早期警戒機編隊だろう。
久坂艦長は艦橋に戻ってCICに繋ぐ。
「艦橋からCIC、低空の中国機はどうなった? 送れ」
『主砲の発砲後、高度を上げている。消失はない』
「分かった。対空戦闘用具収め」
時間的に高度を上げていなければぶつかっている。無事に安全空域まで上昇したのだろう。
〝てるづき〟就役以来初の実戦。わずか数分ではあるが、無事に成し終えて久坂艦長は周囲に悟られないように安堵の息を漏らした。
繰上昇任で艦長になった新米とはいえ艦長は艦長だ。艦内の士気を下げないように威厳を保つよう努める。
「艦長、〝かが〟より通信です。援護感謝する、と」
咄嗟の判断ではあったが、間違ってはいない評価を得て久坂はさらに安堵した。
もしあのまま何もしなければ、チキンレースをした中国機はコクーンに当たって撃墜。転戦日本が関与した事案として過去にない問題となっただろう。
禍根は残したが遺恨は残さなかったのは良かった。
「士官室に行ってくる。艦橋を副長に任せる」
久坂は先の仕事を同じく繰上昇任した副長に現場に任せ、状況を説明するべく海将補たちのいる士官室へと向かった。
士官室では現地調査班が座ったまま待機していた。久坂は帽子を脇に挟んで入室する。
「海将補、中国軍機は無事コクーン上空を通過しました。撃墜機はありません」
「そうか。苦渋の判断だったがよくしてくれた。万一撃墜していたら重大な国際問題になっていた」
あの場面で判断を下すのは久坂しかいなかった。宣誓時から覚悟はしていたが、決断一つで重大な国際問題となると立場としては重い。
「久坂、よくやった」
一時的に艦長を退いている秋庭二佐も久坂を褒めたたえた。
「ですが官邸の判断を仰がずに動きました。中国機は守りましたが、砲撃をした事実も残りますので」
「艦長の不安は分かる。しかし当たらない一発の砲弾と、不可視のシールドに激突しての撃墜であれば、どう考えても前者が正しかった。寸前で上昇して回避したかもしれんが、それを知る者は誰もいない。中国機だってどこからコクーンがあるのか知らないのだからな。艦長は日中間と中国機のパイロットの命を救ったんだ。艦長の判断は正しかった」
波川海将補は断言した。
「ありがとうございます」
「久坂、お前は俺でもできたか分からないことを提案して、それを見事成し遂げたんだ。問題は生まれたが大問題は防いだんだ。堂々としていい」
秋庭二佐も久坂の両肩に手を乗せて断言する。
出来れば問題すらないのがよいが、それが出来ないなら問題の質を低下させるしかない。
「はい」
「秋庭二佐、私と艦長は横須賀に報告に行く。艦長、もうじき〝かが〟に隣接するな? 私は遅れることを伝え、秋庭二佐を筆頭に先に〝かが〟に乗艦しておいてくれ」
「分かりました」
「失礼します」
重大な国際問題になりかけた事案だ。政府としても迅速に情報を得て対応を考案しなければならない。立案者と判断した者たちが責任者として報告しなければならず、久坂は一礼をして執務室を後にした。
入る前と違い、肯定的な意見を聞いて胸の中の重りはすっかりと消え去っていた。
*
予定通り〝てるづき〟が〝かが〟の左舷三百メートルの位置に到着すると、見計らったかのように艦載浮遊艇が〝かが〟から発艦して〝てるづき〟の後部甲板へと着陸した。
「お待たせしました。どうぞお乗りください」
転後日本の自衛官が敬礼をし、秋庭たちも敬礼をする。
「よろしくお願いします。伝えましたが、波川海将補は先ほどの事案を本国に連絡しているため遅れます。お手数ですが再度移動をお願いします」
「承知しています」
転後日本の自衛官は微笑んで返し、秋庭たちは荷物を浮遊艇へと乗せていく。
今回は一時的ではなく硫黄島まで乗艦する予定なため着替えを持ってきているのだ。
海将補を除く四人が浮遊艇に乗り込むと、やはりエレベーターのような機械的な感覚で浮遊艇は上昇し、横移動に移って〝かが〟へと移動を始めた。
「レヴィロン機関、頭でわかってもまだ胸の中に落ちてこないな。力場で浮いてるとは言っても、磁場とも違ってどうやって数十万トンをも浮かせられるんだ」
坂井技術官が横移動する浮遊艇の床に触れながら、自身の価値観と現実のギャップを埋めようと考察をする。
