第10話 魔法への憧れ
「ふんふんふーん」
三歳になったミットリオはソファの上に座りながら、本を抱えるように持って読んでいる。
とても楽しいのか、鼻歌を歌いながら足の指が器用にクネクネと動いていた。
今見ているのは魔法についての本で、この前アウドールとシトレアにプレゼントして貰った本は、ほぼ全て読み終わってしまい、この魔法の本を最後に残して置いた。
他の本はある人物の英雄譚や、この国が出来た過程の物語などだったので、比較的早く読み終わってしまったのだ。
それにしても、前世ではあまり文字を読む事が得意ではなかった筈なのに、何故か今生では本を読むのはあまり苦では無くなっている。
(これも子どもの体とかが関係しているのかね……)
子供は吸収が早く飲み込みも早いとゆうので、今のミットリオは知識を物凄い速度で学んでいるのかと考える。
「しかし、まほうってゆうぶんかはおもしろいね」
魔法の本を読みながら、この世界独自の文化である魔法について、ミットリオは感心する。
前の世界では物語の中でしか現れなかった魔法が、この世界では当たり前に使われている。
ミットリオは魔法について、物凄く興味を抱き始めていた。
(この本に書いてある通りだと、魔法は三歳の頃に近親者や近しい者から魔力を分け与えて貰い、自覚をするようになる。そして徐々に年齢を重ねて行くと、魔力の量も増え難しい魔法も扱えるようになる。それと魔力は使えば使うほど相対的に魔力量も増えていく。ふんふん……、そこは筋肉と同じ感じなのかな?)
ミットリオは魔法の本を読みながら、シュトラがくれた木製のカップに、ホットミルクを入れて合間合間に飲んでいる。
(そして基本の魔法は、火魔法、水魔法、風魔法、土魔法、無属性の五大魔法で作られており、稀にそれらを組み合わせた別属性の魔法も存在すると。……雷魔法とか無いのかな? それに魔法は詠唱をするのが一般的であり、無詠唱をするのには長い時間と集中を要する。……詠唱とか面倒くさいし恥ずかしくない?)
ミットリオは自分の体に雷を纏って、かっこよく移動する姿を想像する。
しかしその前に、いちいち魔法を詠唱するのを思い描くと、一気に恥ずかしくなってくる。
(魔法は人の生活の一部として使われるようになり、社会や信仰、伝統文化作るようになったと。魔獣からも身を守れるようになり、食糧も大量に生産出来るようになり国や都市のそこら中に作れるようになりましたと。……凄いね魔法って)
ミットリオはバムンッと本を閉じると、右手に魔力を集めてみる。
「むむむっ!」
熱いモノが心臓から右手に流れる感覚を掴むと、右手に風魔法を発動してみる。
「ウインドッ!」
すると手の平に小さな風が起こると、ブワッとミットリオの周辺に突風が巻き起こり、その瞬間ミットリオの髪の毛を盛大に揺らした。
「わははっ!」
ミットリオは楽しくなり、それから何回も風魔法を発動させてみる。
するとその後に待っていたのは魔力切れで、ミットリオは気持ち悪くなりソファの上で、青白い顔をしながら横たわっていた。
「……やばいきもちわるい」
前に魔力切れで倒れた時程ではないが、それでも魔力切れとゆうものは気持ち悪いらしく、ミットリオは調子に乗って魔法を連発したことに後悔していた。
(これは夕食まで少し眠らないと駄目だな……)
体調が悪すぎてそう判断したミットリオは、シトレアが夕食の時間だと呼びに来るまで、体調を回復させるために眠りに就いた。
「ミットリオ何かあったの?」
「うん?」
今正にニカラお手製のミートソースのパスタを口に運ぼうとしていたミットリオに対して、シトレアが何か気になったのかそんな質問をしてくる。
因みにパスタと言っても麺のようなモノでは無くて、ヨーロッパで食べられているリボンのような形をした方のパスタである。
それとサラダとテールスープが今日の夕食だ。
そしてミットリオはまだ幼児なので、全てがミニサイズになっている。
「少しミットリオの顔が白いから具合でも悪いのかと思って。それにいつもよりも不機嫌そうな顔をしているから」
「確かに、今日のミットリオは少し大人しいよね」
「やっぱりチェルスもそう思うかしら」
シトレアは食事の手を止めて、ミットリオの顔を覗いてくる。ついでに額に手を当ててミットリオの熱を測るのも忘れない。
「……なんともないよ?」
ミットリオは、まさか魔力切れでさっきまで体調を崩して寝込んでいました、なんて言える筈がないので何も言わずに隠し通すことにした。
「……本当かしら? アウドールはまだ帰ってこないし、少し困ったわね」
今日の午前中はアウドールは村の視察に行っているので今はいない。
だが夕食までには帰って来ると言っていたので、そろそろ帰って来るかもしれない。
「ただいま帰ったよ」
そんな事を思っていると、丁度良くアウドールが帰ってきて食卓の前に現れる。
「ああっ。お帰りなさいアウドール。丁度良かったわ、ミットリオの体調を見て欲しいの」
「ミットリオがどうかしたのかい?」
「何だか顔色が悪くて、いつもよりも不機嫌そうなの」
「本当かい?」
(……不味い、このままではバレてしまう……)
二人の会話を聞いていたミットリオは、テールスープを口に運びながらそう思う。
「なんともないよっ。げんきだよっ」
ミットリオは自分の体調を調べられないように、無邪気に幼児らしく笑顔を振りまいてみた。
しかしアウドールはそれを逆に不審に思ったらしく、無言でミットリオの体調を魔法で調べ始めた。
(あれっ!? 効果無し!?)
