テオテル村のカキゴオリ大会
一年前の今日、短編『テオテル村のエルゼ』を公開したので記念に。
時系列は『テオテル村のエルゼ・前編』の最後のほうです。
王都からテオテル村の村長の娘、エルゼ宛に使者が来て以来、俺は神経を張りつめながら日々を送っていた。
エルゼは王太子の妾妃になる事を断ったが、王太子が諦めたとは思えない。
今の俺に出来る事は、全力でやつの野望を打ち砕こうと自警団を強化し、冒険者を集めて迎撃の準備する事だけだ。
そんな夏のある日のこと。
「村をうろつく冒険者が怖すぎる」と村人から切実な苦情が届いた。
気のいい村人の怯えた表情や子供の半泣きの顔には流石の俺も心が痛むが、冒険者は俺に付き合ってくれている、見た目は怖いが気がいいやつらだ。
しかも彼らの協力が無ければ王太子からエルゼを守るのに手段を選べず、多くの犠牲を出すだろう。
村人にはなんとか理解をして欲しい。
「よし、懇親会と決起集会を兼ねた納涼カキゴオリ大会をしよう!」
俺の提案に、最初は怯えていた村人達の顔色がぱぁっと明るくなり、子供達は弾んだ声で「カキゴオリ大会をするぞ~!」と叫びながら村の中心に向かって走って行った。
テオテル村、いや、この世界のカキゴオリ。
もともとは子供の頃、夏に熱を出し真っ赤な顔で苦しんでいたエルゼの為にカキゴオリを思い付いたのが始まりだが、いつの間にかカキゴオリは村人みんなの夏の風物詩にしてテオテル村の名物になったのだ。
子供達の呼びかけにあっという間に広場に集まった村人達は、うきうきと慣れた様子でカキゴオリ作りの作業に取り掛かったので、俺はさり気なく冒険者達をその作業に混ぜた。
嬉々として緩速濾過装置もどきから水を運ぶ子供達。
訳も分からずに子供達から水を渡され、大量の氷を作らされている冒険者の魔導師。
その横にはひたすら氷を削らされている冒険者の戦士共と自衛団の連中。
もともとラクシュ湖の水を凍らせるのは俺やイグナーツの仕事だったが、大量生産出来る人材が居ると楽だ。これからは村に来た冒険者もカキゴオリ作りに巻き込もう。
彼らは最初こそ戸惑っていたが、削られた氷にシロップを掛けて出来上がったカキゴオリを見てからは、村人と同じように楽しそうに作っている。
その様子に気を良くしたのか、自慢げに用意しておいたシロップの説明をするおばちゃん達。
村人も心得たもので、最初は秋に作ったジャムを薄めてカキゴオリのシロップにしていたが、今では秋にカキゴオリ用のシロップも別に作る。
しかも、それぞれが自分の好みの物を作り、夏に披露しあうのだ。秋に準備して長期保存、そして夏に披露……。気が長いとしか言えない。
エルゼの好きなシロップは柑橘系だ。
しかもレモン。こっちの世界にも普通にあるのだ。
多分、大雑把な括りでは動植物は似ているんだと思う。名前や色、細かな特徴が違うだけで。魔物だけは全くの別物だが。
話を戻す。女の子らしいエルゼはベリー系、前世で言うイチゴ味のような物を好むと思ったが、毎年秋に作ったレモンの蜂蜜漬けを少し薄めてカキゴオリにかけている。
何故レモン味が好きか、理由を聞いても教えてくれない。最初に食べたカキゴオリの味だからか?
魔術師と薬師の中間のような仕事をしている俺の妹アティカは、薬草で作った抹茶の見た目の青汁に蜂蜜を混ぜたものをよく作っている。
以前、悪戯心でフィデリオに豆の甘煮を作らせてそれに乗せたら、宇治金時風カキゴオリが出来た。あくまで見た目だが。
最初はその出来栄えに喜んでいたが、よく考えたらこれではアティカとフィデリオの共同作業じゃないか!
我に返って取下げようとしたが、その時にはすでにジジババのファンが出来ていて、浸透していた。悔しい。
他にも花の砂糖漬けを飾ったり、夏の果実を飾ったり、いつのまにか日本の夜店に売っていたカキゴオリよりも豪華なものが出来ている。
これがテオテル村のカキゴオリだ。
村で大規模なカキゴオリ大会をする時はまず、妊婦や老人など広場に集まれない村人に最初に出来たカキゴオリを子供たちが持っていく。
冷たいものがダメな人間にはシロップを水で薄めた飲み物を持っていく。
娯楽の少ないテオテル村ではカキゴオリを食べるだけでも一大イベントだ。
広場に居る人間は、手元にカキゴオリが届いた者から手をつける。
もちろん村長夫妻が最優先だ。
和気藹々とカキゴオリを食べる村人の間を、エルゼと同じくレモン味のカキゴオリを食いながら回る。
しばらくして、明るく和やかな声の間を割入って野太いうめき声が聞こえたのでそちらを見てみると、頭を抑えて苦しんでいる冒険者とそれを見て笑う子供や他の冒険者達がいる。
どうやら何も知らない冒険者にカキゴオリの一気食いを勧めたようだ。一種の洗礼だ。
今苦しんでいるあの男も、いずれ何も知らない人間にカキゴオリの一気食いを勧めるであろう。
虚しい。ひたすら虚しい負の連鎖だ。
まあ、最初にイーゴンに勧めたのは俺だが。
その時のウルズラの射殺さんばかりの視線が怖かった。
大人になったあいつは他の村人が行かないような山奥まで狩りに行くが、そこで狩った獲物を背負い、血の匂いに誘われて現れる魔物や獣を眼力のみで退けて村まで帰ってくる。
その凶器とも言える視線の片鱗は子供の頃からあったのだ。そんな視線をこっちに向けんな!
何はともあれ、これで村人と冒険者の間にあった溝は大分埋まったな。
「よし! 野郎ども!!! 英気を養ったか? この勢いで王太子がやって来ても、全力でエルゼと村を守るぞ!!!」
気合を込めた俺の激励にウォーと野太い雄叫びで答える冒険者達。このカキゴオリ大会で仲良くなったのか、周りの村人の視線は好意的だ。よし、計算通り!
俺の隣にいたエルゼの顔だけが引きつっていたが、こっちも可愛いからよし。
これから迫り来るであろう王太子の魔の手から、俺が全力で守るから安心して笑っていて欲しい。
俺もますます気合が入ったのだった。
この後テンションが上がったディルクと冒険者がガンガン準備を整えて、エルゼが心労で倒れる。
王太子が来て今度は村長が心労で倒れる。
ディルク……。
次回は王太子とガウナの話です。




