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自堕落に生きると決めた貴族、何故か今日も忙しい ~高級自堕落貴族を目指す~  作者: 鏑右いなだ


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第11話 甘い誘い

 ミットリオの魔法の解禁から二年が経ち、無事に五歳の誕生日を迎えた頃。

 ジュダレーム家があるローランス村は、初夏の季節へと移り始め村民達は野菜や果物の畑の準備や、小麦の収穫などに勤しんでいた。


 

 そして五歳になったミットリオはというと、普段と変わらずに本を読みながらソファの上でくつろいでいた。


 時折はちみつミルクを入れたコップを、無属性魔法で器用に運び、飲みながら魔法の本に夢中になっていた。


「なるほど、要は魔法を無詠唱で使いたいと思ったら、気合いと根性でどうにかするしかないって事か」


 ミットリオは今正に読んでいた本から顔を上げて、一人納得したような表情をする。

  ミットリオが読んでいる本、題名は『効率良く魔法を発動するには』に書かれている内容だと、無詠唱で魔法を発動出来る人間は限られており、その中の殆どの人間がいつの間にか出来たとか、長い時間を掛けたとか、出来ると思っていたら出来たとか、抽象的な事しか書かれておらず、技術的な事が一切書かれていなかった。


 これはこの本だけに限らず、他の本でも同じ様な事が書かれているので、恐らくだが無詠唱で魔法を発動出来る技術は、この世界ではまだ確立出来ていないのだろうと推測できる。


「まあ、慣れるまでが結構難しいのかな?」


 そう言いながら、ミットリオはまた自分の口に魔法ではちみつミルクを口に運ぶ。

 その際、魔法を発動する時に詠唱はしていなかった。


 (多分文化や先入観の問題なんだろうけど、この世界の人は魔法はこう使うもんなんだと思い込んでいるのかもしれないな。実際元の世界でもそうゆう教えはあったしね)


 ミットリオは、前世で一応それっぽい魔法はアニメや漫画、映画などで目にしているので楽にイメージ出来るのだろう。

 そしてそれが、魔法を無詠唱で発動するとゆう行為に繋がっているのではないかと考えている。


「実際、いちいち言葉に出すのはめんどくさいし恥ずかしいもんね~。最初はかっこよく魔法を使いたい、とか思ってたけど、今はそうは思わなくなってきたな」


 

 そこでミットリオは魔法でコップをテーブルに置いて、読んでいた本を閉じた。


「さてと……」


 ミットリオは真面目な顔になり、全身に気合いを漲らせる。


 (いつでも来いっ!)


 無属性魔法を部屋の扉の前で発動させると、扉を中から塞ぐように魔法を配置する。

 ミットリオが魔法を発動させて待機していると。


 バアンッ!!


「あれ? 開かない?」

 

 バアンッッ!!


「……どうしたのミト? 変な顔をして……」


 必死に発動させていた無属性魔法も、勉強が終わって尋ねてきたシュトラの前にはまるで意味が成さなかった。


 (姉さん、どんどん力を付けてるな……)


 もうすぐ八歳になろうかとゆう姉は、扉を押さえつけていた無属性魔法をいともたやすく破って、部屋の中に入って来たのだった。

 そして五歳の頃から、毎日母親のシトレアに剣の稽古を付けて貰っているシュトラは、日を追う毎に全身の力とスピードが増していき、今のミットリオの魔法では太刀打ちが出来ないのである。


 (くっ……。あと数年……あと数年あれば……、もう少し魔法が上手く使えるのに……)


 ミットリオは一人悔しい顔を浮かべる。

 そんなコロコロ変わるミットリオの表情を、シュトラは不思議そうに眺めていた。

 


「ねえミト、私と村の中心まで遊びに行きましょうよっ」


「いやだ」


「……何でよ」


 自身の誘いを素気なく断られた事で、シュトラは一気に不機嫌になり全身から不満を露わにした。

 ここのやり取りは、小さい頃から何年経っても変わることのない、いわばこの姉弟の中の定石となっていた。

 

