第3章:転生課
■迷える魂の場所
「あっま…まだタクに返事聞いてない……!」
ガバッと起き上がろうとしたマイは、自分の身体に起きた違和感にハッと息を呑んだ。
手足がない。触覚も感覚もない。自分が人間なのか、魂なのか、霊魂なのかすら分からない。ただ意識だけが漂っているような不確かな状態だった。混乱するマイの視界を、眩しいほどの白い光が埋め尽くしていく。
目の前には、パイプ椅子に腰掛けた一人の老人がいた。
「お、気がついたかい?ここは『転生課』。迷える魂を救済する…というと聞こえはいいが、まぁお詫びをする場所みたいなもんじゃ」
老人は自らを神様と名乗った。かつて勇者と魔王の配置を逆にしてしまうというとんでもミスをやらかし、神様界のハズレ部署である『転生課』へ左遷されたこの神様は、長らく閑職に甘んじていた。しかし最近になってようやく本庁へ復帰できる目処が立ったこと、そして今日の神様食堂のランチが限定二十食の特製チキンカツカレーであるという幸運が重なり、すこぶる機嫌よく仕事に励んでいた。正確性はさておき…。
「やあ、それにしても災難だったねえ。若くして命を落とはかわいそうに。君は特例対象になっておるね。」
キョトンとしたマイに構わず、神様は続ける
「願いは『タクに会いたい』ってところかの。よし、君とタクの二人を同じ世界へ、同じくらいの年齢で再会できるように手配しておこう。もちろん、もう一人のナムも一緒じゃ」
そう言ってニコニコと大らかに、でもどこか気もそぞろに語りかける神様に、マイは胸の奥が熱くなるのを感じた。
(よかった……またタクに会えるんだ)
告白の返事も聞けないまま終わってしまった前世。けれど、もう一度だけチャンスが与えられたのだ。マイの心は安堵と希望で満たされていく。
■転生の掟
神様の脇には、『転生の掟』が掲示されていた。
転生の掟───────────────────
<基本事項>
1、転生とは別の世界や時間軸に移動するものである
1、「通常転生申請書」は、前世と同じ状態で転生が行われる
1、「生まれ変わり申請書」は、新生児の状態で転生が行われる
1、申請書が受理された場合、転生は即時実行される
<特例について>
1、特例が認められた者は、転生後の姿を思い浮かべながら転生すればその姿になれる
1、同様に能力が与えられるものは、ルーレットによる無作為抽選とする
1、その他係員が認めたものは、その項目が最重視され矛盾をできるだけ回避する
────────────────────────
神様は机の上に小さな箱を取り出した。
「向こうの世界で生きていくための能力を決めようか。この『能力ルーレット』でランダムに決まる仕組みになっているんじゃ」
「 自分で選べるわけではないんですね!?」
「そうそう。まあ運試しだと思って気軽にボタンを押してごらん。あとは君の運次第じゃ」
指示されるがままマイがボタンを押すと、光の針がカチカチと音を立てて回り始め、やがて銅色のパネルの上でピタリと止まった。
「おっ、『稼いだお金が五倍になる』じゃの! レア度Rだけど、地味に生活に役立つ良い能力を引き当てたのう」
「五倍……! すごい、ありがとうございます。助かります」
マイが心底嬉しそうに喜ぶ姿に気を良くした神様は、手元にあったピンク色の用紙を一枚引き抜き、マイの前に差し出した。
「はい、じゃあこれに名前を書いて出すんじゃ。よし完了じゃ!」
掟の通り、申請書が受理された瞬間、転生は即時実行される。
「え、あ、ちょっと待って――容姿は?私は対象なの??」
指示されるがままサインし、提出を済ませたマイは、反論する間も考える間もなく強い光に呑み込まれていった。
「……そっか。転生だもんね。生まれたばかりで当然か」
次に意識を取り戻したとき、マイは小さな赤ん坊になっていた。マイ自身は、転生とはそういうものなのだと素直に受け入れていた。
■神ちゃんやらかす
ほんの少し前、マイが呼ばれる直前のことである。
転生課には、魂であるタクとナムが順番に到着していた。魂や霊体の状態であるため、お互いを認識することはできない。そして手続きは一人ずつ別々に行われ、他人がどのような選択をしたかを知ることも一切できない仕組みになっていた。
タクとナムはお互いがお互いを思う希望を出し、転生は受理された。
◇
そして現在――。
書類の受理を見届け、ふと手元の控えを見た神様は、先ほどの浮かれ気分から一転して顔面を青ざめさせた。
「あ、しまった……! あのピンクの用紙、『生まれ変わり申請書』じゃないか!」
マイに対する手続きのミスに気づいた時には、すでに転生は即時実行されていた。
いきなり新生児として生まれた私。すでに何か重大な問題がありそうだけど、こうして私たち二人と一匹は、ルーレットで決められた能力を持って転生した。




