第7話 はっけよい、残った
最近は雪が降ることもめっきり減り、少しずつだが春の空気が感じられるようになってきた。
地面や屋敷の裏に残った雪も少しづつ溶け始め、溶けた雪が屋敷の庭をぐちゃぐちゃにしていた。
そんな中ミットリオは、まだ寒いからと暖炉の火に当たり、ソファに座りながら今日も何もない一日が続くといいなと考えていた。
しかしミットリオは知っている。
こうゆう時は大抵姉のシュトラが扉を勢い良く開けて飛び込んでくるのだ。
ミットリオは知っている。
朝、剣と魔法の稽古をしようと外に父さんと兄さんと出たのだが、庭が雪解け水で荒れていて、稽古を出来る状態じゃなかったのを、無理矢理勉強に変えられたのを目撃している。
そろそろ痺れを切らしたシュトラが、勉強がいやになりこの部屋に突撃してくるだろうと、ミットリオは踏んでいた。
「……そろそろかな」
朝から勉強をしていたら、いつもだとお昼前には飽きてくるので、そろそろ扉が勢い良く音を立てて開くだろうと身構えているが、そんな気配は訪れない。
(流石にいつもこの部屋に突撃してくるわけないか……)
姉のシュトラにだってやりたいことがあるだろう。
そんな毎回毎回、ミットリオのところに尋ねて来るわけないのだ。
「ふうっ」
今日は部屋に訪ねて来ないだろうと思い、ミットリオは全身の力を抜いてソファに深く座り込む。
バアンッ!!
「おくれてっ!?」
油断したところに、勢い良く音を立てて扉が開いて、ミットリオは油断していた事もあり、驚いて体を跳ね上がらせる。
「ミットリオっ! 何かして遊びましょうよっ!」
部屋の中に入ってきたシュトラを、ミットリオはジト目で見詰める。
(……油断したところに合わせてやってくるとは、まさか俺が油断するタイミングを図っていたっ? だがこちらの様子は見えていないはず、ならばただの偶然か……?)
「な、何よっ」
ジト目でこちらの事を見てくるミットリオに、シュトラは何故こちらを熱心に見てくるのか分からないので、思わず恥ずかしくなり体をモジモジさせる。
しかしミットリオはそんなことを気にせずに、シュトラに対して懐疑心を覚えるのだった。
「あそぶの? でもねえさんはべんきょうしてたんじゃないの?」
「それは終わったのっ。今日は突然勉強の日になったから短めだったのっ」
「……ほんとう?」
「本当だってばっ、兄さんも勉強を終えて下に降りて行ったからっ」
どうやら今回は本当のようで、シュトラはちゃんとこちらを見て答えてくれた。
「で? 何して遊ぶの?」
あまり勉強の話しはしたくないのか、話題を切り替えると最初の会話の内容に戻る。
「あそぶっていっても……」
外は日が出ているとは言え、庭は雪解け水でぐちゃぐちゃだし、さっきまでぼーっとしていたから何も遊ぶ物はないし、急に何で遊ぶか考えつかないし……。
「う~ん……」
「じゃあ! この前のっ。この前ミットリオが作ってくれた紙風船で遊びましょうよっ!」
「え~っ、だってねえさんずっとそればかりしてるじゃん」
「魔法の稽古にもなるんだからいいじゃない」
「う~ん、別の方法で遊ぼうよ」
「何かあるの?」
「ないけど……」
「じゃあ紙風船を使って風魔法で遊びましょうっ」
「う~ん……」
その時、ミットリオの頭にあるアイディアが浮かぶ。
紙風船が飽きたのならば、紙を使って違う遊び方を作ればいいじゃないかと。
(じゃあ何を作ればいいんだ? トランプは作りたいけど耐水性の紙がないし、何より耐水性のインクが無い。じゃあ紙手裏剣は……危ないかな。折り紙をするにしても、俺は袴と鶴の折り方しか知らないし、紙相撲……、紙相撲はいいんじゃないか……? うんっ紙相撲なら場所も取らないし、簡単に出来るから紙相撲でいいんじゃないか?)
「よしっ」
「どうしたの?」
「あたらしいあそびをおもいついたっ」
「えっ? 何何!」
「えとね、まってて」
ミットリオは前回のように机の上から紙を数枚拝借する。
尚前回の時のように、シュトラが間違って何か書いてある紙を使わないように、あらかじめアウドールが白紙の紙を用意してくれていた。
(本来なら、もうちょっと強度のある紙が良いんだけど、背に腹はかえられないか)
ミットリオはプリプリの体を動かして、ソファまで戻ってくるとテーブルの上に拝借した紙を数枚置いた。
「何するのー?」
「ちょっとまってて」
とここでミットリオはある重大な事に気付いてしまう。
紙を切るための道具がこの部屋にないのである。
(しまった……)
ここはミットリオの寝室の部屋なので、ミットリオが怪我をしないようにこの部屋には、刃物の類いが置いていないのである。
遅れてその事に気付いてしまい、ミットリオは頭を抱えてしまう。
「ねえさん、はさみのばしょしってる……?」
「ハサミ? う~ん……、……私は知らないわ」
「だよね……」
ハサミの場所を知ってそうなシュトラに聞いてみるが、シュトラも知らないようで空振りに終わる。
(仕方ない、母さんに話してハサミの場所を教えて貰うか)
どの道ミットリオの手では、紙を器用に切ることはまだ出来ないので、大人の力を借りなければいけないのだ。
そうなればシトレアに最初から話しを通した方が早い。
「じゃあかあさんにきこうよ」
「母さんに?」
ミットリオはソファの上から降りると、両手に紙を数枚持って部屋から出ようとする。
その後ろを同じく紙を持ったシュトラが慌てて着いていく。
ミットリオがいる部屋は二階の向かって左側にある。
そしてこの時間、シトレアがいるの屋敷の反対側の部屋にいるので、そこまで行こうと歩いて行く。
「あれっ、にいさん」
「ん? ミットリオとシュトラ? どうしたんだい?」
しかし、途中で階段から上がってきたチェルスと偶然にも鉢合わせてしまう。
「二人とも、紙を抱えてどこに行くんだい?」
大事そうな紙を抱えているミットリオとシュトラを見て、チェルスは興味を抱いたのか、面白そうに聞いてくる。
(そうだっ!)
