第6話 雪遊び
「つもるゆき さとうだったら いいのにな」
窓ガラスから、降り積もる雪を見ながらミットリオはぼそりと呟いた。
この雪が全て砂糖だったらどんなに喜ばしい事か。
雪が積もる地域の人は、一度は考えた事があるだろう。
まあでも、そんなことになったらなったで別の問題が新たに湧くのだろうなとミットリオは考える。
その時視界の端に、木製のシャベルを持った熟年の男性が映った。
雪かきをし始めた彼はこの家の庭師を務めているターブツさんと言う。
奥さんと一緒に屋敷の近くに住んでおり、庭の手入れや色々な事をしてくれる人だ。
彼はすっかりと積もってしまった雪を、木製のシャベルを使いながら、時には火魔法を使って雪を溶かしたりして雪かきをしたりしていた。
彼が管理する庭は春から秋にかけて、綺麗な庭になり母親であるシトレアがとても気に入っていた。
そんな彼が、雪かきを行い石畳で作られている道を、きっちりと火魔法で溶かす様を見ているのは、何だか職人の技を見ているみたいで気分が良くなる。
きっと来年も綺麗に手入れされた庭の光景が見られるのだと思うと、寒い冬でも乗り越えられそうだ。
まあ部屋の中にいて暖気を浴びている俺が言えた義理ではないけどね。
まあでも今日は晴れているので、比較的暖かい方ではあると思う。
屋根の下に出来たつららが、太陽の光を反射して部屋の中を複雑な形で照らしているのが見える。
「……かまくらできるかも」
ミットリオは、ターブツさんが隅に寄せた雪の山を見てそんな感想を抱く。
前世では雪の山の中でよくかまくらを作って、仲間達と身を寄せていたのを思い出す。
今はもうそんな仲間達は居ないが、一人でもかまくらを作るのは楽しいかもしれない。
「でもまだあかんぼうだからな~、それにみんなではいるにはすこしゆきがたりないか?」
ミットリオの年齢は二歳。
四月になれば三歳になるがそれまでまだ数ヶ月ある。
それに三歳になっても、一人でかまくらを作れる程一気に成長するわけではないのだ。
子供が一人でかまくらを作るのは限界がある。
それに山になっているとは言え、子供が一人二人入れる分の山にしかなっていないので、まだ少しかまくらを作るには足りない気がした。
「かまくらがだめでもゆきだるまならいけるかな?」
ならばと小さい雪だるまを作ってみようと考えてみる。
それならば枯れ葉と少しの木の枝があれば何とか出来そうだ。
そんな窓ガラスの前で呟いているミットリオを、暖炉の前のソファで編み物をしていたシトレアは微笑んで眺めている。
我が子が窓ガラスに張り付いて、外に向かって可愛い声で独り言を喋っているのを、シトレアは面白おかしく見守り、今編んでいるミットリオのための帽子を作る手に力が入る。
これがもし、前世の姿の成人男性ならば通報案件化待ったなしなのだから、世の中とは不公平なのである。
「んしょ」
ミットリオは窓ガラスから離れると、編み物をしていたシトレアに声を掛ける。
「かあさん、そとにいく」
「……お外に行きたいの?」
「うん」
ミットリオが外に行きたいと言い出したので、シトレアは外の天気の様子を確認すると、良く晴れているので外に出す許可を出した。
「良いですよ、庭で遊びたいの?」
「うん」
「なら寒くないようにちゃんと着込まなきゃいけないわね」
シトレアは、今作っているのとは別の幼児用の冬用の服を出すと、ミットリオに着させていく。
手袋と最後に横にポンポンの着いた帽子を被せると、立派な防寒具に包まれたミットリオの姿が出来上がる。
モコモコのポンポンの服装を、ミットリオは嬉しそうに眺めると一回転して自分の姿を確認する。
「かあさんもいく?」
するとミットリオは、シトレアもいっしょに外に行こうと誘い出したのである。
「……私も?」
まさか自分も外に誘われるとは思ってもいなかったシトレアは、ミットリオからの予想外のお誘いに驚きの声を上げる。
晴れているとは言え、外は寒いのだからあまり乗り気ではなかったシトレアだが、自分の息子に誘われたのなら断るわけにもいかない。
「……ふう、分かったわ。ちょっと待っててね」
シトレアは、防寒具を着るために少し準備をすると言い、ミットリオに待っているよう話す。
少し待つと、フワフワの毛皮を纏ったシトレアが現れて、ミットリオはシトレアと手を繋ぎながら玄関に降りていく。
外に出ると、積もった雪に太陽の光が反射して顔に当たり、眩しい光りを浴びたミットリオは思わず顔を手で覆った。
それはシトレアも同じで、片目を瞑りながら顔を手で覆っていた。
「奥様、これは如何されましたかな?」
庭の雪かきをしていたターブツさんが、防寒具を着込んで息子と共に現れたシトレアに話し掛けてくる。
「ミットリオが外で遊びたいと言ってきたから外に出て来たの」
「そうですか。今急いで雪を片付けますのでお待ち下さい」
ミットリオとシトレアが庭で遊ぶスペースを確保しようと、ターブツさんが急いで雪かきを終わらせようとしたので、ミットリオは邪魔にならないように、玄関の端に溜まった雪を触ってみる。
(おおっ、ぼた雪だっ。これならちゃんとした雪だるまも作れるかもっ)
触って感触を確かめたところ、水分を含んだ重たい雪だったのでこれならばと思い、手始めに雪を握って簡素な雪だるまを作ってみる。
(出来たっ!)