「僕は部屋で本を読んでいる方が楽しいから、村まで歩くのは少しめんどくさいよう」


 ソファに座りながらそう言うミットリオの態度は、とてもムカつくモノで、毎回これを聞いているシュトラ曰く、ほっぺをつねってやりたいと思うほど腹立たしいモノらしい。


「そう」


 しかし今日のシュトラはどこか雰囲気が違く、いつもよりも余裕な笑みを浮かべていた。


「じゃあいいのね。このまま母さんがあんたのところに尋ねてきても」


「……? 別にいつも母さんは僕の部屋に尋ねて来るじゃん」


「今日は違うと思うわよ?」


 謎の自信を持って告げるシュトラの態度に、ミットリオは意味が分からず頭を捻る。


「ミットリオ、あなたこの前五歳になったわよね」


「……そうだけど?」


「……なら始まると思うわよ?」


「……何が?」


 そこまで言ってシュトラは会話を止めてしまった。

 少し冷や汗をかき始めたミットリオは、続きが気になってシュトラに会話の続きを促してしまう。


「……一体何が始まるのさ」


 シュトラはミットリオの言葉にたっぷりと時間を溜めると、大きく息を吸い込んで衝撃の一言を放つ。



「剣と体力を付ける稽古の事よ」 



 ピシャアアアアッッッン!!!

 その一言を聞いた瞬間、ミットリオの体に稲妻が走った。


「…………け、剣……のけいこ?」


「そうよ。私や兄さんと同じ五歳になったのだから、同じ様に稽古が始まると思うわよ? 今日の朝そうゆう風な話しを母さんがしていたから、きっともうすぐここに尋ねて来ると思うわよ?」


「……えっ? ……でもほら……数年前から魔法の稽古はしてるじゃん……?」


「それは特別に父さんがやらせているからでしょ? それと剣の稽古は別でしょうが。それに私達も魔法の稽古はしているからね。貴方もきっと同じになるわよ」


 そこまで聞いたミットリオはソファから崩れ落ちると、床に手をついて落ち込んでしまう。 


 (……まさか、俺も剣の稽古をする事になるとは……。魔法の稽古で十分なのに……、自堕落な生活を送るとゆう俺の夢が……、今正に壊されようとしているのか……?)


 床に手をつきながら悔し涙を流すミットリオを、シュトラは冷めた目で見守っていた。


「だから私と村に遊びに行きましょうと言っているの」


「……えっ?」


「今なら母さんもまだ着替えているだろうから、デフィーに一言残して遊びに行きましょうよ。そうすれば母さんからそんな話しを聞かなくて済むじゃない」


 (お姉さまっ!!)


 さっきまでいつもの姉に見えていたのが、今度は女神の様な神々しさを放ち出した。

 ミットリオはうれし涙を流しながら、シュトラに向かって片膝を付くと喜んで遊びに付いていく旨を告げる。


「お姉さま。どこまでも私は遊びに着いていきます」


「……ん。なら急いで着替えなさい」


「了解しましたっ」


 ミットリオは急いで行動に移すと、シトレアが尋ねてくる前に遊びに行くための準備を終える。 


 赤ちゃんの頃から一緒に行動しているので、ミットリオが何を言えば喜ぶのか、シュトラは把握している。

 良いように姉の手の平で転がされていると、気付かないミットリオは嬉しそうに遊びに行く準備をしているのだった。


 ミットリオとシュトラの二人は、母親に見つからない様に階段を降りると、デフィーに一言遊びに行くとゆう旨を残して、代わりにお茶が入っている水筒と汗を拭くためのタオルを受け取って、村へと遊びに出かけた。


「ほらっ、ミトッ」 


「んっ」

   

 その際まだ小さいミットリオのために、シュトラが手を繋いで上げて、二人は仲良く村までの道を歩くのだった。






 



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