「磁場浮上だってリニアだが、あれはレールと車両が対になって初めて成立する技術だ。何もない空間で、しかもあれだけの質量を浮かせるとなると電磁気学では説明がつかない。仮に重力に逆らって浮かせているなら、どれだけのエネルギーが必要なんだ?」
「詳しい数字は明かせませんが、超低燃費で浮遊できます」
「そこですよ。資料は見ましたが具体的な数字は黒塗りされていて抽象的な表現でしかわかりませんし」
「すみません。防衛上、技術上共に一気にすべてを開示するわけにはいきません。皆さんならご理解いただけるかと思います」
超技術を手放しで渡すのは愚か者だ。技術を小出しして反応を見て制御しようとするのは現代でも当たり前に行われている。
「技術屋からすれば辛いところですけどね。目の前にそそるのがあるのに分からないのは」
「いずれは分かるかと。自分が言えるのはここまでです」
そうしているうちに浮遊艇は〝かが〟側面に到達し、高度を上げて甲板と同じ高さとなる。
さすがに前回と違って乗員が多数集まっていることはなく、政治部代表団が待ち構えているだけだった。
「再度遠路はるばるご苦労様です」
新政代表が柔和な表情であいさつをする。
「こちらこそ。再度乗艦許可をしていただきありがとうございます。波川海将補は先の事案を本国に連絡中のため遅れて乗艦します」
「聞き及んでいます。そして、先の事案については迷惑を掛けました」
新政代表とその代表団は頭を下げた。
「中国の勧誘を退けるために英語は出来ない体でしましたが、そこを逆手にとって我々の警告を無視するのは怠慢でした。それによって中国機が撃墜する最悪の事態を招くところでした」
「中国はそれを最大限利用して国際世論を味方につけて、堂々と天自艦隊に東海艦隊を派遣して臨検をするかと思います」
法的に転後日本及び天自艦隊は所属不明の武装勢力だ。コクーンの危険性を身をもって示せれば堂々と調査と称して臨検して拿捕。国へ持ち帰る算段が立つ。
そうなれば戦後日本は黙ってないし、転後日本も抵抗する。ならばロシアも黙ってないだろう。中露が動けばアメリカも動かないわけにもいかない。
極論だが今回が原因で第三次世界大戦もありえたのだ。
戦後日本が日中関係を悪化するかもしれない結果となったが、それでも第三次世界大戦は回避できたと言えよう。
「ですので〝てるづき〟の機転に感謝を表明します」
「機転を利かせたのは艦長の久坂二佐です。感謝の言葉は彼にお願いします」
秋庭たちは短時間でもその提案の許可を出した話し合いをしただけだ。功労者は久坂二佐であるため、その感謝の言葉は受け取らずに彼に与えるようお願いをする。
「分かりました。そうさせていただきます」
一人の転後日本の自衛官が一歩前に出た。
見間違えるはずもない、秋庭一輝の孫娘に相当する秋葉典子だ。
「皆さん、ここ〝かが〟に乗艦中の世話を命じられました、秋庭典子三曹です。よろしくお願いします」
前回の血筋の繋がり疑惑で戸惑っていたのと違い、しっかりとした三曹とした顔つきで敬礼をした。合わせて秋庭たちも敬礼をする。
「よろしく頼みます」
祖孫の関係であっても戦後と転後日本の間柄だ。礼節は守られるべきと典子三曹とはなれ合わず同業者として接した。
「新政代表、スケジュールは伝えてありますが波川海将補が乗艦次第、〝てるづき〟先導で硫黄島に針路を取ります」
「承知しています」
「皆さんからすれば独自に移動したほうが速いでしょうが、そこはご了承願います」
艦隊全体を浮遊させて移動すれば世界最速で移動できる。だが、そこは手間暇をかけても戦後日本が先導する事実を残す必要があるのだ。
「もちろんです。では秋庭三曹、案内をお願いします」
「分かりました」
世話係と言えばもてなしを受けている感じになるが、そうではないことを防衛省に身を置く秋庭たちは理解している。典子三曹はあくまで秋庭たちの監視に他ならない。
友好的な方針であることを見せるために〝かが〟に乗艦させたが、するなら客船の〝さくらぎ〟か〝みずほ〟にするべきだ。
今回のことで未来の技術が満載の〝かが〟に秋庭たちを乗せる意味はあまりない。現地交流を考えても、機密情報を考えても客船の方がリスクが低いのだ。