ニギニギと胴体の分の雪玉と頭の雪玉を作って繋げてみると、見事に雪だるまが出来たではないか。
「……あれ?」
しかし幼児の力で作った雪だるまは、いとも簡単に崩れてしまい胴体と頭の部分が離れて、崩れてしまう。
(もっとしっかりと握らなきゃ駄目か)
ならばと思い、さっきよりもしっかりと握って胴体と頭の雪玉を作り、その二つを繋げて雪だるまを作ってみる。
そこにはやや不格好ながらも、しっかりと自立した雪だるまが完成していた。
(やったっ、不細工だけど何とか出来たぞっ! さっきのは失敗だからカウントはせずに、これを雪だるま一号と名付けよう!)
「わははっ」
ミットリオが座り込んで、何やら一人で雪を相手に作業しているのを、黙って見守っていたシトレアは、はしゃいでいる様子のミットリオを微笑ましく見守っている。
「なぁにそれは? 雪の妖精さんかしら?」
「ゆきだるまをつくったの」
「雪だるま?」
「うん」
ミットリオがしゃがみながらそちらを見ずに会話をしているのを、シトレアは微笑ましくも不思議そうに眺めていた。
こんな知識を一体どこから聞いてきたのかと、不思議に思わざるを得ないのだが、ミットリオが楽しそうに二個目の雪だるま? とやらを作っているのであまり深くは考えないようにする。
やがて二体目の雪だるまを作ると、ミットリオは満足そうに腰に手を当てていたが、しばらくすると何かを考え出し始めてしまう。
「どうしたのミットリオ? 雪だるまが飽きたの?」
「う~ん、えだ」
「枝?」
「えだがたりない」
「枝って……、木の枝って事? それを何に使うの?」
「ゆきだるまに」
「雪だるまに使うの?」
「うん」
ミットリオはそう頷くと、ポテポテとターブツさんの方に近寄っていく。
「どうしましたか坊ちゃま」
こちらにミットリオが近寄ってきたのを感じ取り、ターブツは雪かきをしていた手を止めて、わざわざしゃがんでミットリオと視線を合わせて会話をする。
「あのねえだがほしいの。それとはっぱもすこし」
「枝? 枝とゆうと木の枝ですかな?」
「うん」
「それとはっぱとなると、枯れ葉しかありませんがそれでも良いですかな?」
「うん」
「分かりました、少々お待ち下さい」
ターブツはミットリオのお願いを聞くと、屋敷の裏手に消えていく。
やがてターブツは、木の枝数本と枯れ葉を持って現れる。
「これでよろしいですかな?」
「うんっ。ありがとうターブツ」
ミットリオのあどけない笑顔に、ターブツは顔を綻ばせると軽く礼をして雪かきの作業に戻っていく。
「それを何に使うの?」
「ん? ゆきだるまにつかう」
シトレアに枝と枯れ葉の使用目的を尋ねられたので、ミットリオは素直に答えると同時に、枝と枯れ葉を雪だるまに使ってみた。
「出来たっ!」
さっきと同じ様に雪玉をしっかりと握って、二つ重ね合わせる。そこにターブツから貰った枝と枯れ葉を付ければ、見事に見覚えのある雪だるまが出来上がる。
「わあっ、可愛い雪だるまさんねっ」
「うん! ゆきだるまにごうなんだっ」
大人にとっては手の平サイズの雪だるまを、シトレアは
壊れないような持つと、可愛らしい出来栄えにそう言葉が出て来る。
「……お母さんも作ってみたいなっ。作り方を教えて?」
「いいよっ。あのね……」
ミットリオはシトレアに雪だるまの作り方を請われると、素直に教えて上げる。
比較的簡単な手順で作れる雪だるまは、苦もなく作ることが出来て、ミットリオが作った雪だるまの横に、少しばかり大きい雪だるまが並ぶ。
「まるで雪だるまの親子みたいね」
シトレアはミットリオにそう告げると、ミットリオはニカッと笑って、シトレアもそれに微笑み返すのだった。




