第12話 骨折り損のミットリオ
村まではほぼ直線なので、ミットリオとシュトラの二人は、手を繋ぎながら道路をゆっくりと歩いていた。
その際、脇にある小麦畑が収穫前の時期を迎えており、黄金色の地面がどこまでも広がっていた。
そしてそこを抜ければ別の畑になっており、正に今何かの野菜の種を植える作業をしている農民が目に入った。
「じゃじゃじゃっ、めんこいわらすだなぁ」
「こんにちはー」
「こ、こんにちは」
シトレアとミットリオの二人を見た作業中の農民は、手を繋いでいる二人が可愛かったのか、にこやかな笑顔を向けてくる。
それに対してシトレアは気さくな挨拶をし、遅れてミットリオも挨拶をする。
(おおっ、農家の人は幾つになっても働き者だなぁ)
ミットリオは腰を曲げながらも、農作業をしている人を見て尊敬の念を抱く。
「ほら見てっミト。村の入口が見えてきたわよ」
(おおっ!)
シュトラが指差した方を見上げると、カーブの掛かった木製のアーチが村の入口のところに建っており、そこには『ようこそローランス村へ』と書かれていた。
(へえーっ、ここの村の名前はローランス村って言うんだ)
今初めて村の名前を知ったミットリオは、村の入口に立ちスキップで境界線を跳ねて越える。
「てゆーか姉さん、村に何かあるの?」
村です遊ぶのは良いのだが、何をするのか聞いていないミットリオは、隣のシュトラに見上げながら質問する。
「ある店に用があるのよ」
「ふ~ん」
ミットリオの手を引いて、シュトラは村の中をズンズンと歩いて行く。
途中知り合いの、同年代の女の子と遭遇し当たり障りのない会話をして、シュトラは目的の店の前で止まるのだった。
「……なにここ?」
「ここは村で唯一の武器と防具を扱っているお店よ。母さんに教えて貰ったの」
「ふ~ん、そうなんだ」
ミットリオが店の外観をしげしげと見ていると、ぐいっと急にシュトラに体を引っ張られ、危うく転びそうになる。
「姉さんっ、危ないよ」
「ああっ、ごめんごめん」
(……ん?)
そこでミットリオはシュトラの様子がいつもよりも違うことに気付く。
鼻息が荒く、どこか浮き足立っているとゆうか、興奮してるとゆうか、何か餌を前にした犬みたいな感じだ。
「すいませ~んっ!」
店の中に入ると店内には誰も居らず、シュトラが大声を出した。
「……ほ~い」
すると店の奥から大柄な男の人が出て来る。
(でかっ!)
身長が二メートルは超えてそうな大男が現れ、でかすぎる男にミットリオは露骨に引いてしまっていた。
前世の世界でもかなり大きい部類に入るの男は、もじゃもじゃのヒゲを生やしながら、前掛けで手を拭いて二人の前に現れた。
「おおっ! シュトラの嬢ちゃん! 良く来たなっ」
「はいっ。あれを取りに参りました」
「おおっおおっ、出来てるぜっ。ちょっと待ちなっ」
(……あれ?)
二人が会話をする中で、しきりにあれと言っている何かを、ミットリオは気になってしまい何の事なのかと頭を捻る。
「ほらよっ! 言われた通り木剣と真剣二本ちゃんと出来上がっているぜっ!」
ゴトンッ! とカウンターに木剣と布に包まれた真剣が置かれる。
武器屋の男が布を取ると、中からそれ程大きくないサイズの真剣が現れる。
太陽の光に反射して刀身がキラリと光っていた。
「わあ~っっ!!」
(ぐえっ!)
シュトラはカウンターに置かれたそれを、まじまじと近くで見詰め、とても嬉しいのか刀身と同じように、キラキラと瞳が光っていた。
そしてミットリオはと言うと、いきなりシュトラが引っ張った事で、手を引っ張られ体勢を大きく崩していた。
(んも~、姉さんってば体格差を考えなよっ。只でさえ最近は力を付けてきてるんだから……。それにしても姉さんが用があったのはこれか。だからあんなに興奮していたのか)
シュトラが興奮していた理由が判明すると、ミットリオは片手でやれやれといったポーズを取る。
「……ん? そっちの坊主は誰だ?」
ようやくここで武器屋の男は、ミットリオの存在に気付いたらしく、こちらに視線を向けてきた。
「ぐっ……、えと……僕はジュダレーム家の三男ミットリオ・ジュダレームです。どうぞよろしくお願いします」
ミットリオは一瞬デカい男に見られてたじろぐが、貴族として一応は挨拶をしないといけないと思い、軽く男に挨拶をした。
「……ほう」
男はそれだけ言うと右手でヒゲをなぞるようにして、ミットリオの全身を見据える。
(……怖っ! こんなでかい人に見られるの怖っ!)
