第5話 遊びながら稽古
最近は厳しい寒さが続いており、外はとうとう雪が降り始め、このまま振り続ければ少しは積もりそうな気配を感じさせていた。
ミットリオはソファの上から気怠げに外の景色を見ながら、前世で雪かきをやらされた記憶を思い出していた。
一日に数回も雪かきをしなきゃならず、やってもやっても降り積もる雪にイライラしたものだ。
何故朝から雪かきをしなければいけないのか、それも一日に何回も。
それが仕事としてやるのならばまだ良い。
戦士として色々な仕事を経験したものだが、何故雪かきは普通の業務ではなくただの雑用としてやらなければいけないのか。
「……りふじんだよね」
仲間内とぶつくさ言い合いながら、雪かきをやっていた前世の記憶を思い出すが、今は既に遠い過去の記憶。
高橋改め、ミットリオは暖炉が灯されている部屋で、ぬくぬくと暖気を浴びながらソファで丸まって過ごすのが日常となっているのだ。
「……あったかいい~」
朝食も食べ終え二歳の身でやることも特にないミットリオは、暖気を浴びながら毛布に丸まり、ウトウトと眠ってしまう体勢に入っていく。
バアンッ!
「うえっ!」
またしても勢い良く開け放たれた扉の音で、ミットリオはびっくりして声を上げて体が反応してしまう。
「ミットリオッ! 外に行きましょうっ?」
扉を勢い良く開けた張本人、ミットリオの姉であるシュトラは、驚いているミットリオの様子を気に掛ける事も無く、突然に尋ねてきてミットリオを外に連れ出そうとする。
「……いやだ」
しかし当のミットリオは、折角のウトウトしていた時を邪魔されて頭にきたのか、赤ん坊の顔ながら不平不満を表した表情で、シュトラの誘いを拒否した。
「……何でよ」
当然自分の誘いを素気なく拒否されたシュトラは拗ねてしまい、部屋に入ってきた時の明るい顔とは違って、一気にふてくされた表情になる。
「だあって、おそとゆきだよ? さむいからいい」
雪が降っているのに何故わざわざ外に出ないと行けないのか。
しかも風も強くなってきてこれからどんどん雪が積もりそうな雰囲気を醸し出しているのに。
「じゃあ何するのっ?」
外に出るとゆう提案が無くなったシュトラは、ならばと違う提案を出すようミットリオに聞いてくる。
「ん~……」
ミットリオが、ソファに座ったまま頭を悩ませていると、部屋の入り口に立っていたシュトラは、とててっと駆け出してミットリオが座っているソファに飛び込んでくる。
そしてぐいぐいと、ミットリオの座っているスペースに迫ってくると暖気を一緒に浴びようとしてくる。
「ねえさん、とびらがあいたままだよ」
折角暖まっていた部屋が、扉が開いたことで廊下から寒気がきてしまい台無しになってしまう。
それを目敏く気にしたミットリオが、シュトラに対して小言を言うが、シュトラはチラリと扉を見ると、指をくるっと一回転させて魔法を発動させる。
すると、扉の横で風魔法が吹き荒れグワッと扉が動き出した。
扉はそのままグワワワァッーンと音を立てて完全に閉じてしまった。
「これでいいでしょ?」
扉がちゃんと閉まった事で、シュトラは何事も無かったかのように振る舞う。
その様子をミットリオは複雑な気持ちで見ていた。
(結構乱暴な使い方をするんだよね……、姉さんは)
魔法を物にぶつけるように扱うシュトラを見てミットリオは、もう少し優しく魔法を使ってもいいのではないのかと考えずにはいられない。
「それで? 何して遊ぶ?」
いまだ諦めていないシュトラは、弟と何をして遊ぼうかとしつこく誘ってくる。
「ん~……、なにする?」
ミットリオも頭を捻って考えたのだが、結局のところ良い案が思い付かなかったので、返すようにシュトラに同じ質問をしてしまう。
「ならっ、魔法の稽古をしようっ?」
さっきまで不貞腐れていたとゆうのに、すぐにまたこの部屋に尋ねて来た時のような、楽しそうな笑顔になる。
結局のところシュトラは、外で魔法の稽古をミットリオと一緒にするつもりだったので、それが断られたとは言え室内で稽古が出来るのならば、同じ事だと言えるのでどちらにせよ魔法の稽古が出来ればそれでいいのである。
「でもとうさんが、まほうをあまりへやのなかでだめって……」
「じゃあかあさんも呼べば良いじゃないっ。それならとうさんも何も言わないわよ」
「……ならいいけど」
実のところミットリオも魔法の稽古はしてみたかったのである。
しかし少し前の魔力切れの事件を起こしてからは、安易に魔法を発動させるのはいけないと、アウドールにきつく言われていたのである。
赤ん坊の内で魔法を発動させるのはかなり危険なのと、魔力切れを起こしてもいつも誰かが傍にいるわけではないとゆう理由からである。
でも駄目と言われたらやりたくなるのが男の子と言うもの。
ミットリオはアウドールに魔法を禁止されてから、両親に隠れて魔法を発動させていたのである。
だがそれも少し限界に来つつある。
いちいちコソコソやるのも疲れてきたし、魔力の残滓が残っているのかアウドールが勘付いている気がするのだ。
なので公にシトレアの目の前で魔法の稽古を出来るのならば、その案にのらない手はない。