それでも戦転日本の関係を考えるなら、監視をつけてでも旗艦に乗せるべきと判断したのだろう。
もし秋庭たちが日本以外の軍人であるならば、まずここには立っていない。
これは転後日本の信頼の証とも取れるため、秋庭たちも迂闊な行動はしないようにと官邸から厳命をされていた。
「こちらにどうぞ」
典子三曹は甲板の上部建物のアイランドの入り口を差して、秋庭たちは荷物をもって案内に従った。
*
「――緊急とはいえ、よく現場判断で対処してくれた。艦長にそう伝えてください」
『分かりました。失礼します』
横須賀基地から来た緊急の連絡を受け、佐々木総理は神妙な面持ちで受け答えて横須賀基地総監との通話を切った。
「……はぁ……」
佐々木総理は大きなため息を吐いた。体の中の負という負を吐きつくすかのような大きなため息だ。
「中国も中国ながら転後日本も転後日本だ。転後世界の地球に帰還するなら英語は必修だろうに」
中国軍機による勧誘放送から始まる一連の流れを聞き、転後日本の反応が嘘であることはすぐにわかった。そもそも転後日本は転後地球のアメリカを目指していたのだ。アメリカを目指すのに英語が喋れない道理はない。全員かは分からないが、外交に携わる人員はしゃべれないとならない。
またはリアルタイムで翻訳できる機器を身に着けているかだが、民間人ならともかく外交部門がリスニング出来ないならゲートを築く計画は承認されないはずだ。
中国の勧誘を突っぱねるために転移を利用したのだろうが、おかげで中国機の突入を促してしまい、結果的に我が自衛隊が泥をかぶって最悪を回避した。
残ったのは事前警告をしたとはいえ、中国機の進路上に発砲した事実だ。
外交は自国の行為を棚上げし、過分に誇張して吹聴するのが常識だ。
特に中国はそれを得意としている。自身の言動は正しく、相手側を過剰に非難する。
そう時間をかけずに中国側から非難と報道がするだろう。
「なんてことをしてくれたんだ」
佐々木総理が思想を巡らせていると、転後日本について議論をするため同席していた笠原防衛大臣がぼやいた。
「いくらコクーンに阻まれるとはいえ、我が護衛艦が主砲を撃つなど……中国もですが野党は特に騒ぎ立てますぞ」
現在の国会運営は、与党が衆参で過半数を取っているから国会運営に支障はない。しかし過半数を超えているだけでその議席数の差はあまりなく、何らかの騒動が起きれば次の選挙では分からないのが現状だ。
幸か不幸か、無難な政権運営をしていることで感染症問題があっても長期政権を維持している。だが今回は対応を間違えれば政権交代も視野に入る。
事実は護衛艦が中国機を守ったが、世間に伝わるのは中国機に護衛艦が発砲したという曲解した内容だ。
それに対する政治的対応を考えると笠原防衛相の苦言は理解できる。
「嘆いてもしかたない。撃墜をすれば尚のこと悪化していたんだ。数分という限られた時間で最適解を出した現場を非難するのはお門違いでしょう」
「それは……はい」
「くれぐれも現場を非難することはしないように。あとこうした問題は出てくる前に出した方がいい。すぐに護衛艦が収集した一連の情報を集め、事実確認ができる形でこちらから公表する」
「公表するんですか?」
「何もしなければ夕方にも中国が大々的に公表して各メディアが便乗する。その前に一連の動きを公表して中国の出方を封じる。向こうがどれだけ曲解した情報を出そうと、先手で出せばある程度が黙らせられるからな」
「……分かりました。すぐに準備します」
「音声を確認して、法に触れなければそれだけでいいから動画サイトに流すんだ。同時にぶら下がり会見でこのことを公表する」
笠原防衛大臣はうなずき、同席する防衛省の職員に指示を出した。
「それと官房長官と外務大臣を呼んでほしい。至急国家安全保障会議を開いてこの件の対応を固める」
まずは日本に非はなく適当であったことを世間に伝え、後詰の動きを会議で定める。
この会議には国会内での答弁も含むため、認識を共有するのは重要だ。
定期会見も含めて下手に言質を取られて、一の言葉を百の失言に誇張されては困るからだ。
政府の役割は現場を守ることだ。自衛隊を政治の盾にするわけにはいかない。
それが政治家としての責任だった。




