大津 その1
琵琶湖から唯一流れ出る、瀬田川。
その瀬田川にかかるのが、瀬田の唐橋である。
豊橋、矢作橋と並ぶ、東海道三大橋であると同時に、昔から、瀬田の唐橋を制するものは天下を制す、と言われたように、古来より東西の交通の要所であった。
そのため、歴史上、何度も血生臭い出来事の舞台として登場することになる。
古代では壬申の乱で、大海人皇子と大友皇子の最後の決戦の舞台となり、中世では、源平騒乱の際に、義仲軍と範頼軍がここで刃を交え、近世では、本能寺の変の後、安土に攻め入ろうとする明智光秀が、橋が落とされたことにより、足取めを食った。
伝説では、藤原秀郷が、大ムカデを退治したことで有名だ。
そんな瀬田の唐橋も、近未来では、琵琶湖の絶景を望めるゲレンデとして、観光客に人気である。
「ヒャッホー!陸路にして、良かったわね」と、ミケコは言った。
「絶景かな、絶景かな。風が冷たくて気持ちいいわ」と、タマコもすっかり気分が良くなったようで、橋の上から見える景色を楽しんだ。
「何だったのかしら、さっきの霊感は?」
「うーん、今は何ともないんだけど、さっきはすごく嫌な予感がしたのよね」
さすがはタマコの霊感である。
ウスオがあんな登場の仕方をすれば、歴史が捻じ曲がるほどの禍々しい空気がそこに満ちていたに違いない。
唐橋を渡り切り、琵琶湖に沿って北上する。
舟であればそこに着くはずであった、石場の渡しに到着する。
近くには、木曽義仲を供養した義仲寺、明治時代に起きた事件を伝える、大津事件の碑が立ち、ここ大津が歴史上何度も重要な舞台になってきたことを忍ばせる。
「ねえ、ミケ。昔、大津にも都があったのよね」
「そうよ。天智天皇が近江に遷都したのよね。ここよりちょっと北に行ったところが、大津京だわ」
そんな歴史あふれる大津で、この旅最後の宿泊をする。
大津の本陣にチェックインした。
「さあ、食べるわよ。東海道中ラストディナー!」
「近江牛、近江牛、近江牛!」
ミケタマが最後の晩餐に選んだのは、滋賀のブランド・近江牛のフルコースであった。
「B級グルメ、大好き!」
「観光地の食べ歩きも、大好き!」
「でも、長い旅を越えてきた後の高級食材は、やっぱりたまんないわね」
「お酒もね(ハート)」
まるで長い禁欲生活が解けた後のように、肉にかぶりつく。
「ホルモン焼肉は、新鮮なればこそよ!」
「やだあ、いい女は、焼肉でウンチクなんか言わないのよ」
「油、したたる、いい女!」
「タンに、カルビに、いい女!」
「見てよ、この霜降り。しゃぶしゃぶが最高!」
「お口に入れたら、もうとろけちゃった」
「関西風のすき焼き!」
「サーロインは、ステーキで」
「焼き加減は、何にする?」
「レアで、ミディアムで、ウェルダン」
「ヒレは?」
「シャトーブリアン」
「いやん、贅沢!」
「だって、おいしいんだもん」
まるで食欲と今生の別れでもするように、本能を解放した。
「あー、食べた、食べた」
「飲んだ、飲んだ」