「じゃあかあさんを呼んでくるわねっ!」
こちらから出向けばいいのに、シュトラはわざわざシトレアを呼んでくるとゆう。
まあこの暖かい部屋から動きたくないミットリオからしたら、その考えは助かるので受け入れるしかなかったが。
「じゃあおれはなにかつくってるね」
「? うんっ」
ミットリオが何を作ると言うのか。
意味が分からなかったシュトラは取り敢えず頷いて、シトレアのところに飛んでいった。
そしてまたしても部屋の扉を開けっ放しにしていくのも忘れない。
「んもー」
ミットリオはソファからよじよじ降りると、開け放たれている扉を閉めに行く。
そして先程頭の中で思い付いた考えを実行に移す。
ただ魔法の稽古をするのではつまらない。そう考えたミットリオは机の横に行くと、器用に机の上に登り使わなそうな紙を一枚手に取った。
机から降りると今度はソファの前のテーブルに行き、その上に紙を置いた。
そして赤ん坊の手で何とか紙を丁寧に折っていく。
「むう、ちからがはいらなくてむずかしい」
赤ん坊の力では上手く紙が綺麗に折れないので、ミットリオはテーブルの上に置いてあった本を手に取ると、それを紙の上に置いて、一回一回紙を折る度に自分の体重をかけて折っていく。
そして何とか紙が綺麗に折れているのを確認すると、自分の記憶を頼りにあるものを作っていく。
「できたっ!」
何とか出来上がったそれを手に取ると、ミットリオは満足しながら手の平の上に置いてある紙風船を眺める。
そう。ミットリオが必死に作ったのは紙風船である。
魔法の訓練をするのならば、きっと風魔法だろうと思い、ならば紙風船を使ったらきっと面白いと思ったミットリオは、自分の記憶を頼り紙風船を作ったのだ。
「わははっ」
何とか上手く出来た紙風船を、ミットリオは手の上でポーン、ポーンと弾きながら一人で楽しげに遊んでいる。
「何それっ!?」
すると部屋に戻ってきたシュトラが、一人で紙風船と遊んでいるミットリオを見て、目を輝かせて聞いてくる。
「かあさんは?」
「少ししたら来るってっ、それよりもミトっ! 何それっ!?」
シュトラはミットリオの近くまで寄ってくると、ミットリオが手で弾くように遊ばせている紙風船を、興味深そうに眺めている。
大抵の子供はここで強引に奪ったりするかもしれないのだが、シュトラはそうゆう事せずに黙って眺めていた。
だが体はうずうずが隠しきれていなかったが。
「ねえさんもつくる?」
「作るっ!」
ミットリオの問いに、シュトラは悔い気味で答えると机から紙を取ってきて、テーブルの上に紙を置く。
その様子にミットリオは楽しそうに笑うと、姉であるシュトラに紙風船の作り方を教えるのだった。
「あら?」
二人が真剣に紙風船を作っているところに、シトレアが顔を出すと、魔法の稽古をするつもりで来たシトレアは、違う事をしている二人を見て声を出した。
「何してるの? 二人とも」
「これ作ってるのっ!」
シュトラは数個は作った紙風船をシトレアに嬉しそうに見せると、シトレアはその紙風船を受け取ってまじまじと眺める。
「ねえさんにおしえてるの」
「ミトが教えてくれたんだよっ?」
「……そうなの」
我が子供の嬉しそうな言葉にシトレアも思わず顔を綻ばせるが、ふと紙に書かれている文字が目についてしまう。
「……この紙ってアウドールの書類じゃないかしら」
シトレアの言葉に、ミットリオもシュトラも動きを止める。
(ちょっと待って!? 俺は白紙の紙を選んだつもりだけど、何で文字が書いてある紙を折っているんだ!?)
ミットリオは何も書いてない紙を手にしたのだが、何故か文字が書かれてある紙を折ってしまっている。
そしてその紙を使ってしまったであろう、犯人のシュトラの顔を見ると、シュトラは大量の汗を流していた。
(ねえさーーーんっっ!!)
ミットリオが心の中で姉を呼んでいると、
「ふふっ、まあ大丈夫でしょう。大したことも書かれていませんし、アウドールもきっと殴り書きのつもりで書いたんじゃないかしら」
とシトレアのフォローが飛んできて、二人はホッと一安心する。
「それよりも。ねえミットリオ私にも作り方を教えてちょうだい?」
「うん。いいよ」
母親に紙風船の作り方を頼まれたので、ミットリオは小さい体を使って器用に紙を折りながら、紙風船の作り方を教えていく。
そして紙風船を十個も作ると、最初の話通り風魔法の稽古に紙風船を使う。
落とさないように風魔法を使って、上手く紙風船を上に上げる稽古は、思ったよりも白熱してしまい、三人は笑い声を上げながら楽しんでいて、いつの間にか稽古から遊びに変わってしまうのだった。
途中、ミットリオとシュトラが魔力切れを起こさないように、休憩を挟んだりして上手く調整しながら魔法の稽古に没頭していた。
そして途中から、笑い声を聞きつけたチェルスも加わると、四人はアウドールが夕食の時間を知らせに来るまで、気付かずに白熱して遊んでいるのだった。
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