第14話 怠惰な計画書
「うしっ」
ミットリオは珍しくソファの上に居らず、今日は外に出てみようと朝から準備をしていた。
この前姉のシュトラに村に連れて行かれた事で、色々と屋敷の外に興味が湧いてきて、色んなところを歩いてみたくなったのである。
とは言っても子供に行けるところは限られているし、山などは魔獣がいないとは言え、まだ危険だとアウドールに言われているので、山に入ってはいけないと言われている。
だがミットリオは男の子なので、駄目と言われたらやりたくなるのである。
だが焦るな。今日はまず屋敷の裏庭回ってある計画を練るのが先だ。
玄関から外に出ると屋敷の横に周り、庭に残っていた適当な切り株に腰を下ろす。
ポッケから紙と鉛筆を取り出すと、何やら紙に文字を書いていく。
『ミットリオ 理想の怠惰生活を送るための計画書』と書かれたそれは、ミットリオがこれから自堕落な生活を送るために何が必要になってくるか、そのためにはどうすればいいのかを記した計画書だった。
「まずは、色々な魔法を使えるようになること、便利な魔法を覚えさえすればそれだけ労力を割かなくていいからね」
五大魔法の中の強力な魔法ではなくて、
・収納魔法
・飛行魔法
・掃除魔法
等身の回りの役に立つ魔法を作ってみたいかな。
計画書に項目一と書いて、便利な魔法を覚えると記す。
「二つ目は資金だね。お金はいくらあっても困らないし、前世では薄給だったから今度こそ余裕のある暮らしがしたい」
二つ目に『沢山のお金』と記す
「三つ目は美味しい食べ物と飲み物。これは外せないね」
前世では食にあまり興味がなかったが、今となっては少し後悔している。
「もっと色々食べておけば良かったな。この世界で再現出来たかもしれないのに」
とはいえ、大体の料理の知識はあるし、自分でも多少は作れる。
「まあ、何とかなるか」
三つ目の項目に『美味しい食べ物と飲み物』と記した。
「そして四つ目が昼寝や睡眠を邪魔されない環境と、よく眠れるように快適なベッドかマットレスが欲しいね」
戦士の頃はどこでも寝られる性格だったけど、温室育ちになってしまってからは、流石に地べたで寝ることはもう出来ない。
ベッドの良さは知ってしまっては、固い床や地面の上で寝るなんて行為は断固お断りしたい。
「今のベッドも申し分ないんだけど、前世ではな~、もっと凄いベッドやマットレスが存在したからね。上質な睡眠のためには欠かせない物だよね」
四つ目の項目に住居(快適で良質なベッドマットレス)と記す。
「五つ目は信頼できる使用人かな。」
お掃除や料理をしてくれる信頼できる使用人たち。
その人達が数人居てくれれば、何もしなくてもいい。
五つ目の項目に信頼できる使用人の確保と記す。
「六つ目は、読書が出来て大量の本が収納出来て、それでいてずっと引きこもれる部屋を作りたいかな」
出来れば飲み物とお菓子が沢山あって、ふかふかのソファとかも置けたらいいかな。
ミットリオは六つ目の項目に読書部屋を作ると記す。
「出来たっ!」
ミットリオは六つの項目を書いた計画書を頭上に上げる。
「これさえあれば俺は一生悠々自適な生活を送る事が出来るぞっ」
自分の将来を見据えたミットリオは、声を上げて満足げに笑った。
まだ五歳だというのに、どこかおっさん臭く感じる笑い声は、屋敷の裏手に良く響いたという。
「何笑っているの?」
「ひぇっ」
あまりにも大声を出したせいか、それを聞きつけたシュトラが屋敷の裏手に回ってきて、様子を確かめに来た。
「……ね、ねえしゃんっ」
「一人で屋敷の裏で何馬鹿笑いしているの? ミト」
ミットリオは姉のシュトラにバレないように、体の後ろで計画を書いた紙を高速で四つ折りすると、素早くポッケの中に入れた。
その間にもシュトラはどんどんとこちらに近付いてきており、ミットリオは背中に汗を流しながらも必死に平静を装った。
「……何か面白い物でもあったの?」
「……い、いや~ははっ……」
「……何か怪しい」
(不味いっ! 不味いっ! 何か適当な理由を考えないとっ! このままでは姉さんに計画書の事がバレてしまうっ!)
