京都・三条大橋 その2
一方、ユラは。
「くっ、腕が自由にならん」
「ふん!この間はよくもやってくれたな」
「む、お主、生きておったか」
ユラの後ろに、黒い影が。
日影ウスオである。
ユラは右手首を、ウスオにガッチリ掴まれていた。
「むう、この私に気配を悟られぬとは」
持ち前の影の薄さを、最高度に薄くした彼は、同じ忍者のユラにさえ、その存在を気づかれることなく、近づいたのだった!
「観念せよ。お主の悪事、ミケタマの前で洗いざらい喋ってもらう」
「ほう、そううまくいくかな?」
「忍法・二人羽織の術で、お主を操る」
「そうは行くかな?このセミたちは、ただのセミではないぞ。私が命令すれば、たちまちお主に齧り付く」
「指揮棒は我が手の中だ」
「甘いな。秘技・双鞭のシンフォニー!」
叫んで、ユラは左手を懐に突っ込むと、もう一本の指揮棒を出した。
だったら、早くそれをすればいいものを。
「セミたちよ、風魔忍者を、やっつけろ!」
「くっ!」
セミの攻撃に身構えるウスオ。
だが、いくら待っても、セミたちは襲って来なかった。
「どうした!?セミたちよ、なぜ攻撃しない?」
ユラの問いに答えるかのように、情けない蝉時雨が響いた。
シュン、シュン、シュン、シュン、シュン…………。
当然である。
ミケタマに嫌われたら、シュンとなってしまう。
「おい、セミたちよ」と、ウスオは呼びかける。「我が味方にならぬか。こやつの悪事を暴き、一緒にミケタマに気に入られようではないか?」
たちまちセミたちは元気を取り戻した。
ミーケ、ミケミケミケ……!
ターマ、タマタマタマ……!
「よし、交渉成立だな」
ニヤッと笑うウスオ。
だが。
「なにお、こうなれば、手段は選ばぬ。出でよ、甲賀忍者軍団!」と叫ぶユラ。
ワラワラと、甲賀忍者の集団が現れ、ウスオを取り囲んだ。
「フハハハハ、どうだ見たか。これがお主には絶対にない友達というものだ!」と、ユラは高笑い。
形勢逆転、またしても窮地に陥ったウスオかと思われた、そのとき。
ドドドドド……!
遠くから、けたたましい音が聞こえてきた。
何事かと、ウスオとユラが振り返ると、雪煙を上げて、近づいてくる何者かがいた。
「ミケコさーん!タマコさーん!」
金のシャチホコにまたがり、猛スピードで近づいてくる、ボンボンが一人。
髪は乱れ、服はボロボロだが、あの男に違いない。
「お待たせしました、弥次喜多一茶、ここに参上!」
多羅尾ユラの術により、金のシャチホコに乗せられたまま、中国の黄河流域まで行ってしまった彼。
が、どうにかこうにかシャチホコたちを説得し、つい今朝方、瀬田川を遡り、琵琶湖まで戻ってきたのであった!
「僕はバカであった。二匹の金のシャチホコと共に旅をし、気付いたのであった。金シャチは二匹で一体。ミケタマも二人で一つ。どちらか片方だけものにしようなどと考えることは、これすなわち、まさに天に対する冒涜、宇宙に対する反逆に他ならず!この弥次喜多一茶、ミケタマを両手の花にして、ムフフでムハハでムヒャヒャハハのために生まれてきた男!今こそ天命を受けて、帰ってきましたよーっ!!ミケコさーん!タマコさーん!」
「坊っちゃん、よくぞそのことに気づかれました!さすがは七代目弥次喜多グループ当主になられる男!普通のスケールでは収まりませぬ!まるで天下人家康、いや、秀吉、信長、ナポレオンを合わせても、坊っちゃんにはかないませぬぞお〜!!」
もう一体のシャチホコには、ちゃんと歌井鱒之助が乗っていた。
彼もまた、ボロボロになりながらも、一茶と共に黄河流域まで行って帰ってきたのであった!
「な、何だ、あれは……!」
百戦錬磨のユラも、さすがに怖くなった。
「待て、他にも何かいるぞ」と、ウスオ。
一茶の後ろに従っているのは、名古屋城で戦った、伊賀忍者集団だ!
「伊賀忍者たちよ、邪魔者どもを、一網打尽にするのだあーっ!!」
ほとんど錯乱状態の、一茶が叫んだ。
「こうしちゃおれん。お先!」
ウスオはミケタマを追いかけ、先を急いだ。
セミたちがそれに従う。
「あ、待たぬか!」
ユラも後を追う。
甲賀忍者軍団は、少し迷ったが、ユラについていくことにした。
「ミケコさーん!タマコさーん!今、一茶が参りますよーっ!待っていてくださーいっ!」金シャチに乗った一茶がそれを追う。「お前たち、敵を蹴散らせーっ!」
その後を、伊賀忍者軍団が追いかける。
もう、わやくちゃだ。




