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第5章:言葉の向こう側

■猫語


再会から数日。

二人の自宅で、マイは朝食を並べながら、向かいに座る二人を眺めていた。


ちょっと若返った気がするタクとナム。

……いや。

先日から、どうにも気になることがある。


「ねえ」


マイが声をかけると、二人が同時に顔を向けた。


「二人ってさ……前から、何か話してない?」


「……」


タクが黙る。

その隣で、ナムがタクを見上げた。


「にゃ」


「ほら!」


マイが指を差す。


「今の何? 何か言ったでしょ?」


ナムは何食わぬ顔で毛づくろいを始めた。


「ナム?」


「……」


「ねえ、タク。今、ナムと話してた?」


「……別に」


「いや絶対話してたじゃん」


タクが困ったように視線を逸らす。

その横で、ナムがもう一度鳴いた。


「にゃお」


「ほらまた!」


マイが身を乗り出す。


「だから何なの、その会話!」


二人は答えない。


「……まあいいけど」


マイは呆れたように息を吐いた。


「転生したばっかりだし、二人にしか分からないこともあるんでしょうね」


そう言って朝食に戻る。

タクとナムは、しばらく互いを見た。

そして、何事もなかったように目を逸らした。

その様子を見て、マイは首を傾げる。


この二人。昨日から、どうもおかしい。

……気がする。



NAMTAC(ナムタック)


朝食を終えた頃だった。

マイは、ナムの首元に気づいた。


「……あれ?」


一見すると、ただの首輪。

しかしよく見ると、ディスプレイが付いている。


「あれ……?」


見覚えがある。

いや。見覚えがあるどころではない。


「……NAMTAC?」


その名前を口にした瞬間、ナムの耳がぴくりと動いた。

マイは猫の首元に顔を近づける。そこには、かつてタクが作っていたものと同じ形の装置があった。


そして、その横に手書きで書かれた文字。


NAMTAC -M


その瞬間、マイの中に遠い記憶が一気によみがえる。


町工場。試作品。バグの数々。夜遅くまで作業を続けるタク。

その横で、自分が文句を言いながらマジックで書き足した文字。


「この -Mって……」


ナムが答えるように一声。


「にゃ、にゃおん」


NAMTAC-Mの小さなディスプレイに表示された文字は――。


【マイ カイタ】


ナムを見る。

ディスプレイを見る。

何度見か!ってくらい往復した


「あなた……タクなの!?」


マイはすでに確信していた。

たとすると、もう一人……


「ナムが人間に!?!?!?」


猫であるタクと人間であるタクは「バレた!」みたいな感じでにゃおにゃお言い合ってる。


マイは、ふと昨日の光景を思い出した。

二人が交わしていた意味の分からない鳴き声。あれはきっと悪だくみに違いない。


からかわれてたことに気づき、少し落ち着いてきたマイは状況を整理する。


タクはきっと「ナムの気持ちがわかりたかった」。

ナムはきっと「タクとまだ遊んでいたかった」。


だから


「タクは猫の、ナムは人間の姿を選んだ……」


「……ふふふ」


マイは思わず笑ってしまった。


「なに笑ってんだよ」

【(不機嫌70%)】


「お互いがお互いを思ったから、すれちがったのね」


少し気持ちがあったかくなる


「だから、こうなったんだ」


そして、気づく


雨。交差点。ヘッドライトの光。スリップ音。突き飛ばされた感覚。


「そっか。私も死んだんだ」


なぜかこの二十年間、一度も考えたことがなかった。


あきらかに固まるナム。


【ゴメンニャサイ】


きっとタクは…あ、今はナムか。

あのときのタクは私を救えたって満足してくれたんだね。

私が生きてると勘違いして、自然にナムと会うことを選んだ。


「ナm……タク、謝らないで。守ってくれたこと嬉しかったよ!」


【(悲しみ100%)】


「でもね、私、生きてたら、ここにはいないよ」


マイは猫を抱き上げ、愛おしそうになでる


「タクが私を救おうとしたことは本当のこと。だから自分を責めないで。」



■本当の再会


その日の夜。

三人は宿の部屋に集まっていた。


ナムは、窓際で香箱座りしている。

タクは、急に何もないところを見つめたりするけど、その隣にいた。


マイは二人を眺めながら、静かに口を開いた。


「ねえ」


二人が振り向く。


「私たち、もう一回会えたんだよね」

「……ああ」

【ソウダネ】


「タクはナムに会いたかった」

【アイタイ】


「ナムもタクと一緒にいたかった」

「もちろん」


マイは笑った。


「だったら、もう願いは叶ってるんじゃない?」


タクとナムが目を見開く。


「だったら、ここからは……また三人でやっていけばいいじゃん」


マイが笑う。


「これからも、よろしくね」


「もちろんだ」

【オネガイ】


こうして三人は、もう一度、この世界で生きていくことになった。


──────────────────────────

神ちゃんへ質問コーナー


はい、どうも。神ちゃんです。

いつもの質問コーナーということで、皆さんが疑問に思っていることに答えていこうかの。

では、さっそく。


Q.4章でタクとナムは何を話していたんですか?


ああ、あれはな……猫語じゃな。

ちゃんと会話しておったんじゃよ。

例えば、二人が再会した直後。


「ナム!なんで俺の姿なんだよ」

「ほかに人間知らないからだよ!」


……というような会話だったのう。


そのあとも


「マイ、まだ気づいてないな」

「みたいだな」

「じゃあ、気づくまで黙ってようぜ」

「そうしよう」


……と。

ちなみに、二人が突然大笑いしていたのも、これが理由じゃ。

もちろん、マイにはただの猫の鳴き声にしか聞こえてないがの。



Q.どうして二人は猫語で会話できるんですか?


A.

タクの願いだったからじゃな。

意思疎通するには共通の言葉が必要じゃ。

だから猫語を話せるようにしたんじゃが……


ところがじゃ。ナムは人間になったんじゃ。

これには神ちゃんも驚いた。

つまり、ナムが猫語を話せないと会話にならんのじゃ。

急遽、ナムも猫語を話せるようにしたぞい。


結果は、見ての通りじゃ。

ちょっと様子のおかしな人間になってしもうたの……


もちろん、マイにはただの猫の鳴き声にしか聞こえてないがの。



Q.NAMTAC-Mはどうして今回は正常に動いたんですか?


A.

極めて単純に言えば、初期不良のセンサーがタクの思い描いたとおりの設計図で再現されたからじゃの。


誰じゃ?ご都合主義とか言う御仁は?

先付け設定は、ご都合と言わんのじゃ!


ちょっと熱くなってしもうたの。ではまた次回。

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― 新着の感想 ―
質問コーナーに書いてあるタクとナムの、兄弟のような親友のようなテンポ感のある会話めっちゃ好き
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