ミットリオは全身から冷や汗を流しながら、男の視線に耐えていた。
一方姉のシュトラはいまだに真剣をずっと見ていて、こちらの様子には一切興味が無い様子だった。
やがて。
「ぶあっはっはっはっはっ!!」
男が大きく笑い出して腹を抱え出す。
「そこまでびびらなくても別に取って食いやしねぇって! 面白い坊主だなっ!」
武器屋の男は大きく口を開けてもう一度笑い出す。
どうやら冷や汗を垂らしながら、緊張していたミットリオの様子が面白かったらしく、男は腹を抱えて盛大に笑っていた。
(……ははっ)
当のミットリオは全く笑える状況ではなく、心の中で苦笑いをしていたが。
「ありがとう! アシュロさんっ! 今感触を確かめてもいいっ?」
渡された二つの剣を満足に見終わったシュトラは、ようやく剣から顔を上げて、アシュロと呼んだ男にお礼の言葉を述べていた。
「おうっ、裏に用意してるから好きにやりな」
「ありがとうっ! 着いてきてっミトッ!」
「わわわっ!」
シュトラは木剣と真剣を抱えたままミットリオを引き連れて、店の奥にズンズンと進んでいく。
ミットリオは無理矢理連れられてシュトラに着いていくしか選択肢はなかった。
ミットリオの強引なペースに合わせて歩いているので、ミットリオは何度も転びそうになる。
「わっ、わわっ、姉さんっ転んじゃうっ!」
「あっ! ごめんねミトッ」
一応は弟が危ないと分かったのなら、ちゃんと謝罪はしてくれるし、言ったら止まってくれるので悪気はないと思うのだが、最初から気を付けて欲しいとは思う。
店の奥へと進むと広い敷地があり、そこに藁と木で作られた人形が置いてあった。
そしてそれに向かって一人の少女が、木剣を打っていた。
「リーゼッ!」
「? ……あ、シュトラ」
シュトラはその少女の名前を呼ぶと、ミットリオの手を引いて気さくに少女に近寄っていく。
少女は人形に打ち込んでいた手を休めると、服を使って額の汗を拭きシュトラの事を迎えてくれる様子だった。
「見てっ! やっと自分の剣が持てる様になったの!」
「……おおっ。それは凄い、良かったね」
「でしょ!」
「……それはそうと、その子は誰?」
「あ……、忘れてた……」
シュトラに手を引かれているミットリオは、恐らく姉さんの友達であろう人物の前に立つと、彼女と目を合わせた。
茶髪の少し眠そうな目をした女の子が、ミットリオとシュトラの事を困ったように見比べている。
「この子はね私の弟っ。名前はミットリオって言うの!」
「……初めまして、ミットリオ家の次男、ミットリオ・ジュダレームと言います」
姉が適当に名乗ってくれたので、訂正の意味も込めて改めて自己紹介をする。
ぺこりとミットリオが頭を下げると、同じ様に向こうも慌てて頭を下げて名前を名乗ってくれた。
「……あ、えっと私の名前はリーゼ……です。初めまして」
ミットリオとリーゼがお互いペコペコ頭を下げていると、焦れったいと感じたシュトラが、強引に話しを切り替える。
「それでっ! リーゼッ! 私少し剣の感触を確かめたいのだけれど試してみてもいい!?」
「……うん。父さんに許可を貰ったのなら私は気にしない」
「ありがとっ!」
シュトラは笑顔を浮かべると、木剣を持って人形に真面目に打ち込んでいた。
(へえ、姉さんもあんな顔をするんだ)
剣を持っている姉の姿は見たことがなかったミットリオは、真面目に剣を振るシュトラの姿を見て、感心してしまう。
しかし、ミットリオはそんなことを思ったことを激しく後悔するのだった。
何とシュトラは夕方になるまで剣を振るっていたのだ。
これには着いてきたミットリオも激しく後悔し、お茶を差し入れてくれたリーゼも苦笑いをしていた。
結局シュトラは、ミットリオが強引に止めるまで剣を振るうことを止めず、駆け足で屋敷に帰るのだった。
そしてそこで待っていたのは、ミットリオに取って最悪と言っても言い出来事だった。
帰りが遅くなり、シトレアが二人を心配して小言が多くなったのは仕方ない。
しかしその後の夕食の席で言われた一言が、ミットリオに取って最悪や一言だった。
「ねえミットリオ、貴方も五歳になったのだからチェルスやシュトラと同じく、剣と体力を付けるための稽古を始めたら方がいいと思うの」
この言葉に、ミットリオは持っていたスプーン落として、激しいショックを受けた。
稽古の話しを無かった事には出来ず、シュトラのお出かけにも振り回されただけで、ミットリオは今日とゆう日を自堕落に過ごせなかったのである。
(くそうっ……)
ミットリオは半ばやけくそ気味に、夕食で出されたフレッシュな野菜のサラダと、いつも通り美味しいテールスープに食らいつくのだった。
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