何かこの場を切り抜けるためのアイディアがないかと、周りを見渡していたミットリオは、たまたま目に入った切り株と大きな石を見て、頭の中にこの状況を切り抜けるアイディアが浮かんだ。
(これだっ!)
既に目の前に仁王立ちしているシュトラを見上げると、ミットリオは思い付いたアイディアを口にする。
「……あ、あれだよ、ちょっと筋トレの道具を作ろうとして、興奮して大声が出ちゃったんだよね……。ははっ……」
チラリ。
と言いながら姉の様子を覗うが全くの無反応。
(……駄目かっ……)
「筋トレっ!? 何それっ!!」
シュトラの瞳がキラリと輝く。
「それをやれば強くなれるの!?」
「え? まあ、多少は……」
「本当っ!?」
ぐいっと顔を寄せてくるシュトラ。
「どんな鍛錬なの!? 剣の素振りより効くの!? 今すぐ出来るの!?」
「ち、近い近い近いっ!」
ミットリオの言葉を聞いて途端に笑顔になるシュトラ。
あまりにも嬉しすぎて、ミットリオの顔に物凄く近くまで寄ってきている。
あまりにも近すぎてミットリオは思わず目が点になってしまう。
「ち、近いよっ、姉さんっ」
ミットリオに窘められ、シュトラは一旦落ち着きを取り戻す。
「あらごめんなさい。それで? 筋トレって一体何の事なの? 詳しく聞かせてミト」
「……筋トレってのは、文字通り筋肉をつけるためのトレーニングの事だよ。それをするための道具をここで作ろうとしてたんだよ」
「筋肉をつけるため? 剣や武術で筋肉をつけるのとは違うの?」
「それでも良いんだけど。ほら、どうしても鍛えにくい筋肉とかあるじゃん、そのために道具の力を借りるんだよ」
「ふ~ん、なるほどね。で? ミットリオはそれを持てるの?」
「……えっ、持てない……」
「じゃあ何で作ったのよ」
「ま、まあそれは、将来を見越してとゆうか……」
「……そう。なら母さんも呼んでくるわね」
「……えっ! 何でそうなるのっ!?」
「だって、剣と武術の稽古を見ているのは母さんじゃない。だったら母さんに話しを通すのは普通でしょ?」
「……確かに」
ちゃんとした理由にミットリオは何も言い返せない。
「じゃあ私は母さんを呼んでくるわね」
そう言うと、シュトラは金髪の長い髪を翻して屋敷の中に戻っていった。
「……あんな適当に誤魔化したけど良かったのかな」
ミットリオは自分の発言に疑問を持ったが、他にあの状況を切り抜ける手段がなかったので、自分の発言に目をつむる事にする。
そして数分後、シュトラがシトレアを連れて戻って来るのだが、何故かチェルスとアウドールも一緒に付いてきていて、ミットリオは家族の前で土魔法を使って、石と木のダンベルとバーベルを作り上げる事になる。
ミットリオが魔法でダンベルを作りあげているとき、アウドールとシトレアはミットリオの行動が気になった。
「……ミットリオ、無詠唱で魔法を発動しているのかい?」
「うんっ。詠唱するの面倒くさいし恥ずかしいもん」
「……そうなのかい」
「うんっ。詠唱するの面倒くさいし恥ずかしいもん」
「……恥ずかしい?」
「だって格好つけてるみたいじゃん」
「…………」
「…………」
アウドールとシトレアは揃って沈黙した。
魔導士達が人生を賭けて習得を目指す魔法の無詠唱化。
それを成し遂げた五歳の子供の理由が『恥ずかしいから』とは夢にも思わなかったのである。
「よし!」
アウドールとシトレアが呆けていると、シュトラがミットリオが魔法で作ったダンベルを抱え始める。
「明日から一緒に鍛えましょう!」
「え?」
「毎朝よ!」
「え?」
「私が付き合ってあげる!」
「え?」
「楽しみね!」
「……待って」
「何?」
「……俺、筋トレするとは言ってないよ」
「言ったじゃない」
「筋トレ道具を作るとは言った」
「うん」
「筋トレするとは言ってない」
「うん」
「…………」
「明日は日の出からね」
「そんな馬鹿なぁぁぁぁっ!」
こうしてミットリオは、自らの嘘によって朝の筋トレ生活を強制される事になった。
そしてしばらくの間ジュダレーム家では、シュトラやシトレアが筋トレにはまり、筋トレの文化が生まれるのだった。
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