ミットリオはチェルスを見た瞬間、良い考えが頭に浮かんだ。
「ねえにいさん、かあさんにはさみをかりてきてくれない?」
「ん? はさみを? 何に使うんだい?」
「ちょっとつくりたいものがあるの」
「そう。いいよ少し待ってて」
ミットリオのお願いに、チェルスはいやな顔一つせずに応じてくれた。
チェルスは、そのまま振り返ると向こうの部屋にいるであろうシュトラの元に行き、約束通りハサミを借りてきてくれた。
「でも一体何に使うつもりなんだい? 母さんも気になっていたよ」
「それはできてからおしえるっ」
結局、部屋から数歩歩いただけで、ミットリオとシュトラの二人は部屋にまた戻ってしまう。
後ろにはハサミを持ったチェルスを従えて。
ミットリオは紙をテーブルの上に置くと、紙にピーーっと線を書いていく。
「ねえにいさん、このせんのとおりにかみをきってちょうだい?」
「ん? 線の通りに紙を切れば良いんだね?」
「うん」
チェルスにハサミを握って貰い、代わりに線の通りに紙を切って貰う。
その間ミットリオは土俵を紙で作り始める。
「ねえ私は? 何かすること無いの?」
一人手持ち無沙汰なシュトラは、置いて行かれていると思ったのか、作業してるミットリオの肩を掴んで揺らしてくる。
「わわっ! あ、あるからっ、ねえさんのぶんもあるからっ」
「何っ?」
「えっとね、にいさんがきりぬいたかみにひとのえをかいてほしいんだ」
「人の絵を書くの?」
「うん」
丁度そこに、チョキチョキと紙を切り抜いていたチェルスが、一枚目の紙を切り抜いてミットリオに渡してきた。
「ありがとうにいさん」
「これを数回ほど繰り返せば良いんだよね?」
「そう。そしてねえさんはこれに人のえをかいてほしい。かみのけとかめとかふくとかくつとか」
「なるほどね。分かったわっ」
言われた事に納得したのか、シュトラはやる気を漲らせると、切り抜かれた紙に人の絵を描いていく。
それぞれが作業に没頭すること十分ちょっと。
立派な紙相撲が出来上がった。
「よし、出来たっ」
ミットリオはそれを一つずつ立たせると、土俵の傍に待機させるように置いておく。
「にいさんとねえさんはこっち、ぼくはこっちね」
何故かミットリオが東側に座り、シュトラとチェルスが西側に座らされた。
だが意味の分かっていない二人は、素直にミットリオの言うことを聞いて西側に座った。
「それでこのかみのうえにひとをひとりおいて」
ミットリオは傍に待機させて置いた、紙人形を手に取って土俵の上に乗せる。
同じ様にシュトラが紙人形を手に取って土俵の上に乗せていた。
チェルスは妹に先を譲ったようで隣から眺めている。
「それでこのまるいせんのまんなかにちかづけて……」
スススッと土俵の上に置いた紙人形を真ん中に寄せる。
シュトラもミットリオと同じ様に、紙人形を真ん中に寄せていく。
「そして……、トントントンするっ!」
トントントンッと、ミットリオが紙で出来た土俵の端を、急に叩き出したいのでシュトラは何の事か分からなかったが、遅れてミットリオと同じ様に土俵の端をトントンしていた。
すると振動が紙人形に伝わり、お互いの紙人形が相手の紙人形をリズミカルに押し始める。
やがて振動が一定のミットリオの紙人形が、シュトラの紙人形を押し始めて、そのままシュトラの紙人形をミットリオの紙人形が土俵の外に押し出してしまった。
「うふっ、おれのかちっ」
ニヤついた顔でそう告げるミットリオの顔は、とても腹立たしい顔をしていたと、端から見ていたチェルスはそう思ったとゆう。
「ちょっと! 説明くらいしてからやりなさいよっ!」
逆にいきなり勝負が始まって、いきなり負けを宣告されたシュトラは、納得がいかないのかミットリオに対して非難の声を上げていた。
こうして納得のいかないシュトラが満足するまで、ミットリオは紙相撲に延々と付き合わされるのだった。
そしてチェルスは、時折シュトラやミットリオと交代して、紙相撲を遊び妹と弟を見て楽しそうにニコニコとしていたのだった。




