後日譚:監視天使の報告
■エピソード・ゼロ
タクニャは何かの気配を感じてた。
悪霊とかの類ではなさそうだけど、何かがいるような気がする。
部屋の隅あたりをじっと見ながらタクニャは思う。
(そういえばナムも何もないところをじっと見てたな…。俺も猫に近づいてきたのかな?)
(なになになに!?この猫、ワタシに気づいてるの?)
監視天使482910573号は、冷や汗をかく。
(いやいやいや!!絶対に見えない見えてない!)
監視天使は、現世でいう監視カメラのようなものだ。
このカメラ…いや天使が現世より格段に優れているのは、悪意の感情の昂ぶりを感知して、自動追尾可能なこと。
魔物化したランティアと湖で戦った三人は、それ以来「監視対象」となっていた。
(でも、この猫って……私と目が合ってる気がするんですけどー!?)
■神ちゃんへの報告
社名の由来が創業者の「神さん」から、「神さん→かみさん→かみさんかみさん…→サンカミー」になったことでも有名な「サンカミー」の缶コーヒー「GOD」を思いっきり監視天使の顔に向けて吹き出しながら神ちゃんは叫ぶ
「なんじゃと!?!?
あの三人が実は世界を救っておったじゃと?……どういうことじゃ。」
神ちゃんはコーヒーまみれになった監視天使に気づく
「おっと、すまんすまん。『浄化!』」
監視天使の汚れは微塵も残さず消える。
さすが神様と言ったところか。
「世界を救うというのは、あのロールレ・フライのことかのう?
では、詳しく報告してくれんか?」
監視天使は答える
「はい。まず、ダイモン城の湖の浄化についてですが……」
それっぽいという理由で伊達メガネをかけた天使は、これもそれっぽいという理由で採用されたレポート用紙を見ながら続ける
「あの汚染になった元凶は、ロールレ・フライの半身の欠片が湖に飛び散り、水や微生物、魚などを介した食物連鎖を通じ、徐々に『生物濃縮』が進んだようです。」
監視天使はレポートをめくる……というそれっぽい動作をする。
「この汚染を放置した場合、湖の魔素が異常に濃いものとなり、ダイモン城は人の棲める城ではなくなったでしょう。その結果、魔素を生み出し続ける湖に隣接した城は自然と魔物の棲み家となり、ゆくゆくはロールレ・フライの居城になっていたと推測します」
天使は伊達メガネをクイッとし、続ける
「また、湖自身の汚染とは別に、ロールレ・フライの半身は、おぞましい怨念に満ちていましたが、それ単体では生存ができず、自身の周囲を結晶化することで、いわゆる休眠状態に入ったと思われます。
そこへ調査に来たダイモン家の使用人ランティアが、それを元凶だと断定し、そばにあった石を投げおろし破壊しようとしました。」
これも演出なのだろうか。天使は少し悲しい素振りを見せる
「しかし、その結果、半身の欠片から一気に放出された高濃度の魔素が、ランティアの意識を奪い、魔物化してしまったのです」
神ちゃんは唸る
「なんということじゃ……」
■双子事件の真相
天使はこれも演出なのか事務的に続ける
「これだけではありません」
口に含んだコーヒーを今度こそは堪え、神ちゃんはさらに驚く
「ンゴッフ………は?」
天使は一瞬避けようとした気配を向き直ることで胡麻化し、報告を続ける
「『北の山の双子』に関する報告です。
双子が洞窟に追いやられたのは、単なる村人の無知や恐怖だけが原因ではありませんでした
成瀬家のライとチカ……彼らが持つ『聖なる力』を魔王の軍勢に取り込むため、ロールレ・フライは巧妙な工作を行っていました。教会の建築現場で石を落としたのは、ロールレが操る使い魔による『仕込み』です。あえて衆人環視の中で奇跡を起こさせ、民衆の『畏怖』を『恐怖』へとすり替えるよう、彼は陰で負の感情を煽っておりました」
神ちゃんが「なんとも性格の悪い……」と眉をひそめる。
「彼の狙いは、双子を絶望の底に叩き落とし、人間への憎悪を極限まで高めることでした。もし、あそこでマイ様たちが『手袋』という愛情の記憶を届けず、ナムオ様が『悪いことしたら謝るニャ!』と沈黙を破っていなければ……」
監視天使は、レポートの「もしもの未来」という項目を指し示した。
「双子の持つ『聖なる力』は、その憎悪によって完全に反転し、光は闇となり、癒やしは破壊へと転じ、二人は魔王ロールレ・フライの左右を固める、世界で最も冷酷な近衛騎士として、かつての故郷を自分たちの手で灰にしていたはずです」
神ちゃんはもう驚くことに疲れていた
「……それが、あやつらのせいで、ただの『仲良し兄妹』に戻ってしもうたと」
しかし遠慮なく天使は畳みかける
「左様です。双子がマイ様に力を分けたことで、魔王の右腕となるはずだった力は、逆に『魔王を討つための守護』へと変わってしまいました。ロールレ・フライにしてみれば、最強の駒を奪われたどころか、天敵を育ててしまったようなものです」
■もしもの未来
天使は「もしもの未来」の未来予想を神ちゃんに伝える
「もし、ロールレ・フライが完全に『魔王』となった場合、勇者候補を転生させても、倒せる確率は五%程度です。」
神ちゃんは、ようやく神様らしい洞察力をみせる
「あの頼りないことこの上ない三人は、魔王誕生に必要なテンプレ要素を一つ残らず粉砕しておったのじゃな」
感情を持たないはずの監視天使は辛抱たまらずニヤケ…顔を抑えながら言う。
「まさに、その通りです。神様」
神ちゃんは、本当に美味しそうに「GOD」の最後のひと口を飲み干した。
構想では、この後日譚が「最終話」となる予定でした。
なので、ここで読むのをやめても、特に問題はありません。
次の「あとがきと蛇足」は本当に蛇足ですので、作者の遊びを知りたい方のみ、ご覧ください。