渾身の笑顔も不発に終わり、ミットリオはアウドール魔法を掛けられながら、引きつった顔をする。
「…………ミットリオ。黙ってやったのかい?」
やがてミットリオの体を調べ終わったアウドールは、何があったのかを察し、真面目な顔をしてミットリオに聞いてくる。
「……うん。ごめんなさい」
「……前にきつく言った筈だよね。安易に魔法を発動させてはいけないと。聞いてなかったのかい?」
「……きいてました」
しょんぼりとするミットリオに、アウドールは少し溜息をついた。
「……どうゆうこと? アウドール」
状況について行けてないシトレアが、気になってアウドールに尋ねてくる。
「ミットリオはまた魔力切れを起こしたのさ。とゆう事は僕らに隠れて魔法を使ったとゆう事になる」
「まあっ!」
シトレアはアウドールの言葉を聞いて、驚いたような嬉しいようなそんな喜色の声を上げる。
「……今は夕食の時間だからね、この話はまた後にしようか」
しかしそこでアウドールが、話を止めた事で一旦ミットリオの件は止まることになり、皆は夕食を食べ進める事になった。
しかしアウドールは夕食の間一言も離さず、それを察してかチェルスも黙っていて、シュトラはチラチラとアウドールの様子を気にしていた。
シトレアは何故か一人だけ、少し笑顔でいたが。
そして当のミットリオは静かにスープを飲んでいましたと。
「ミットリオ入るよ」
夕食も食べ終わりそれぞれが部屋に戻ると、ミットリオはまた魔法の本を読んでいた。
そこにアウドールとシトレアが部屋に尋ねてくる。
少し深刻な顔をしたアウドールとニコニコと笑顔のシトレアが対照的に映った。
(魔力切れの件だよね……?)
先ほどの夕食の話しの続きだと思い、ミットリオは読んでいた本を閉じて横に置いた。
そんなミットリオをアウドールは一瞥するように、本とミットリオを交互に見た。
「……ミットリオは魔法が気になるかい?」
「えっ……、んーー……、うんきになる……」
突然魔法の事について聞かれたので、ミットリオは思っても見ない質問に驚いたが、しっかりと自分の答えを言った。
「そうかい」
アウドールはそれだけ言うと、ミットリオが座っているソファの隣に座ってくる。シトレアも同じ様にミットリオの隣に座る。
左右を両親に囲まれたミットリオは、どうすればいいのかと悩んでしまい、何故か冷や汗をかいてしまう。
「来週から、ミットリオも魔法の稽古に加わるかい?」
「えっ!?」
「アウドールと話し合ったのだけれど、きっとミットリオはまた私達に隠れて魔法を使うでしょうから、ならば私達が目の届く範囲でやらせた方がいいって決めたの。だからミットリオも魔法の稽古に参加してみる?」
「いいのっ!?」
「うん勿論。勉強や剣の稽古とか体力の稽古はまだだろうけど。簡単な魔法の稽古だったらやってもいいと思うんだ。勿論ミットリオがやると言うのならばだけど」
「やるっ! けいこやるっ!」
「そうか、嬉しいよ。なら来週の初めからチェルスとシュトラと一緒に魔法の稽古をするとしよう」
アウドールは先ほど迄の真面目な顔付きから一転して、優しい笑顔になりミットリオの頭を撫でてくれる。
そしてシトレアもミットリオの左手を、優しく両手で包んでくれた。
やがて目的の話し合いとスキンシップを終えた二人は、部屋から立ち去って行った。
そしてミットリオはと言うと、あまりの嬉しさに本を抱きながらソファの上で、コロコロと転がっていた。
そのままミットリオは幸せそうな顔で眠りに就くのだった。




